第60回 分かってない!風力発電はエネルギーにも雇用にも地域経済にも寄与

自然エネルギーブームでも見落とされる風力発電
 
鹿島臨海工業地帯の一画を形成する茨城県神栖市。東日本大震災の後、この神栖市の海岸沿いに国や自治体の関係者がひっきりなしに訪れる場所がある。
 
護岸から約50メートル離れた海の上に、7基の風車が並ぶ。日立製作所製の発電機の出力は1基当たり2000キロワットで、合計1万4000キロワット。7基で年間7000世帯分の電力がまかなえる。ベンチャー企業のウィンド・パワー・いばらき(水戸市)が運営する、国内初の本格的な「洋上風力発電所」だ。

福島第1原子力発電所の事故を受け、にわかに注目を集める自然エネルギー。ソフトバンクの孫正義社長が全国の35道府県と「自然エネルギー協議会」を設立し大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設を目指したり、退陣前の菅直人前首相が「日本中で1000万戸の屋根に太陽光パネルを設置する」と表明したりするなど、太陽光にからむ動きが活発だ。
 
それに比べると、世の中の関心度が今ひとつ落ちるのが風力発電だ。1つの要因は有力な風車メーカーが、日本にはないことだ。国内最大手の三菱重工業でも世界のトップ10に入れない。


今の日本でも1億4000万キロワットまで導入可能
 
もう1つの理由は、風力発電には騒音や振動などの問題があり、国土が狭く人口が多い日本では設置場所がある程度、限られることだ。だが洋上に風車を設置すれば、こうした課題を解決できる。一見、洋上での建設は地震や津波に対して弱そうに思えるが、今回の地震と津波でも被害は全くなかった。国や自治体の関係者がこの洋上風力発電所に注目するのは、このためだ。
 
同社は来年1月には、現在の発電所の北側に第2の発電所で、風車8基からなる「ウィンド・パワー・かしま」の建設を始める。これまでは洋上といっても陸上からクレーンなどを使って建設していたが、次の風車は船を使って建設する。さらにその先には、風車を100基設置するメガサイトの構想も持つ。
 
実は日本でも、風力発電の普及余地は小さくない。
環境省が今年4月にまとめた「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によれば、風力発電の導入ポテンシャルは最大で、陸上が出力2億4000万キロワット、洋上が16億キロワットと、巨大な数字だ。
ただしこれは現在審議中の、発電した電力を全量買い取ってもらえる「固定価格買い取り制度(FIT)」が導入され、しかも事業費の3分の1の補助金がつくこと、技術革新があることなどを仮定した数字だ。
 
より現実的なFITのみが導入された場合は、2400万~1億4000万キロワットが導入可能と試算した。


風力発電事業は自動車産業に似ている

一般に、風は不安定なため、風力発電の稼働率は25%程度とされる。震災後は原発の稼働率も低下しているため、原発の稼働率を50%と仮定しよう。するとこの「2400万~1億4000万キロワット」という数字は、出力100万キロワットの原発12~70基分に当たるのだ。
 
風力発電のもう1つの魅力は雇用創出能力だ。
 
自動車の部品点数は2万~3万点。この部品点数の多さが、企業の層が厚く、雇用創出能力がきわめて高い自動車産業を形成する源になっている。
部品点数の多い自動車は親会社と下請け企業など会社同士の「擦り合わせ」が重要で、海外への移転が難しい。製品の電子化が進み、擦り合わせなしでも組み立てることが可能になった電機業界に比べ、国内に自動車関連産業が多く残るのはそのためだ。
 
大型の風車も自動車に似て、部品数は1万~1万5000点と多い。しかも風車は長期間、できるだけ保守の必要を少なく動かしたいため、高い信頼性のある部品が必要だ。自動車と同じく、典型的な擦り合わせ型の産業なのだ。


100万キロワットの発電で1万4000人の雇用が生まれる

実際、現在でも自動車と風力発電の分野では、プレーヤーが重なる。ベアリングは両分野で欠かせない部品だが、プレーヤーは日本精工やジェイテクト、NTNなど共通だ。富士重工業は自動車メーカーであると同時に、風車の国内トップメーカーでもある。
 
日本にはトヨタを中心とした中部地方、富士重工業や日産自動車を中心とした北関東など、層の厚い自動車産業がある。こうした地域で風車産業を大きくすれば「これまでの企業群も活かせるし、雇用も増やせる」と、風力発電に詳しい足利工業大学の牛山泉学長は強調する。
 
みずほコーポレート銀行産業調査部の試算によれば、毎年出力100万キロワットのペースで風力発電を導入すれば、製造業だけで1万2500人の雇用が創出されるほか、風力発電所建設に1200人、運営管理に毎年300人の雇用増が期待できる。
 
大震災後の復興を考えるとき、原発に代わるエネルギーを確保しつつ、同時に国内に雇用を増やす妙策はなかなか見当たらない。しかし「風力」には少なくとも、どちらも両立できる可能性がある。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2011・9・6)


トップページ -> 地方経済の視点 -> 第60回 分かってない!風力発電はエネルギーにも雇用にも地域経済にも寄与