【来た!見た!書いた!】過去との対比をすればよく分かる東京五輪の本当の価値

3兆円から150兆円まで、喧しい経済効果への期待

 2020年の夏季オリンピックの開催地が日本の東京に決まった。これからの7年、半世紀ぶりに開かれる五輪で、首都・東京はどんな都市に生まれ変わるのか。そして、そのためにどれほどのカネが投じられるのだろうか。
 人口が増え、高度成長期のまっただなかにあった前回1964年の「昭和の東京五輪」と、成熟期を迎え、国と地方が多額の借金を抱える2020年大会とでは、五輪を巡る経済の状況は大きく異なる。
「やれ3兆円だ、いや150兆円だ」と五輪の経済効果への期待感は強いが、大切なのは「費用を抑えつつ、東京の都市としての機能や魅力を高め、五輪を成功させる」という視点を貫くことだ。
 前回の五輪では、作家の小林信彦氏が「高度成長にともなう東京破壊は東京オリンピックの頃にピークに達した」(『私説東京繁盛記』)と批判する「町殺し」も、一方で進んだ。「新しい東京五輪のために」という名目で進みかねない「都市の破壊」にも、目を向けておかなければならないだろう。
 新しい東京五輪は28の競技を37の会場で行う。うち新設は22会場で、11会場が恒久施設、11会場が仮設のものとなる。新設会場の大半は東京都の臨海部に建設する。東京という成熟した都市インフラを活用し、コンパクトな会場配置で選手本意の大会とする計画だ。

前回は1兆円超、今回は半分以下!?

 東京招致委員会の開催計画によると、施設などの総工費は4554億円。そのうち最大のものは、開閉開式などが行われるメーンスタジアム、新国立競技場。現在の国立霞ヶ丘競技場を解体し、8万人収容の開閉式屋根付きスタジアムとして建て替える。工事費は約1300億円を想定し、国が資金を出す。
 そのほかの競技場施設はほぼ東京都が負担し、大会が終わるとマンションに転用する選手村は民間が開発する計画だ。既に東京都は2006年度から4年間で都税収入から毎年1000億円を基金に積み立て、現在約4100億円の基金を持っている。東京都が負担する施設整備費は1500億円程度になる見通しだ。
 この「総工費4554億円、東京都が負担する施設整備費は1500億円」という数字を、どう見たらいいだろう。筆者はこの数字を見たとき「意外とカネがかからないものだな」という印象を持った。あくまでも計画段階とはいえ、この予算の数字がどれだけのものかは、1964年の東京大会と比較するとよくわかる。
 1964年大会は総事業費が1兆661億円に達し、俗に「1兆円オリンピック」と言われた。1964年度の国の一般会計予算が3兆3405億円だったので、一般会計の3割に相当する額が64年大会に投じられたことになる。2013年度の一般会計総額は92兆6115億円なので、1964年の「1兆円」は現在の30兆円弱に相当することになる。1兆円という64年大会の事業規模の大きさがわかる。


日本を国際舞台に復帰させた前回大会

 1兆円の中身を見ると、さらに64年大会の持っていた性格がさらに強く浮かび上がる。
 競技施設整備などの直接事業費はわずか317億円で、残り97%は関連事業費が占めるからだ(池口小太郎『日本の万国博覧会』)。羽田空港から選手村が設けられた代々木までを結ぶ目的で建設が急がれた「首都高速道路整備」には722億円が投じられた。
 さらに大きいのが鉄道建設。「東海道新幹線建設」には3799億円。地下鉄整備には2328億円が投じられた、道路・街路整備にも1015億円をさいている。
 こうした数字を追っていくと、64年の東京五輪とは「五輪をきっかけに、東京という都市、日本という国を先進国並みにつくりかえることを目的としたもの」だったことがよくわかる。資本の集中投下と、名もなき多くの人たちの努力とが東京五輪を成功させ、日本を第2次世界大戦からわずか19年で国際舞台に復帰させることになった。


64年東京五輪で失ったものの重み

 だがその一方で、こうした急速な都市改造で、東京がなくしたものも少なくない。例えば東京・日本橋の景観だ。徳川家康が1603年(慶長8年)に日本橋川に架けさせ、現在も日本の道路元票がある東京・中央区の日本橋。だが日本橋川の上にふたをするように、首都高速環状線が走るため、その景観は決してよいとはいえない。
 首都高速は、当初から工費と工期を抑えるため、河川と既存の幹線道路の上をフルに活用する計画だった。環状線は日本橋川など江戸期にできた運河の上を主に通っている。64年大会を前に、羽田空港から代々木までの30キロ余りの路線が、基本計画の決定からわずか5年で完成したのは、この河川などの上を有効活用する手法がとられたからだ。
 「工費と工期を抑えるために仕方なかったのか」とも思う半面、上空を遮る無機質な構造物のために魅力を削がれた日本橋や運河を見るたびに「もっと他の方法はなかったのか」と思わずにはいられない。ほかにも江戸時代から続いた「佃の渡し」、五輪開催にともなう羽田空港の拡張などのために東京湾が埋め立てられ、シラウオ漁やアサクサノリの養殖なども消えていった。


当初の2倍以上に増えたロンドン五輪の事業費

 「64年大会のときに比べれば、2020年の東京大会は費用ははるかに抑えられる計画なので、64年大会のような都市の破壊は起こらない」という見方もあるだろう。
 だが東京での五輪開催決定からまだ10日程度しかたっていないのに、「当初1500億円程度と見ていた東京都の施設整備費が、建設資材の高騰などで4100億円余りに増える見通し」(16日のNHKのニュース)、「2020年代の開業を目指していた都心直結線・新東京駅構想を、五輪に間に合わせようと着工を前倒しする可能性が出てきた」(13日の読売新聞朝刊1面)などの動きが出ている。
 2012年のロンドン五輪では、招致活動の段階で競技会場やインフラ整備の費用は5400億円だったが、実際には2倍余りに増えるなど、五輪の事業費は当初計画より膨らみやすいものだ。開催決定の高揚感に乗じて、開発の範囲を広げたり、増やしたりする動きはこれからもあるだろう。
 だからこそ住民は「費用を抑えつつ、東京の都市としての機能や魅力を高める」という冷静な目で、国や都の動きに目を凝らしておきたい。

(2013年9月18日)


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