第6回 商店街や地場小売業の脅威、イオンとの付き合い方

南北を分かつ駅前ロータリー
 
この夏、久しぶりに高知市を訪れた。この1年ほどで最も大きな変化は、JR土讃線が高架になり、古びた駅が橋上駅舎の「新高知駅」として生まれ変わったことだ。

県産のスギを使った大屋根、JR四国としては初めて導入した自動改札など新しい駅の売り物はいくつもある。だが市民にとってより大きいのは、高架化により、これまでは踏切によって遮られがちだった南北の行き来が、格段にしやすくなったことだ。
 
高知駅を真南に下ると「よさこい節」にうたわれた「はりまや橋」があり、その東西には帯屋町などの中心商店街が広がる。一方、駅から真北へ進むと、2000年に開業した「イオンモール高知(当時はイオン高知ショッピングセンター」がある。
 
高知駅が橋上駅舎となったことで、この駅から南と北に伸びる道が結ばれた。だが奇妙なのは、徒歩や自転車では駅の南北を簡単に行き来できるのに、現状では南北にロータリーをつくるなどして、わざわざ車が通り抜けられないようになっている点だ。まるで誰かが、駅南側の中心商店街と、イオンを中心に全国チェーンが数多く出店する北側とが結ばれることを、頑なに拒んでいるかのようだ。
 
多くの地方都市の中心商店街や地場小売業にとって、郊外に巨大なショッピングセンターを出店するイオンは「脅威」といえる存在だ。
 
郊外の、高速道路のインターチェンジ近くに出店し、広域の商圏を獲得。つられるように家電量販店や飲食店などの全国チェーンも進出して、ますますその地域の客を集める。そのうち駅前など個人商店や地場資本のスーパーなどで構成する中心商店街では廃業が相次ぎ、徐々にシャッター街と化していく――。これが、イオンの進出に伴う中心商店街衰退の典型的なパターンだろう。
 
高知市も、ある程度までは先の例が当てはまる地域だ。
 
1998年に、四国山地を縦断する高知自動車道が、高知市に隣接する伊野インターチェンジまで延伸。2000年にはイオンモール高知が高知インターチェンジ近くの工場跡地に開業した。
 
開業前には、高知市の中心商店街などが進出に反対し、世論は賛成派と反対派とに分かれた。またモール内にシネマコンプレックス(複合型映画館)を増築する際には、高知市が映画館増設のための手続きを認めず、裁判になったりもした。
 
実際、イオン出店の影響は大きく、高知市中心部9商店街の2007年12月の空き店舗率は前年比3.72ポイント増の11.78%となり、調査を始めた98年以降で最悪の数字となった。またシネコン開業前には、市内中心部にいくつもの映画館があったが、次々と閉館し今や残るのは1館のみになってしまった。


果敢に戦いを挑む小売業
 
イオンモールが商店街や地場小売業に与える影響力の大きさを考えれば、関係者がイオンを恐れるのは仕方がない面もある。だが一方で、相手の懐に飛び込むような、果敢な戦い方をする地場小売業もある。
 
イオンモール高知の真向かいにあるスーパー「サンシャインベルティス」。元々は地場スーパー、高知スーパーマーケット(高知市)の前里店だった場所だ。だが目の前で開業したイオンに顧客を奪われるなどして2006年10月に、高知スーパーは自主解散した。
 
この前里店を引き継いだのが、高知県を中心にボランタリーチェーンを運営するサンシャインチェーン本部(同)。武器は、全国規模の小売業にはまねのできない地場に密着した経営だ。
 
8月のある平日のサンシャインベルティス。顧客は比較的少ない時間帯だが、売り物とする地場産品の売り場「太陽市」には多くの客が集まっていた。
 
他の直営店の分も合わせて約1000戸の地元農家と契約し、朝にとれたトマトやナス、ミョウガ、スイカなどの旬の野菜・果物を販売している。生産物の多くには「○○さんの野菜」という案内や直筆のコメントがつけられており、生産者の顔がよく見える。魚売り場に目を転じれば「森田さんのうなぎ蒲焼」と、ウナギの蒲焼きにも生産者のコメントがつけられていた。県内を流れる渓流、仁淀川でとれたシラスウナギを育てたものという。
 
ベルティスを出て、横断歩道を渡れば、そこはイオン。同じように、食品売り場を歩いてみた。地産地消には力を入れている様子だが、ベルティスほどのインパクトはない。
 
イオンの入口に立ってみると、思いのほか両店を行き来している人がたくさんいる。関係者によると「ベルティスで食料品を買って、イオンで衣料品を買ったり映画を楽しんだりという人は多い」という。


強みを生かし合う共存共栄への道
 
ベルティスの2008年12月期の売上高は当初の目標を3億円上回る23億円だった。一方のイオンモール高知の同2月期の売上高は前期比2%増の277億円で、過去最高を記録。どちらも強みを生かし合った結果だろう。
 
高知市の中心商店街も、これまで単に手をこまぬいてきたわけではない。98年に高知城近くに開店した大型屋台村「ひろめ市場」は県内の地場産品の販売店、飲食店など約60店を集め、県内随一の人気スポットに成長した。
 
また高知市の中心商店街で始まった、女子大生が商店街の清掃活動や案内に取り組む「エスコーターズ」の活動は、他の地方都市にも広がった。イオンの勢いに押されているとはいえ、強みがないわけではない。
 
県内の金融関係者は「本来、イオンと商店街の強みは違うはず。イオンと商店街の間を無料のシャトルバスで結ぶなどの逆転の発想があってもいいのでは」と提案する。サンシャインベルティスのやり方を観察すると、イオンとの上手な付き合い方がないわけではないことが、よくわかる。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2008・8・26)


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