【来た!見た!書いた!】 いつもと違う景気回復に地方は安心するな

北海道の景気が絶好調

 日銀が3カ月に1度、支店長会議のあとで各地の景気の現状をまとめて報告する「地域経済報告(さくらレポート)」がある。地域ごとの景況感を測るには最も信頼できる調査・数字だ。最新の報告を発表した10月21日の支店長会議のあとの記者会見では、ある支店長からこんな言葉が飛び出した。
「観光業界は、絶好調という言葉を使ってもよいと思う。ホテル、タクシー、レンタカー、どこに聞いても景気が良い」(札幌支店の曽我野秀彦支店長)。景気について慎重な言い方をすることが多い日銀マンが「絶好調」という言葉を使うこと自体、珍しいことだ。
 日銀は北海道の景気判断を前回7月は「持ち直している」としていたが、10月は「緩やかに回復しつつある」に上方修正した。さくらレポートは2005年に始まったが、北海道の景気判断の文言に「回復」の2文字が入ったのが今回が初めてだという。東南アジアを中心に、外国人の北海道観光人気が高まっていたところに、政府がビザの発給要件の緩和を実施した。北海道は円安に伴う観光需要の増加をうまくつかんだ。安倍政権が「三本の矢」として打ち出した「機動的な財政政策」による公共投資の増加も、北海道の景気をひっぱる役目を果たしている。
「今回の景気回復は、いつもの『飛行機の後輪型経済』とは違うかもしれない」。北海道の経済人からはこんな声も聞かれるようになったという。

「飛行機の後輪」だった地域が躍進

 地域の経済を飛行機やジェット機の後輪にたとえるのを初めて聞いたのは2000年代半ば、日銀の高知支店での記者会見のときだったと思う。景気上昇局面では最後に浮上し、下降局面では最初に降下する。これを離陸時には最後に地面を離れ、着陸時には最初に接地する飛行機の後輪にたとえたものだ。
 当時の高知県は自民党の小泉政権下での地方交付税の削減などにより、他県よりウエイトの重い公共事業が不振を極めていた。円安効果を受けて製造業が好調な中部・関東などが力強い回復を遂げていたのに対し、回復する兆しが見えない状況だった。支店長は「高知は飛行機の後輪型経済といわれていたが、今回は遅れての離陸すらできないかもしれない」。そんな弱気な発言だった。
 当時の高知はともかくとしても、「後輪型経済」というたとえが使われるのは、ほとんどが「全国の景気は回復しても、○○地方の景気回復は遅れている」という文脈においてだ。記事データベースで検索してみると、既に1991年6月に、当時の日銀の札幌支店長が北海道内の景気を説明するのに「飛行機の後輪」という言葉を使っている。おそらく日銀の中で代々使われてきた言葉なのだろう。
 しかし今回の場合、その後輪型回復のパターンがあてはまっていない。
 日銀の企業短期経済観測調査(短観)によると、9月の全国の業況判断DI(全産業)は+2ポイント。これを9つの地域別にみると、北海道が+10、九州・沖縄が+7、東北が+6なのに対し、関東甲信越が2,東海が0と地方が都市部を上回る形になっている。北海道のような地方が「飛行機の後輪」ではなく「前輪」の役割を果たしているといっていい。


製造業よりも非製造業がプラスの現実

 これを、前回の景気回復局面の短観業況判断DI上でのピークである2006年12月と比べてみると面白い。全国の全産業DIは+10。東海は+15、関東甲信越は+13なのに対し、東北は-8、四国は-9、北海道は-13。
 日銀の高知支店長から「今回は遅れての離陸すらできないかもしれない」と弱気の発言が出たことも、このDIを見ると肯ける。2000年代半ばの景気回復は、都市部や東海地方に恩恵が集中した。当時の円安で為替面での利益を得た製造業の立地が多かったからだ。
 昨秋を起点とした景気回復局面も、為替相場が円安方向に修正されたことが大きな改善要因にはなっている。しかし10年前と比べると、地域の製造業の多くは中国や東南アジアなどに製造拠点を移し、それに伴い大企業の仕事を主力とする中堅・中小企業もかなり海外に拠点を設けた。
「発注元の大企業が海外に生産拠点をシフトしており、中小企業の受注が増えない」(日銀福岡支店の市川能英支店長)構造になっているのだ。
 2006年12月の製造業の業況判断DIは+17で、非製造業は+3にとどまった。一方13年9月は製造業が-2にとどまるのに対し、非製造業は+5。


景況感の良いうちに育てなければならないこと

「景気回復のけん引役は地方と非製造業」。ややおおざっぱにまとめると、こんな姿が見えてくる。確かにこれまでの「後輪型経済」とは違った風景が広がりつつある。
 地方企業の経営者で、安堵の思いを抱いている人は多いだろう。だがここで安心することは禁物だ。なぜなら今回の地方景気の回復は円安による外国人観光客増や株高による資産効果に加え、財政支出など一時的な刺激策に頼っている部分も強いからだ。
 最新のさくらレポートでは公共投資について、北海道、東北、九州・沖縄の3地域は「大幅に増加している」、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国は「増加している」「増加傾向を維持している」と報告している。
 地方の景気回復について公共投資がどの程度の役割を果たしているかはより詳細な分析が必要だが、公共事業が引っ張る形での景気回復で思い出すのは、1990年代半ばの地方経済だ。
 しかしこの90年代の公共事業中心の経済は、結果的に日本と地方の財政の大幅な悪化と、自ら成長産業を生みだそうとする地方の自活力をむしろ弱めることにつながった。
 景況感のよいうちに、何よりも地域や地域企業は自立的に成長できる「何か」を育てなければならない。安心しているひまはないのだ。

(2013年11月5日)


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