第56回 現場を歩いて見えてきた那珂湊おさかな市場復興の姿

県内外から詰めかけた客に威勢のよいかけ声
 
5月の半ば、茨城県水戸市に所用があったついでに、茨城県から福島県にかけての海岸沿いを訪れた。東日本大震災から2ヵ月あまり。地震や津波の被害と、そこからの復旧、復興をめざす地域の実情を、この目で確かめてみたかったからだ。

スタート地点の水戸市。JR水戸駅周辺の人通りはほぼ元通りになっているものの、少し目をこらすと、今も地震の爪あとがここかしこに残ることがわかる。
例えば駅近くの水戸市三の丸にある水戸藩の藩校、弘道館。建物の壁や建具などが損傷したほか、八卦堂(はっけどう)の弘道館記碑が崩落し、有料区域は今も閉鎖中だ。
 
弘道館記碑は、水戸藩のみならず日本の学問の魁(さきがけ)にしたいという第9代藩主、徳川斉昭の強い意志のもと藤田東湖が起草したものだ。
 
水戸駅前でレンタカーを借りて次に向かったのは、水戸駅から15キロ程度、ひたちなか市那珂湊(なかみなと)地区にある「那珂湊おさかな市場」だ。
「いらっしゃい、いらっしゃい、地物だよ」
「茨城産の干物だよ。1300円だけど、大きくまけて1000円にしておくよ」
「マグロ、半額だよ」
 
県内外から詰めかけたお客に、市場の売り子たちが威勢よく呼びかける。客たちは次々と、ケースごと鮮魚や干物を買い求めていく。こちらの予想に反して、市場は以前訪れたときと変わらないような活気にあふれていた。


これほど安くておいしい寿司はよそでは味わえない
 
魚の売り場とともに人気がある回転寿司の店に入る。時刻はまだ午前11時前だというのに、店の前には既に入れない人の行列ができている。
 
大半のネタが300円か200円の皿。ちょうど今が旬のカツオを頼むと新鮮でネタの大きい寿司が出てきたが、それでも1皿(2貫)200円だ。茨城の名物、アンコウの味噌汁などを含めて腹一杯食べても、3000円でお釣りが来た。
「いやあ、ここじゃないと、これほどおいしくて安い寿司は食べられない」と、隣にいた40代の男性客が話す。
 
売り子の元気のよさに注目していると気づかないが、少し見渡すと、市場にも残る津波の爪あとが見えてくる。元からある駐車場は被災して使えず、今は周辺に確保した臨時駐車場を利用する。
 
JR常磐線の勝田駅とおさかな市場のある那珂湊や、阿字ケ浦を結ぶ第3セクターのひたちなか海浜鉄道は路線と駅設備の多くが被災し、7月半ばまで全面復旧できない見通しだ。


津波の被害に原発の被害が重なった
 
那珂湊おさかな市場は那珂湊漁港に隣接し、鮮魚店や食堂など19店が立ち並ぶ。地元の漁港でとれる海産物以外にも、北海道産のウニやイクラ、ロシア産のカニなど、多くの商品が集まる「海産物のデパート」だ。
 
1995年11月にオープンし、それから15年あまりで年間140万人が訪れる関東有数の観光市場に育った。今年3月14日には北関東3県を結ぶ北関東自動車道が開通。群馬や長野など、これまでは馴染みの薄かった地域からの集客も期待されていた。その矢先におさかな市場を襲ったのが、東日本大震災による津波だった。
 
3月11日、那珂湊漁港を4メートル超の津波が襲う。市場にも2~3メートルの津波がやってきた。
 
鮮魚類はもちろん、ショーケース、冷凍機などすべてが流された。関係者が翌日、市場までくると、商品の生きたカニが泥の上を歩いていたという。
 
人的な被害はなかったものの、被害総額は約22億円。その上、福島第1原子力発電所の事故により大量の放射性物質を含む汚染水が海に流れ出し、茨城県北茨城市沖で採れたコウナゴからは国の暫定基準値を上回る放射性セシウムが検出された。


日を追うごとに戻りつつある客足
 
その結果、「茨城の魚は危ない」という、原発事故による風評被害にさらされることになる。被災当初、復旧は早くても3カ月先と見られていた。
 
だが津波が引いた震災翌日から関係者は復旧に動き出した。姉妹都市で、漁業仲間が多い宮城県石巻がはるかに深刻な被害を受けたことを知り、全店総出で泥をかき出したり、冷凍機を新たに購入したりした。そうして、わずか50日後、大型連休直前の4月末に営業再開を果たした。
 
営業再開の報せが行きわたってないこともあり、大型連休中の客足は5割程度だったが、日を追うごとに、客足は戻りつつある。
 
福島第1原発事故はいまだ冷温停止状態に持ち込めず、放射性物質の問題も完全に収まったわけではない。そんな中でもおさかな市場を訪れる消費者の胸中には「風評の中でも市場を応援したい」という気持ちがあるはずだ。
 
おさかな市場の素早い復旧と、そこに戻りつつある消費者の姿を見ると、これからの東北の復興の道筋にも、おぼろげながら希望がもてるのだ


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2011・5・18)


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