【来た!見た!書いた!】「人手不足」が足かせになり始めた日本経済

木更津市が新庁舎建設を8年も延期した理由

 千葉県木更津市は5月30日、入札を中止していた新しい庁舎の建設について、移転時期を当初の2016年から24年に、8年も延期することを決めた。
 首都圏では活発な公共事業に加え、20年の東京五輪を見据えた建設需要の高まりで、建設分野の人手不足や費用高騰が続いている。木更津市の判断は、20年が過ぎれば高騰が収まり、着工時期を延ばした方が費用の面で得策との見通しからだ。建設市場で先行して目立ち始めた「人手不足」が、行政サービスや景気の「足かせ」にもなり始めた。
 昨年以降、公共工事で入札が成立しない「入札不調」が各地で起こっている。何度か不調に見舞われた自治体は、入札予定価格の大幅な引き上げで対応してきた。
 例えば東京都が築地市場(東京・中央)を江東区豊洲の新市場に移す工事。東京都は主要3施設の予定価格を当初より6割(400億円)も引き上げて2月に再入札を実施し、ようやく入札が成立した。
 このように予定価格や事業費を引き上げる例は多いものの、費用の抑制を優先して、建物の完成時期を8年も延ばす例は珍しい。
 木更津市が予定していた4月の入札では、事業者が見込む事業費が市の設定した予定価格を大幅に上回ったため、事業者が参加を辞退した。これを機に市が見積もりをし直したところ、新庁舎の建設・移転の総事業費が当初の計画より3割超も多い172億円に膨らむことがわかった。

さまざまな場所、業種で起こる人手不足の現場

 ただ現在の建設需要は東京五輪までの「特需」の側面もある。そこで市は五輪後には労務費や資材費が下がると考えていくつかの案を試算し、総事業費が131億円と最も安く済む「五輪後に先延ばしして建設」という案を採用することにした。現庁舎は耐震性が低いことから解体し、約8年間はプレハブの仮庁舎で業務をする。
 建設分野の人手不足が思わぬ分野に影響を与えた形だが、人手不足に足を引っ張られているのは木更津市だけではない。
 牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーホールディングスは東京都内の一部店舗の深夜・早朝帯のアルバイトの時給を1500円にした。すき家のアルバイトは深夜・早朝帯に、1人で店の運営を任されることがある。春先には負担の大きさから人手が十分に集められなくなり、都内の店舗を中心に休業するケースが相次いだ。こうした状況から時給を大幅に上げざるを得なくなったとみられる。
 4月の有効求人倍率(季節調整値)が1.39倍と、バブル期以来の水準にまで高まった福島県でも、さまざまな分野で人手不足が起こっている。福島第1原子力発電所事故による避難で住民の数が少なくなっているうえに、建設分野などで東日本大震災からの復興需要が大きく、除染作業など比較的高賃金で労働力を吸引する仕事があるからだ。


急激な人手不足には理由がある
 被災地には復興のためのさまざまな補助金制度があるため、被災した製造業が工場を再建するのはそれほど難しくない。景気も回復傾向にあるため、仕事も以前よりは多い。にもかかわらず福島県内の製造業の経営者からは「人が確保できないので、仕事が受注できない」といった恨み節が聞こえてくる。雇いたくても、人がいないのだ。
 全国の4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.08倍と、バブル崩壊後に最高だった2006年7月の水準に並んだ。8年前は円安基調から製造業が好調だったが、ここまで人手不足が目立つことはなかった。
 また2008年のリーマン・ショックの後には、非正規社員の雇用期間が満了したときに契約を更新しない「雇い止め」や、解雇する「派遣切り」が話題になるなど、人手不足とは正反対の人あまりが顕著だった。どうしてこれほど急に、人手不足が目立つようになったのか。


若年層の労働力不足を補う政策の必要性
 謎を解くカギは労働力人口の年齢構成の変化にある。今年4月と、同じく有効求人倍率が1.08倍をつけた2006年7月の労働力人口を比べると、4月の総数そのものは6389万人と1%しか減っていない。
 だが年齢別にみると、15~24歳は15.8%、25~34歳は17.9%も減っている。逆に35~44歳は11%、65歳以上は29.5%の増加。つまり若者の働き手がものすごい勢いで減り、こうした若年層の働き手やアルバイトに頼ってきた外食産業や建設産業が労働力不足に陥っているのだ。
 人手不足が続くと賃金が上がり、物価もつられて上がりやすいため、日本経済が長年苦しめられてきたデフレを脱却する好機にはなる。若年層を安い賃金で酷使してきた「ブラック企業」の淘汰につながる面もあるだろう。
 だが一方では、企業が人手の制約から需要に応えられないため、成長の制約要因にもなる。女性や高齢者、外国人の技能実習生など働き手を増やすための政策の早期実行が必要だ。


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