【来た!見た!書いた!】盤石な安倍政権だからこそ危惧される「政策の不確実性」

政権内部から聞こえ始めた「消費増税先送り」

 7月21日投開票の参院選で、政権運営の基盤を盤石のものとした安部晋三政権。自民・公明両党の圧勝により、野党が参院で多数を占める「ねじれ国会」を解消したことで、政権内部から、昨年末の総選挙で勝利し矢継ぎ早に政策を打ち出していたころとは違った「気の緩み」とも「慢心」ともとれるようなニュースが伝わるようになってきた。
 その代表例は、麻生太郎副総理が憲法改正を巡り、戦前ドイツのナチス政権時代を例示した発言の撤回に追い込まれた件だ。

「憲法改正は静かな環境で議論すべきだ」と強調する文脈の中での発言だったとはいえ、ワイマール憲法のもとでのナチス政権を引き合いに出して「手口を学んだらどうか」と述べたのは適切ではなかった。
 もう1つは、政権内部から消費増税の「先送り論」が聞こえ始めたことだ。
 安倍首相は7月末、来年4月に予定する消費増税による景気や物価への影響を、周辺に再検証するよう指示した。
 指示を受け首相周辺は①法律で定めた通り消費税率を現行の5%から2014年4月に8%、15年10月に10%と2段階で引き上げる②最初に2%上げ、その後1%ずつ引き上げる③5年間で毎年1%ずつ引き上げる④増税を当面見送る――という4つ案の影響を検証する作業を始めたという。
 もちろん安倍首相が指示したからといって、すぐに消費増税先送りが決まるというわけではない。だだ首相が考える4つの案の中に「当面見送る」が含まれたことで、内外の投資家などから「本当に日本は消費増税ができるのか」という懐疑のまなざしで見られることは避けられないだろう。


増税をしないことの方がリスクは遥かに大きい
 安倍政権は、日本で15年ものあいだ続いたデフレの克服に命運をかけている。幸いにも、政権が打ち出した「大胆な金融緩和」「積極的な財政出動」「成長戦略」という3本の矢からなる「アベノミクス」により、景気の回復やデフレの克服の端緒をつかんだ。安倍首相やその周辺が消費増税に慎重になったり、税率引き上げの幅を検討し始めたりするのは、アベノミクスでつかんだ今の勢いを失いたくないという論理からだろう。
 増税は確かに国民に不人気の政策だ。安倍首相には、消費税率を3%から5%に引き上げた1997年度の轍(てつ)を踏みたくない、という思いもあるだろう。このときは消費増税も含めた国民負担増が9兆円近くに上り、景気悪化の一因になったといわれているからだ。
 だが財政悪化が1997年度よりはるかに深刻になった現時点で、消費増税を先延ばししたり、税率引き上げの幅を見直したりすることで、本当に国民の支持を得られるのだろうか。
 財務省によれば、国及び地方の長期債務残高は2013年度末に977兆円に、対国内総生産(GDP)の比率は200%に達する見通しだ。
 一方、税収は国と地方を合わせてもたかだか80兆円にすぎない。そこで広く徴収できる消費税を増やし、高齢化で毎年増え続ける社会保障の制度見直しにも着手し、財政再建も図るというのが、消費増税の論理だ。
 借金と税収の規模を、冷静に比べて考えれば、「増税が景気を冷やす」ことよりも「増税をしないことで日本の財政が破綻する」方が、はるかに大きなリスクであることがわかるはずだ。


国民から指示された理由を見つめ直すべき
 経済学者の池尾和人氏は近著『連続講義・デフレと経済政策 アベノミクスの経済分析』(日経BP社)の中で、安倍政権の経済面での成果は「大方の予想を上回る大きなものであった」と評価したうえで、その理由の1つを「安倍政権の登場自体が『政策の不確実性』を大きく削減することにつながった」ためと分析している。
 将来の不確実性が大きく、先行きの見通しが立てづらいとき、家計は消費を抑え貯蓄を増やそうとするし、企業は設備投資などを先送りしようとする。政府の政策運営事態が将来の不確実性を増やす原因となっている場合を「政策の不確実性」とよぶ。
 2009年に誕生した民主党政権は当初こそ国民の熱い期待を受けたものの、その後は失策続きで、2012年末の総選挙前には、いつどんな政策があるかを国民が全くわからない、「政策の不確実性」が極度に増した状況になっていた。
 総選挙で自民党が圧勝すると、「決められない政治」からの脱却が進むとの期待が増し、実際に政策の不確実性が著しく低下することになった。それが人々や企業のマインドを改善し、それまで抑えられていた支出をするようになった――というのが、池尾教授による見立てだ。
 企業経営者からも「アベノミクスのそれぞれの政策の是非についてはわからないが、政策の一貫性が生まれたことで経営がやりやすくなった」(自動車部品メーカー首脳)という声は多い。
 それでは「政策の不確実性」という点から見た場合、消費増税の先送りはどんな評価になるのか。
 池尾教授は同書の中でこう説く。「増税が実施されても、逆にそれが財政の持続可能性の回復につながり、将来の見通しを曇らせている大きな要因の一つが除去されることになるのであれば、民間部門の自信の修復に寄与します。大切な点は、増税か否かとか、増税のタイミングといったこと以上に、将来の見通しがよりクリアになるか、不透明になるかです」
 消費増税の先送りや修正は日本の財政の見通しを不透明にして、「政策の不確実性」を高めることになってしまうのだ。安倍政権は「なぜ国民から支持されたのか」を、今一度、見つめ直すことが必要だ。


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