【来た!見た!書いた!】 地域に問われる「大動脈」の生かし方

1年前から盛り上がる北陸新幹線開業の動き

 3月下旬の3連休。高崎駅から長野駅方面に向かうため、JR長野新幹線の「あさま」の自由席に乗り込んだ。3連休の初日で、車内は軽井沢などに向かう観光客で大混雑していて、座れたのは多くのスキー客が降車した軽井沢駅。しばらくして、全座席に電源コンセントがあることに気付いた。新幹線はいつから全席にコンセントがつくようになったのだろう。
 長野新幹線が開通した1997年以前の在来線時代には難所だった碓氷峠も、長野新幹線はほとんどをトンネルで通り過ぎてしまうため、利用者が「きつい峠」を実感することはまずない。考えことをしつつ、うつらうつらしたら、あっという間に長野駅に着いた。
 JR長野駅に降り立つと、鉄道ファンらしき人が降りたばかりのあさまをしきりに撮影している。「かっこいいね」と話しながら先頭車両の前で記念撮影する親子連れもいた。
 そこで初めて、偶然に乗ったあさま号の車両が、JR東日本と西日本が共同開発して、3月15日に走り始めたばかりの北陸新幹線の新型車両E7系であることに気づいた。コンセントが全座席にあるのも、座席は背もたれに連動して座面も動いて乗り心地がよいのも、ほとんど揺れを感じないのも、E7系だからこそだったのだ。
 2015年春に、長野新幹線が金沢まで延伸する形で開業する「北陸新幹線」。新幹線のような新しい「交通の大動脈」の延伸・開業は沿線や周辺の地域にとっては一大ニュースだ。北陸新幹線の開業まであと1年となったことで、沿線では、さまざまな準備が急ピッチで進んでいる。

北陸新幹線が開業すればあらゆることが一変

 長野駅の玄関口である善光寺口では、新しい駅ビルの工事の真っ最中だ。新幹線の終着駅は、乗客が乗り換え待ちや宿泊などで駅外に出る可能性が高く、長野市は観光面でもビジネスの面でも、そのメリットを享受してきた。だが北陸新幹線が開業すれば、すべての列車が停車するとはいっても、1つの途中駅になってしまう。
 長野県や長野市の関係者の間では、「長野が素通りされるかもしれない」という危機感が強まっている。新しい駅ビルの建設はそうした危機感の1つの現れといってもいい。「信州の魅力を集約・発信する駅ビル」(東日本旅客鉄道)をめざすという。
 その日は長野駅で直江津行きの信越線普通列車に乗り換えて、新潟県上越市の高田に向かった。
 長野駅から3つめの豊野駅のあたりまでは、進行方向の右手、信越線と千曲川にはさまれた平野の間に、北陸新幹線の高架線路が建設されているのが見える。だが新幹線は豊野駅以北は飯山線の飯山駅方面に向かってしまうため、信越線からは確認できない。信越線が再び北陸新幹線と相まみえるのは、高田駅の1つ手前の脇野田駅。ここに新幹線の新駅「上越妙高駅」を建設中だ。
 現在は、直江津市などと合併して新潟県で3位の人口を擁する上越市の一部になっている高田(旧・高田市)。この街も北陸新幹線が開業すれば、さまざまなことが「一変」するに違いない。


広報宣伝次第では大化けする可能性のある街

 歴史や古い街並みが好きな人にとっては、高田はたまらない街だ。徳川家康の六男・松平忠輝が初代の高田藩主として高田城を築いたのが1614(慶長19)年。今年はそれから400年目にあたり、「高田開府400年祭」が開かれる。
 城下町には、雪よけの屋根がつらなった「雁木造(がんぎづくり)」が広がり、その総延長は約16キロと日本一の長さ。高田城は明治期に陸軍の駐屯地となり、1909年にそれを記念してソメイヨシノ約2200本が植樹された。桜はその後4000本にまで増え、この時期の夜は、城の三重櫓と桜がぼんぼりの明かりに映え、堀の水面にうつる様が美しい。
 これまでは東京からの遠さ故、首都圏で高田の街並みや夜桜の知名度が高いとはいえなかった。だが北陸新幹線開業後は東京駅と上越妙高駅は最速1時間48分で結ばれる。高田地区は、「蔵造りの街並み」を打ち出すことで一大観光地となった埼玉県川越市のように、広報宣伝の仕方しだいでは大化けする可能性のある街だ。
 一方、新たな大動脈の完成は、これまでの大動脈を廃れさせるきっかけにもなる。新潟県は広く、北陸新幹線の開業がどの地域にとってもメリットになるわけではない。
 例えばこれまで首都圏と北陸を結ぶ鉄道の主力ルートは上越新幹線で越後湯沢まで行き、そこで北越急行(新潟県魚沼市)ほくほく線を通る特急はくたかに乗り換えて金沢方面に向かうものだった。このはくたかは北陸新幹線開業後に廃止となる公算が大きい。はくたかだけでなく、上越新幹線沿線の相対的な集客力低下につながる可能性もある。
 ただそれは、それぞれの地域が現状に甘んじていればの話。新潟県では現在、北陸新幹線開業を前に、地域の魅力を捉え直す動きが活発だ。大動脈ができるときは地域が強みを問い直す、またとない好機でもある。



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