【来た!見た!書いた!】 今後の原発再稼働で焦点になる「地元」と「安全協定」

原発再稼働で出た新たな「同意対象」の範囲

 原子力発電所を「重要な電源」と位置付け、原子力規制委員会の安全審査に合格した原発については再稼働を推進してきた自民党の安倍晋三政権。今回の総選挙では、その「原発再稼働」の姿勢が問われることになる。仮に自民党が政権を維持することになれば、九州電力の川内原発(鹿児島県薩摩川内市)のケース以上に「地元とは何か」が焦点になるだろう。
 11月7日に鹿児島県が再稼働に同意した九電の川内原発。2011年3月の東日本大震災をきっかけにできた新しい規制基準のもとでの初の再稼働であると同時に、「再稼働に必要な地元同意の範囲がどこまでか」――が問題になった。
 震災前、電力会社が事故や定期点検で止まった原発を再稼働するときには、原発が立地する市町村と同県から同意を得ていた。電力会社は立地自治体と「原子力安全協定」を結び、増設などの際の事前協議を約束してきたからだ。
 新規制基準ができる前、2012年夏に再稼働した関西電力大飯原発(福井県おおい町)のときも、さまざまな議論があったが、結局同意の範囲は立地自治体である福井県とおおい町のみだった。


福島以後広げられた「30キロ圏」で強まる自治体の意志

 同意の範囲についての考えが大きく変わるきかっけになったのが、東日本大震災のときの東京電力福島第1原発の事故だ。原発に近い地域だけでなく、東北から関東の広い範囲に放射性物質をまき散らした。
 この事故を踏まえ、2012年10月に改訂された原子力災害対策指針では、住民の避難計画作りを義務付ける自治体の範囲が、従来の「原発の半径8~10キロ圏」から「30キロ圏」に広がった。
 30キロ圏の自治体は急きょ、避難計画をつくらなければならなくなった。そのための費用もかかる。にもかかわらず電力会社が再稼働を事前協議する対象には入らない。
「それはないだろう」ということから、30キロ圏で同意対象にしてほしいという自治体が急増した。川内原発の場合、30キロ圏には薩摩川内市を含め9つの市町がある。9月末にはいちき串木野、日置の両市議会が同意に含めることを求めた意見書をまとめ、知事に提出した。さつま町も同様の検討をして、出水市は周辺市町に「地元扱い」を呼びかけるなどした。
 だが鹿児島県の伊藤祐一郎知事は「同意の範囲は鹿児島県と薩摩川内で十分」という持論を最初から最後まで崩さなかった。


川内原発のように立地自治体の同意だけですむのか

 10月末には、30キロ圏市町の首長が九州電力の瓜生道明社長と相次いで会談する機会があった。見ようによっては、同意の問題を訴える絶好の機会だったが、どの首長もそのことには触れなかった。同意の対象になれば、原発事故時には自治体や首長側が重い責任を負うことになる。責任を負うことを嫌ったことや、さまざまな交付金や公共事業の拡大など、経済的な支援の優先を望んだためとみられる。
 鹿児島県の伊藤知事は再稼働に同意した11月7日の記者会見で「原発の知識の薄いところで結論を出すのは錯綜(さくそう)するだけで、賢明なことではない」と語った。
 自民党政権にとっても、電力会社にとっても、交渉の相手が多くなり、より多くの時間を必要することになる「同意範囲の拡大」は避けたい――というのが本音だろう。菅義偉官房長官は鹿児島県の再稼働同意後、「川内原発の対応が基本的なことになる」と語っている。
 だが仮に自民党が政権を維持できたとしても、今後再稼働を進める原発について、川内原発のように「立地自治体だけの同意」ですむかは、予断を許さない。


焦点となる安全協定の形

 川内原発に続いて再稼働の準備が進んでいる関西電力の高浜原発(福井県高浜町)。ここは川内原発とは違い立地県の福井県だけでなく、舞鶴市や綾部市、京丹波町などの京都府、高島市などの滋賀県が30キロ圏に含まれる。鹿児島県知事だけでなく、京都府や滋賀県の知事も発言力を持つことになる。その京都府の山田啓二知事は「立地自治体に準ずる強い権限を盛り込んだ安全協定を結ぶまで再稼働を認めない」と話している。滋賀県の三日月大造知事も「(自治体と電力会社が結び、同意の根拠となる)安全協定の締結に粘り強く臨む」」と主張している。
 安全協定はもともと1969年に東京電力と福島県が福島第1原発について結んだのが最初で、法的拘束力や罰則規定をもたない「紳士協定」だ。立地自治体との間で、増設などの事前協議は約束しているが、文言の上では「再稼働のときには事前協議する」とも書かれていない。
 だが長年の積み重ねから紳士協定の「安全協定」こそが、立地自治体に再稼働の同意を得る「根拠」になっている。伊藤・鹿児島県知事が同意の範囲を立地自治体に限る考えにこだわったのも、川内原発周辺で増設などのときに事前協議を約束する条項を備えた安全協定を九電と結んでいるのは鹿児島県と薩摩川内市だけだったからだ。
 このような自治体側が強い権限を持った安全協定を結べるかどうか。高浜原発の再稼働では、「同意の範囲」の問題の前に、まずこの「安全協定の形」が焦点となりそうだ。


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