【来た!見た!書いた!】 このままでは新国立競技場建設費の高騰は避けられない

「小泉+細川」対 舛添 で知事選は混沌

 2020年夏季オリンピックの東京大会の関係者は、昨年末からやきもきしっぱなしではないか。
 1つは東京への五輪招致の立役者の1人である猪瀬直樹氏が、医療法人徳洲会グループから5000万円を受け取っていた問題で、2013年末に辞任したからだ。2月9日投開票の東京都知事選で、新しい知事が誰になるかによっては、五輪の準備に大きな影響が出るかもしれない。
 1月12日までの段階では、「脱原発を訴える」元首相の細川護熙氏が、同じく元首相の小泉純一郎氏と連携をとりつつ立候補する見通しだ。自民党が支援する元厚生労働相の舛添要一氏との一騎打ちになる公算が大きい。

 参院選で自民・公明の与党が圧勝した2013年夏のような政治状況であれば、いくら細川氏が元首相で知名度が高いといっても、自民が推す舛添氏の優位は揺るがなかっただろう。だが安倍晋三政権が特定秘密保護法の成立を強行に進めたことで、同法が成立した12月には高かった内閣支持率が急落した。12月末には安倍首相は中韓などから反発の強い靖国神社を参拝し、外交面でもきしみが生じている。
 安倍政権にとっては、政権発足後ずっと高かった支持率に陰りが見え始めたところに、「細川氏+小泉氏」という強力なタッグが突如現れた。仮に反自民の細川氏が知事選に勝つとなると、五輪に向けての準備も猪瀬知事のもとでの当初の計画通りにはいかなくなるだろう。


築地市場移転で建設工事予定価格を大幅引き上げ

 しかしもう1つの問題こそ、2020年東京五輪にとっても、日本全体にとっても実はダメージが大きいかもしれない。建設現場の人手不足が深刻になっていることだ。
 昨年12月27日、東京都が中央卸売市場築地市場(中央区)の移転計画で、再入札の建設工事予定価格を6割、約400億円も引き上げたことがわかった。入札をやり直すため、豊洲新市場の開場は従来予定していた2016年春には間に合わず、最長では2017年春まで延びる可能性があることも、今年に入って明らかになった。
「日本の台所」として知られる築地市場は開場から80年近くがたって、さまざまな施設が古くなり、荷さばきの場所なども大幅に不足している。これを、現在よりも敷地が8割も広い江東区豊洲に移転しようというのが「築地市場の豊洲への移転計画」だ。
 ただこれまでも移転計画は、スムーズには進んでいなかった。豊洲の移転先予定地はかつて都市ガスの製造工場があり、土壌がガスの製造工程で出るベンゼンやシアン化合物などで汚染されていることがみつかった。そこで東京都は13年1月、土壌汚染対策のために新市場の完成を2014年度中から2016年2月に遅らせることを決めた。


建設現場の人手不足と資材価格急騰でゼネコン応札できず

 その完成に向けての入札が行われたのが2013年11月。水産仲卸売場棟など全部で4棟の建物の入札を実施したが、最も規模の小さい管理施設棟を除く主要3棟の入札で、参加希望を出していた大手ゼネコンなどの共同企業体(JV)が応札を辞退した。3棟合計の予定価格は628億円。都庁内では「200億円を超える入札で不調は聞いたことがない」と衝撃が走ったという。
 それだけに東京都が再入札の予定価格をどれくらい引き上げるかが注目されていた。東京都新たに決めた額は1035億円。最初の入札のときより6割超、約400億円という大幅な上乗せは最近の公共工事では例がない。東京都の大型工事では、2020年五輪の会場になる武蔵野の森総合スポーツ施設(調布市)でも2013年7月の入札が成立しなかった。10月の再入札で工事業者が決まったが、そのときの上乗せ幅は1割未満だった。
 どうして公共工事の入札が成立しなかったり、入札の予定価格が大幅に上がったりすることが頻発しているのか。その最大の原因は、建設現場の人手不足と資材価格の高まりで工事の費用が急騰しているのに対し、自治体など発注者側の予算が少なく、ゼネコンなどの事業者が応札できないことだ。
 例えば東京地区の鉄筋工の現在の賃金は1日1万7000円前後と、東日本大震災前に比べて5割前後も上昇した。資材価格も為替相場の円安傾向などで、震災前と比べ1割程度上がっているものが多いという。


20年五輪の施設整備費も大幅に膨らむ?きず


 日本の建設投資は1990年度から96年度まで80兆円前後で推移していたが、国や地方の歳出削減などのためから2012年度には42兆円にまで減った。それに伴い、建設に従事する人は大幅に減っていた。そこに東日本大震災からの復旧・復興需要が生まれ、さらに景気回復でオフィスビルやマンションなどの民間建設、国土強じん化のための公共工事が加わった。建設現場で人手不足が明確になり、賃金が急騰しているのはこういった理由のためだ。
 2020年夏期五輪のメーン会場となる新国立競技場の総工費は当初、約1300億円と想定していたが、計画が大きな規模になりすぎて、最大3000億円に及ぶことが判明した。運営主体の日本スポーツ振興センター(JSC)と文科省は2013年11月、デザインを見直して1852億円にまで圧縮することを決めている。
 だがこの建設費は従来の賃金や資材価格を前提としたものだ。仮に東京都が豊洲新市場の再入札で示した「予定価格の6割超の引き上げ」ならって1852億円に6割を上乗せすれば、3000億円弱になってしまうのだ。2020年五輪の全体の施設整備費は約4500億円の見通しだが、これも大幅に膨らむ恐れがある。
 政府や自治体はまず、着手する公共事業を厳選する必要がある。また官民で、建設現場で働く人が社会保険へ加入しやすくするなどして、建設業に就く人材を増やす努力が欠かせない。

(2014年1月15日)


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