第54回 内需産業が生き残るための唯一の処方箋は「外」とつながること

長引く不況の本当の原因
 
2月下旬、総務省は2010年国勢調査の人口速報値を発表した。同年10月1日時点での日本の総人口は1億2805万人と2005年の前回調査に比べ0.2%増(年率換算で0.05%)とわずかに増えた。
 
だが国勢調査は5年ごとのもの。厚生労働省の人口動態調査では2007年から出生数が死亡数を下回る「自然減」が起こっている。

都道府県別で見ると、人口が増えたのは東京都(4.7%増)、神奈川県(2.9%増)、千葉県(2.7%増)など9都府県にとどまり、秋田県(5.2%減)、青森県(4.4%減)、高知県(4%減)など38道府県で減っている。東名阪などの大都市、北海道や沖縄県などの一部を除けば、日本は「人口減社会」に突入しているわけだ。
総人口の動きももちろん重要だが、経済との関連でより重要なのは、今後発表される15歳以上64歳未満の「生産年齢人口」だ。
昨年の新書のベストセラー、『デフレの正体』(角川書店)で、著者の藻谷浩介・日本政策投資銀行地域企画部参事役が指摘するように、この世代は労働力を担い、消費の中核となる「現役世代」だからだ。そしてこの生産年齢人口の減少こそ、日本の長引く不況の根本的な原因だ。


見方によって違う業況判断
 
生産年齢人口の波が、日本や地域の経済にどんな影響を及ぼしているのか? 
例えば東京という大消費地に近い、群馬県を例に考えてみよう。
 
群馬県内の景気はいま、全国との比較の中で、それほど悪い状況ではない。日銀前橋支店が12月に発表した短期経済観測調査(短観)の業況判断指数は全産業でマイナス4と、1年9カ月ぶりに悪化した。
ただ9月段階の予想(マイナス16)よりも、全国の全産業の数値(マイナス11)より、かなり上の数字。地域別の短観を発表している日銀の33支店・事務所の中でも「上から2番目」(日銀前橋支店)の数値だ。
 
回復の主役は県東部の富士重工業を中心とした自動車産業。富士重は米国など海外への輸出が好調で、自動車大手の中でも、昨年9月のエコカー補助金制度終了の影響が最も小さかった。自動車産業に力点を置く人からは「明るい兆しが見えてきた」という声が聞かれる。
 
一方、小売りや卸、建設など国内需要に基づく非製造業を注目する人からは「一向に上向かない。政府はもっと景気対策に力を入れるべきだ」といった厳しい声が聞かれる。実際、日銀前橋支店の12月短観では、製造業の業況判断指数はプラス7だったのに対し、非製造業はマイナス18。その差は大きい。


生産年齢人口と小売業販売額は重なる
 
実は業況判断指数で、非製造業が製造業を下回る傾向は1990年代前半から続く傾向だ。IT(情報技術)バブルがあった1996年頃、円安傾向で輸出が好調だった2003年から2007年にかけて製造業は指数がプラス圏内を推移した。
 
一方、非製造業がプラス圏内に浮上したのはわずかな期間しかない。こうも不振が長く続くのは、景気の波だけでなく、より大きな要因があるからだ。
群馬の総人口は、ピークが2005年の203万人で、そこから直近の2009年まで1.2%減ったに過ぎない。だが生産年齢人口は1998年の136万人をピークに11年連続で減り続け、その減少率は7.3%にもなる。
県内小売業の年間販売額を、経済産業省の「商業統計」から調べてみると、ピークは1997年で、その後はずっと減り続け、最も新しい統計がある2007年は1997年比で9%減った。つまり生産年齢人口のカーブと小売業年間販売額のカーブはかなり重なるのだ。地価など同様のカーブで下がり続ける指標は多い。


外に出て成功したヤマダ電機

長引く低迷の原因は景気よりも「生産年齢人口の減少」。だとすれば、政府による景気対策があったとしても、大きな効果が期待しにくい。むしろ内需型産業でもいかに地域の外から、あるいはグローバルで稼ぐかが盛衰を左右する。
 
小売業の販売額が9%減った1997年から2007年の10年間。群馬に本社を置きながら県外に積極的に事業展開したヤマダ電機は同時期に売上高を10倍以上に伸ばした。人口減のもとでも業績を伸ばす小売業は、いずれも地域の枠にとどまらず、外に出る、あるいは海外進出も視野に置く会社だ。
 
人口増の時代であれば、地域の中にとどまっていても、それなりの成長が期待できる。だが今、座して景気回復を待っていれば、それは緩やかな衰退を意味する。内需型産業でも地域に外国人や域外の人を呼び込む、グループで海外に進出するなど、外とつながる工夫なしでは成長はあり得ない。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2011・3・1)


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