【来た!見た!書いた!】人類史上初めての少子高齢化を原因とした人手不足が起こっている

有効求人倍率が過去最高値を更新した意外な県

 厚生労働省が8月29日に発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)は1.10倍と前月と同じだった。20ヵ月ぶりに改善が止まったものの、22年ぶりの高い水準を保っている。全国がこんな状況の中で、7月までの3ヵ月連続で有効求人倍率の過去最高値を更新した都道府県がある。
 1.62倍と、前月より0.06ポイント上昇し全国一となった東京都だろうか。違う。東京都は前回の雇用環境のピークだった2006年の7月に1.68倍を記録しており、この水準にはまだ達していない。
 では自動車の生産が好調な愛知県だろうか。これも違う。そもそも愛知県の7月の有効求人倍率は1.53倍で、前月より0.04ポイント下がってしまった。
 意外なことに、正解は高知県。7月の水準は前月を0.01ポイント上回って0.86倍。絶対水準では決して高い数値とはいえないが、全国の雇用環境が大幅に改善するなかでも0.5倍を切る状況が続いていた2000年代からすれば大幅な改善といえる。
 ただこの数値をみて「地方にもアベノミクスの効果が表れだしているのか」と考えるのは早計だ。

 確かに2012年秋以降の株価の上昇による資産効果などで、春の消費増税前までは高知など地方でも高額品が売れる状況はあった。だが消費面ではいま、都市圏より地方圏の方が駆け込み需要の反動がより強く出ている。
 高知県の有効求人倍率の改善の主な理由は、皮肉なことに新規求職者数が18カ月連続で前年同月を下回り続けていることだ。


地方の生産年齢人口減少が意味するもの

 有効求人倍率は職を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかの割合を示す。求人倍率が1なら求職と求人がつりあっていることを示す。
 景気が改善しているときは求職者より求人の増え方が大きく、求人倍率=雇用環境が改善していくことが多い。だが分子の求人数が変わらなくても、分母の求職者の数が減れば、求人倍率は高くなる。今の高知県はどちらかというとこの形に近い。
 なぜ求職者数が減り続けているのか。高知労働局によれば、生産年齢人口の減少も一因だという。生産年齢人口とは「15歳以上65歳未満の人口」を指し、この世代が働き手の核になる。
 日本の場合、総人口の減少は始まったばかりだが、生産年齢人口はすでに1995年にピークを迎え、それからは減り続けている。6月に総務省が発表した人口動態調査でみると、日本全体の生産年齢人口は1995年から2014年で7.6%減って8005万人になった。
 一方、高知は同じ期間に18.6%も減っている。北海道も14.9%減るなど、総じて地方の方の減り方が激しい。一方、東京は逆に3.2%増えている。
 これは何を意味するのか。自動車など組み立て加工型の工場がほとんどない高知県は長く都市部に比べ雇用環境が悪かったため、働き手の世代が東京などに流出し続けた。北海道の減少の理由も高知同様、都市部に比べ雇用環境が悪かったからだ。
 地方圏の方が都市圏より有効求人倍率が低い=雇用環境が悪いために、地方から都市、特に東京への働き手の人口移動が止まらない。このことが地方圏で特に生産年齢人口の減少が激しいことにつながっている。
 強引にまとめると、過去に地方に職が乏しかったことが、現在の有効求人倍率の改善に寄与する――という大変皮肉な状況になっているのだ。


公共事業を増やすという発想は人手が余っているという発想

 経営競争基盤の最高経営責任者(CEO)として地方企業の再生にも携わってきた冨山和彦氏はこうした状況を、近著の『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)の中でこう指摘している。「人類史上初の少子高齢化起因による人手不足は、地方経済から始まった。中央より地方のほうが生産労働人口の減少が先に起こっているからだ。(中略)アベノミクスの効果が出始めたことで、景気が回復したからではない」。
 さらにここ数年、企業の人員ピラミッド構成の核だった団塊の世代が引退し始めたことで、働き手不足の影響が顕著に出始めた。
 冨山氏によれば、すでに地方では数年前から少子高齢化を原因とした人手不足が起こっていたという。だがその状況を中央のマスコミが取り上げることはほとんどなかった。
 日本経済が「失われた15年」でいかに需要や雇用を創り出すか――という思考になれきっていた上に、2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災というまれにみる経済・社会の激変による瞬間的な需要や雇用の喪失に見舞われたからだろう。よもや人手が足りなくなるなどとは思いもしなかった――というのが企業や政府、自治体の正直な思いではないか。
 安倍政権の国土強靱化による公共事業増という政策をとってみても、前提にあるのは「日本経済は働き手が余っている」という思考である。人員過剰時代の衣をうまく脱げるかどうか――が政府や企業に問われている。


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