第9回 世界金融危機でも、しっかり覚えておきたい「バブルの効用」

毎朝の通勤電車。ふと周りを見渡すと、若者も、大人も、携帯電話を手にしている人が多い。電車の中で新聞や雑誌、本を広げる人より、携帯をいじる人が多くなったのはいつからだろう。NTTドコモが携帯電話によるインターネット接続サービス「iモード」を始めたのが1999年2月。それから10年足らずで、日本の通勤電車の風景は、それ以前とはすっかり変わった。

こうした日本のモバイルインターネットの発展には、ドコモなどの通信会社、パナソニックやシャープといった端末メーカーだけでなく、日本生まれの多くのベンチャー企業が寄与している。
 
例えばニュース、株価情報、乗換情報などを見る時、我々は意識しなくてもブラウザー(閲覧ソフト)を使っている。メールソフトと同等、人によってはそれ以上に利用することの多いアプリケーションソフトだ。この閲覧ソフトをドコモやau、ソフトバンクモバイルなどの多くの端末に提供しているのが、東証マザーズに上場するACCESSだ。
 
そのACCESSが20日に開いた技術発表会「ACCESS DAY 2008」で、鎌田富久副社長は閲覧ソフト「ネットフロント」の搭載が2008年8月末で1552機種、6億3915万台に達したことを明らかにした。
 
しかもそのうちの約2億台は過去1年間に売ったものだ。この1年間をとると、世界中で1秒に6.3台のペースで、同社の閲覧ソフト搭載端末が出荷されている計算だ。過去に、これほど世界に広がった「日本製ソフト」はないだろう。

 
パソコンとは違い、メモリー容量などが限られる携帯電話は、ウィンドウズのような統一した基本ソフト(OS)がなかった。そのため同社はこれまで、各社や端末の仕様に合わせたソフトを用意していた。だが供給先が世界に広がった今も、そのやり方を続けていては、同社にとっても端末メーカーにとっても、手間やコストがかかりすぎる。
 
そこで現在、アクセス・リナックス・プラットフォーム(ALP)として、「どの通信会社でも共通の『共通プラットフォーム』と、通信会社ごとに異なる『オペレーターパックと』いう形に変える作業を進めている」(鎌田氏)。
 
共通プラットフォームは、リナックスを基盤にした携帯電話用のOS。そしてこの共通プラットフォーム部分の核になるのが、同社が2005年9月に約3億2000万ドル(当時で約358億円)で買収した、米パームソース(カリフォルニア州)の技術だ。
 
ACCESSの当時の連結売上高(2005年1月期)は113億円で、当然、自己資金だけでは買収はできない。そのため時価に応じて転換価格が見直される新株予約権付社債(MSCB)の発行(500億円)や、150億円規模の第三者割当増資などでまかなった。
 
ACCESSの現在の株価は14万円前後(10月21日)。開発途上のALPがまだ収益には寄与していないことや、世界的な株価急落もあって、最高値の時より9割近く下がっている。
 
ライブドアなどに強制捜査が入り、マザーズなどの新興市場に上場する銘柄を中心に株価が急落した、「ライブドアショック」は2006年1月のこと。その直前の2005年といえば、新興企業が高株価をテコに、積極的な資金調達が可能だった「新興市場バブル」のころだ。
 
ACCESSも、その新興市場バブルの渦中だったからこそ、百億円規模の資金を調達でき、米パームソースというモバイル関連の草分けで、最高級の技術を持った会社を、自社に取り込むことができたわけだ。

 
フランスの銀行最大手、BNPパリバが傘下のファンドを突然凍結し、サブプライムローン問題が表面化した「パリバ・ショック」から約1年2カ月。新聞や雑誌、書籍でも、サブプライム問題に端を発した世界金融危機についての言説があふれている。中には「強欲資本主義」などとして、ウォール街や米国の資本主義を否定する論調も少なくない。
 
確かに今回の金融危機をきっかけに、極度に発達しリスクの所在を不透明にしてしまう証券化の仕組み、リスクの拡大志向を助長した金融機関の報酬体系、「評価損」の連鎖をつくりだす時価会計制度など、見直すべき点は少なくない。
 
ただ今回の金融危機の原点となった米国の住宅価格上昇(住宅バブル)には、「功」の部分も多くあった。この価格上昇を背景に米国が世界経済の牽引役になっていたからこそ、日本の景気も回復し、2005年当時の新興市場ブームもあった。ふだん我々が何気なく使っている携帯の閲覧ソフトにも、当時の世界的なバブルが追い風になっていたのだ。
 
米国や日本でネットバブルがはじけた2001年6月、米インテルの会長だったアンディ・グローブが米Wired誌のインタビューで、こんなやりとりをしている。
「ネットバブル崩壊後の調整は健全なことですよね?」という質問に対して「ブームもまた健全だった。なぜならば企業価値の暴騰(ネットバブル)があったからこそ、ネットのインフラに膨大なカネがつぎ込まれたからだ」と答えている。グローブは「バブルの功」の部分も、しっかりと認識していたわけだ。
 
今回の金融危機をきっかけに、世界は低成長経済に移行するだろう。特に金融面ではさまざまな是正が進むだろうが、それとともに「バブルの功」もかなりの部分、失われるだろうことを、我々はしっかりと覚えておく必要がある。

(2008・10・21)


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