【来た!見た!書いた!】各地で勃発する非正規雇用の争奪戦で読み解く正規雇用の増加

千葉県の湾岸地域で非正規社員の争奪戦が起こっている

 イオンモールが12月20日に千葉市に開業する旗艦店「イオンモール幕張新都心」。総賃貸面積は約12万8000平方メートルとイオンの国内ショッピングセンター(SC)としては3番目の広さで、約350のテナントのうち、利用者がなんらかの体験をできる「体験型」が3分の1以上を占めるのが特徴だ。吉本興業が劇場で人気芸人のライブを催したり、東映とナムコが特撮ヒーローの撮影用スーツや小道具などを展示したりする。
 同モールの開業でもうひとつ話題を読んでいるのが、開業を前に、千葉県の湾岸地域で、アルバイトやパートなどの非正規社員の争奪戦が起こっていることだ。
 テナントも含めたSC全体の従業員の数は6000人以上で、テナントが新規に採用する人数だけで3000人を上回る。景気の回復傾向が続き、雇用が引き締まりつつあるところに、日本でも最大級の大型店の開業が重なったため、アルバイトやパートの時給が高騰したり、採用がままならない企業が出たりしている。
 レストランを運営するアメリカンハウスが同モールに開業するカフェの時給は1200円。「開業から3カ月」の限定とはいえ、940円強という千葉県のパート・アルバイトの平均時給をかなり上回る。

自動車大手4社の期間従業員数も今期初頭より4割増

 モールでのアルバイト採用が急増した影響を受けたのが、千葉市に工場を持つ山崎製パンなどだ。クリスマスシーズンを前にケーキなどの生産を担う年末のアルバイトの時給を1000円と前年より100円引き上げたが、応募人数は募集人数を大幅に下回ったままだという。
 求人情報のリクルートジョブズによると、首都圏など三大都市圏のアルバイト・パート募集時の平均時給は前年同月より7円増えて953円だった。増加率は0.7%と過去5年では最高水準の伸び方だ。関東で店舗を展開するスーパーからも「レジ打ちを担当するパート社員が、夏ごろから確保しにくくなった」という声が漏れる。
 その中でも千葉県は前年同月比1.3%増の944円と、増え方が他地域より大きい。イオンモール幕張新都心開業による大量採用が影響しているとみられる。
 非正規社員の雇用を増やしているのは、小売り・流通関係だけではない。11月30日付の日本経済新聞によると、トヨタ、日産自動車など自動車大手4社の期間従業員の数は約9700人と今期の初めに比べて4割も増えた。


東北地域の建設業では人が集まらず、人が育たず 

自動車は需要の変動に備えるため、工場の中で一定の割合は正社員でなく、3~6カ月ごとのの契約で働く期間従業員(期間工)を雇っている。現在は円安による輸出の増加や、来春の消費増税前の駆け込み需要に備えるため、期間従業員を増強している。厚生労働省が11月30日に発表した10月の一般職業紹介状況によれば、輸送用機械器具製造業(自動車業界)のパートの新規求人数は前年同月に比べ43%も伸びた。
 自動車の期間従業員といえば、男性の20~40代が中心だ。働く層が重なる建設業界では、人手不足を懸念する声が強まっている。特に深刻なのが、東日本大震災からの復興工事に大量の人員を必要とする東北地域の建設業だ。
 岩手県内の建設業者は「県内では人が集まらないため、遠く北陸などにも応援を頼んでいて宿泊費などの負担もバカにならない」と話す。「コンクリートから人へ」を掲げた民主党政権時代、建設業は若者から見向きもされなかった。公共事業の減少、業績の悪化を背景に業界内でも人減らしが続いた。
 それが東日本大震災後の復興事業や、自民党政権による公共事業の急増で一転して大量の発注が集まるようになった。高賃金で急いで人を集めようとしても簡単には人が育たない状況だ。


それでもまだある非正規と正規社員の雇用の差 

 長年デフレで苦しんだ日本経済を振り返れば、非正規といえども雇用の増加や賃金の上昇は喜ぶべきことなのかもしれない。ただ現段階では、非正規ほどには正規社員の雇用は増えていない状況だ。現在の円安による輸出の好調や、株高による高額消費などがどこまで続くか強い自信を持てないでいるからだ。
 10月の有効求人倍率(季節調整値)は前年同月を0.03ポイント上回り、0.98倍となった。だが正社員の有効求人倍率は前年同月比0.1ポイント上昇の0.61倍にとどまる。一方、常用的パートタイムは0.13ポイント上昇の1.12倍。非正規社員と正規社員の間には、まだ大きな雇用環境の差がある。
 今年8月の本稿でも指摘したように、昨年末に誕生した安倍政権の経済面でも最大の成果は「安倍政権の登場自体が『政策の不確実性』を大きく削減することにつながった」(経済学者の池尾和人氏)ことにある。不確実性が減り先行きの見通しが立てやすくなったことで、家計は消費に対して積極的になり、企業は設備投資や賃金にも手をつけるようになった。
 正社員の採用を増やすには、企業にさらに先行きへの自信を深めさせることが必要だ。



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