【来た!見た!書いた!】「よそ者が、地元の人よりも「地域の魅力」に気づく理由」

映画になった高知県の県庁

 高知県庁に実在する「おもてなし課」を題材にした映画「県庁おもてなし課」が5月11日、公開された。原作は現在公開中の映画「図書館戦争」と同じく有川浩の小説だ。高知県庁は、観光促進を目的に「おもてなし課」という新しい部署をつくる。そこに配属された、やる気はあるが、いまひとつ要領が悪い掛水史貴(錦戸亮)が、アルバイト女性の明神多紀(堀北真希)や高知県出身の人気作家の吉門喬介(高良健吾)、上司や先輩職員らとともに、高知県の地域おこしや魅力の発信に奮闘する姿を描いている。
 映画はまだみていないが、2年前に出版された原作はとても面白かった。

 この小説の中に、県庁の観光アドバイザーとなった「伝説の元県庁職員」の清遠和政(映画では船越英一郎が演ずる)が、おもてなし課の掛水と多紀を呼び出し、高知市の日曜市を連れて回る場面がある。映画でも日曜市は、掛水と多紀が距離を縮めていく重要なシーンになっているようだ。
「人に揉まれて疲れるだけやないですか」と面倒がる掛水に、吉門は「揉まれるばぁ人が毎週集まる、ということよ。ちょっと視点をリセットしてみい」と話し、南アジアに来た気分で日曜市を眺めることを勧める。市に並ぶ店を冷やかしたり、ツガニ汁を食べたりするうちに、2人は高知の日曜市が「郷土色の強い立派な観光資源」だということに気づく。

300年以上の歴史を持つ日曜市の魅力
 このシーンに代表されるように、原作では清遠や吉門に連れられ、掛水や明神が地元の出身であるが故に気づいていなかった「高知ならではの魅力」に段々と気づいていくことが、物語を推し進める力になっている。地元の人たちが、どっぷりとその地域に浸かっているからこそ気づかない魅力というのは、常にあるものだ。
 掛水や多紀が訪れた高知の日曜市は300年以上の歴史を持つ。毎週日曜日、高知城の追手門から伸びる追手筋という通り1.3キロの道の片側を使い、対面で500から600もの店が並ぶ。店先に並ぶ野菜や果物も、外の人から見ると「見慣れないもの」が多い。私がブンタンのさわやかな味を初めて知ったのは初めて市を訪れたときだったし、やはり市で食べさせてもらった徳谷トマトは関東のトマトとは別のもののように思えたものだ。
 高知を扱った観光ガイドが必ず大きなスペースを使って紹介する代表的な観光地だが、地元の人たちは意外と「日曜市のどこが面白いのか」などと思っている。高知市民に日曜市のことを話すと「昔は行ったけれど、今はわざわざ行かんなあ」とか「意外と、スーパーより値段が高かったりするがですよ」といった答が返ってくるのだ。


誰も行かないような辺鄙な場所が観光地になった
「地元の人が気づかなかった観光資源」という意味では、2011年7月に高知県四万十町にオープンしたフィギュア展示館「海洋堂ホビー館四万十」はもっとすごいかもしれない。
 当初は年間3万人程度の来館を目標にしていたが、4月には累計来館者が15万人を超えた。しかしこの施設ができるまでは、だれ1人としてこの場所が観光地になり得るとは考えもしなかった場所だからだ。
 四万十町は清流・四万十川の中流域として、その知名度は全国的にもそれなりにあるところだ。ただ四万十川はそれこそ「清流」が売り物で、観光客がとりあえずの目的地とするような施設には乏しい。町内には宿泊施設すらほとんどないのだ。
 3月、この海洋堂ホビー館四万十を初めて訪れて、驚いた。比較的高知をよく知っている私ですら、施設ができる前には行こうとも考えなかった場所だからだ。
 最寄り駅は高知県の窪川と愛媛県の宇和島とを結ぶJR予土線の打井川駅。列車は1日片道数本しか通らない無人駅だ。施設は、ここからさらに細い山道を5キロほど車で走った所にある。道は高知特有の車1台分の幅しかないくねくね道で、ときどきすれ違うために道幅が広くなっている。「前から車が来たらどうするか」と心細くなるような道だ。そんな道を20~30分ほど走って、ようやくホビー館にたどり着いた。

過疎地の廃校をいきなりミュージアムに
 ホビー館は、精巧なフィギュアの製造で知られる大阪府門真市の海洋堂が、四万十町打井川の廃校になった小学校を利用して開業した。体育館などを改造した建物には、アニメや特撮のキャラクター、菓子のおまけ「食玩」など1万5000点のフィギュアが並ぶ。
 秋葉原にフィギュアのミュージアムがあっても、驚きはない。だが、ここは四万十川流域の山の中。それこそ豊かな自然以外には何もないところだ。高知の山奥の廃校跡にフィギュアのミュージアムがあるという驚きで、県内外から老若男女が集まる名所に育った。
 海洋堂の創業者でホビー館の館長を務める宮脇修氏は高知県黒潮町の出身。修氏は亡くなった父親の出身地である打井川を、四万十町の関係者に案内してもらったときに廃校になった小学校に出会い、「ここをホビー館にするんだ」と突然ひらめいたのだという。当初は周囲の誰もが反対したが、実際に開館して人が集まり始めると、そうした声は消えていった。
 日曜市の再発見にしろ、四万十町の山奥にフィギュアのミュージアムをつくろうという発想にしろ、地域の魅力に気づくのは地元にどっぷり浸かった人ではなく、よそ者だったり、長くよそで暮らして「外の視点」を持ったりしている人なのだ。

(2013年5月15日)


トップページ -> 地方経済の視点 -> 【来た!見た!書いた!】「よそ者が、地元の人よりも「地域の魅力」に気づく理由」