【来た!見た!書いた!】 訪日外国人を増やすために注目したい「飛騨高山」というモデル

司馬遼太郎が誉め称えた町並みの美しさ
 正月休みに岐阜県高山市を訪れた。司馬遼太郎は『街道をゆく 飛騨紀行』で、高山について「まわりの田園が、うつくしい。飛騨で堪能できるのは、なんといっても民家である」と書いた。民家や伝統的な日本の町並みの美しさを堪能できる町だ。
 高山は東京からも、関西からも行きにくい。東京からの場合、一般的な名古屋ルートだと名古屋で新幹線から在来線の特急ワイドビューに乗り換え、さらに2時間半前後も鉄路に揺られることになる。
 今回は他に寄りたいところがあったため、富山からワイドビューひだに乗って南へ下るルートを選んだが、富山からでも2時間近くかかる。
 時間がかかるのは岐阜県の北側を占める飛騨高地の山が険しく、山と山の間を縫うように走るJR高山本線が単線で、しかも電化されていないからだ。つまり高山は東京からも、関西からも物理的な距離はさほどではないが、時間はとてもかかる場所なのだ。
 ワイドビューひだの、文字通り大きな窓を通して見る景色は抜群だった。富山平野の雪はそれほどでもなかったが、特急列車ディーゼルエンジンがうなりを上げて山を登るにつれ、雪が深くなる。車窓から見える民家は伝統的な日本建築が多い。単線の山岳路線ゆえ、スピードは速くない。「これぞ日本の冬」と呼べる風景を堪能できる2時間弱だった。
 だがそんなゆったりとした気持ちはJR高山駅に着くと一変した。

高山市への観光客のおよそ6%が外国人
 高山駅は2017年度の完成に向け駅舎や駅前広場などを工事中で駅の窓口やひどく狭い。そこに大勢の外国人観光客が並んでいる。列車の時刻を確認する人、みどりの窓口でわめく人、お土産を急いで買い求める人。日本語、英語、中国語が飛び交う。「ここはどこか?」と一瞬、錯覚するほどの日本的ではない混み方だった。
 高山駅から歩いて15分ほどの伝統的建造物群保存地区も、真冬の一地方の観光地とは思えない混雑ぶりだ。欧米人の家族が「日下部家」などの著名な民家の前で記念写真を撮影していると思えば、アジア系の人たちがお土産物屋にたむろしている。そのそばでは住民が雪かきに精を出す。なんとも多国籍の風景がそこにはあった。
 高山市によると、2014年に同市を訪れて宿泊した外国人観光客は前年より16%も増えて26万人に達した模様だ。高山市全体の観光客数が402万5000人だったので、そのおよそ6%を外国人が占めたことになる。
 市の推計では、外国人で多いのは台湾、タイ、香港の順番。伸びを見ると、中東が3倍以上、欧州と北米が4割増、中南米も3割近く伸びた。
 20日に日本政府観光局が発表した2014年の訪日外国人数は1341万人と過去最高となり、前年から29%伸びた。最大の要因は円安だ。2012年末に1ドル=86円台だった為替レートは、2014年末には119円台になった。日本での買い物代や宿泊費はドルベースで約3割も安くなった。


外国人を意識して街を整えた先駆的ケース
 中国や東南アジアの成長が続き、海外旅行を楽しめる層が増えたことも大きい。政府は訪日外国人の拡大を成長戦略のひとつと位置づけ、羽田空港の国際線の発着枠を増やしたり、免税対象をすべての品目に広げたりして、後押ししてきた。
 とはいえ外国人が訪問する中心はいまだに首都圏や関西、富士山、名古屋などのゴールデンルートだ。そのルートからはずれていて、さして交通の便がよくない「地方」でこれだけ外国人を集めている地域はまれだ。
 高山はなぜこれほど外国人をひきつけるのか。その歴史は、飛騨地方の1市19町村(当時)が1986年、国の国際観光モデル地区に指定されたことにさかのぼる。それ以来、高山市は外国人が安心して訪ねられる街づくりに取り組んできた。
 英語の案内所や無料で利用できるインターネット回線を整備。英語以外にも仏語やスペイン語など10言語による「散策マップ」を用意した。多言語併記の案内板も整備し、SNSでも海外向けに観光情報を発信している。
 何よりも外国人が感じる「日本らしさ」を意識して保存してきたことも大きい。旅行の専門家は高山市を「外国人を意識して街を整えた、先駆的なケース」と賞賛する。
 とかく日本の自治体が苦手とされる、近隣自治体との連携にも積極的だ。金沢市や松本市とは共同で1989年から外国人向けの観光ルートを開発してきた。


訪日外国人2000万人達成には地方への誘客が必至
 2012年には、国が中心となり、中部北陸9県の観光ルートを龍の形に見立て、中華圏や東南アジアでの知名度アップを狙おうという官民一体の「昇龍道プロジェクト」が発足した。
 2014年3月にはマレーシアの格安航空会社(LCC)のエアアジアXが首都のクアラルンプールと中部国際空港を結ぶ路線を週4便運行させていることもあり、マレーシアなどイスラム圏からの観光客も増えている。
 政府は2015年の訪日外国人数を1500万人以上と予測している。外国人が国内で使うお金から、日本人が外国で支払うお金を差し引いた旅行収支の赤字幅は縮小傾向が続いてきたが、このまま訪日外国人が増え続ければ、黒字に転換するのも遠くはない状況だ。
 ただ旅行大手のJTBは15年の訪日客を1500万人と予想し、伸び率は29%から13%に鈍化するとみている。東京都内のホテルが不足することが理由だ。政府目標の2020年に訪日外国人2000万人を達成するには、地方への外国人の誘客をどう増やすかが課題なのだ。
 外国人への対応をどうするか。今あわてふためいて対応に動き出した地方の観光関係者は多いだろう。地域の資源を生かしながら外国人対応を進めた高山市から学ぶことは多いはずだ。


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