失敗から学ぶことよりも、成功から学ぶことの方が難しい

「右肩下がり」の12年間では異例の内閣支持率上昇

「右肩下がり」。
 バブル経済の崩壊や「失われた20年」ともいわれる経済の低迷期を経て、我々は売り上げや市場規模、収入などが段々と減ったり縮んだりするこの言葉に慣れてしまった。政権が発足してからの「内閣の支持率」も「右肩下がり」に慣れてしまった事柄の1つだ。
 日本経済新聞社などの世論調査によると、2001年4月に発足した小泉内閣から昨年9月発足の野田内閣までの7つの内閣で、①発足時②1カ月後③2カ月後の支持率が前回調査より上昇したことがあるのは、わずかに小泉内閣のときの「発足時→1カ月後」のみ。まさに我々は「ああまた下がっている」という世界になんの驚きも感じないようになっている。
 その意味で、2月下旬に発表になった安倍政権発足から2カ月の内閣支持率調査には、驚かされた。1月末の前回調査から2ポイント上昇して70%に。発足直後の支持率は62%、1月末は68%なので2回連続して支持率が上昇したことになる。「右肩下がり」が当然のものとなってしまった世界では、きわめて異例なことだ。
 支持率が上がっている要因は、新政権の経済運営への評価だろう。「安倍内閣の経済政策で景気の回復は期待できるか」との問いに対して「期待できる」は56%なのに対し「期待できない」は31%だった。

現政権の際立つ「失言」「失策」の少なさ

 調査期間中の2月22日には、安倍首相がオバマ大統領との日米首脳会談で、環太平洋経済連携協定(TPP)について「すべての関税撤廃を前提としない」ことを確認し、交渉参加へ大きく踏み出した。
 安倍政権の経済運営政策「アベノミクス」の「3本の矢(柱)」は「大胆な金融緩和と」「積極的な財政出動」「成長戦略」。1本目と2本目の矢については、2%の物価上昇率目標の導入で連携するとした日銀との共同声明や、公共事業増を柱とした2012年度補正予算・2013年度予算でしっかりとその方向性を打ち出していた。
 3本目の矢である「成長戦略」については、自民党の支持基盤である農業関係者から反対の強いTPP交渉参加を進められるかどうかが試金石になるとみられていた。政権発足からわずか2カ月で、TPP交渉参加へ1歩前進したことが、内閣支持率を高める1つの原動力になっている。
 この2カ月の安倍政権を見ていて感じるのは、「素直さゆえの思い違い」「単純な誤り」「失言」といった「失策」が少ないことだ。民主党政権下での3つの内閣と比べると、その少なさはより際だつ。
 念願の政権交代をなしとげ、70%を大きく超える高い内閣支持率で2009年9月に始まった鳩山政権。この内閣で国土交通相に就任した前原誠司氏は就任直後に「(群馬県の八ツ場ダムは)マニフェスト(政権公約)に書いてありますから中止します」とあっさりと建設中止を明言した。
 関係者によると、このとき前原氏は純粋に地元の群馬県や同長野原町のためになると考え、ダム建設の中止を明言したという。

反省点や教訓を書き綴った「安倍ノート」の存在

 だが八ツ場ダム事業は住民が反対するなか行政が計画を強行したというダム事業ではなかった。住民は賛成派がほとんどで、反対を唱えるのは地元には住んではいない人がほとんどだ。間違った情勢分析を基に「住民の大半はダム建設に反対している」ととらえたところから、八ツ場ダム問題の迷走は始まったといっていい。
 鳩山首相が普天間基地移設問題で「最低でも県外」と発言したのも、「沖縄県民のため」という善意から出たものだ。民主党政権では、こうしたお粗末な事例があまりに多すぎた。
 とはいえ、政権交代前の自民党政権もほめられた状態ではなかった。
 およそ5年半に及んだ小泉内閣を継ぎ2006年9月に発足した第1次安倍内閣も、その顔ぶれを「お友達内閣」と揶揄され、不祥事続きで支持率を落としていった。そして2007年9月の突然の退陣は「政権投げ出し」との批判にさらされた。現在の「第2次」安倍内閣で失策が目立たないのは、安倍首相や閣僚、そして自民党が「過去の失敗」から何かを学んだからだろう。
 1月27日付の朝日新聞によると、安倍首相には2007年秋の退陣後から気づいた反省点や教訓などをその都度書きつづったノートがあるという。首相はその教訓ノートを折に触れて読み返しつつ、政権運営に当たっているのだ。
 政権発足前から今までに立て続けに施策を提案し続け、内閣の支持率も上昇傾向が続けてきた安倍首相。まずは前回の失敗からさまざまな教訓をくみ取っているとみていいだろう。

「リスクオフ」から「リスクオン」に市場の姿勢が変わっただけ

 ただ今後、安倍首相がつまずく可能性があるとすれば、それはアベノミクスの効果を過大評価したときではないか。
 安倍政権誕生前から為替相場は円安が進み、株価も大きく回復した。内閣支持率が高まった大きな理由の1つはこの「円安株高」が進んだことにある。
 だがそれを「アベノミクスの成果」と見ることは危険だ。為替相場での円安と日本の株式市場で株高が進んだ最大の原因は、世界的な相場観が変化したことにあるからだ。
 昨年半ばまでは、ギリシャ経済の破綻やユーロの崩壊を恐れ、市場参加者がリスクを極端に回避する「リスクオフ」姿勢が支配的だった。ところがユーロ経済の落ち着きなどで、市場参加者がいっせいに、リスクを取ることに積極的になる「リスクオン」に転じ始めた。このことこそ現在の円安株高の主因だ。
 世界的な相場観の変化に、アベノミクスがうまく合致していたことは確かだが、物価目標の導入や積極財政、TPP交渉参加方針だけで、日本経済を変えられたわけではない。
「アベノミクスで日本経済が好転した」。首相がもしこのように見ているとすれば、それはまた新たな失敗のタネとなりかねない。人は失敗から学ぶこと以上に、成功から学ぶことは難しい。


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