第53回 TPP絶対反対ばかりじゃないだろう、農産物直売所大繁盛に見る農業の可能性

駅ナカならぬ道ナカが大繁盛
 
昨年12月1日、関越自動車道の三芳パーキングエリア(PA、埼玉県三芳町)上り線で、商業施設「パサール三芳」がグランドオープンした。1年前に開設した第1期分も合わせると、レストランやショッピングなど全部で24店舗となり、商業施設全体の広さは改良前と比べると約4倍の3400平方メートルに広がった。

関越道や上信越自動車道を使って新潟、長野、群馬県方面から東京方面へ向かうとき、三芳PAは「最後に立ち寄るPA」だ。東日本高速道路会社が管理するPAの中でも群を抜いて利用者が多い。
 
同社によると、パサール三芳ができる前でも三芳PA上り線の利用者は年間約460万人おり、グランドオープン後は約660万人を見込む。新施設はいわばJRグループが各地で力を入れる「駅ナカ」ならぬ「道ナカ」を狙った施設だ。
 
地域の名産である狭山茶の店や川越の菓子店など特徴ある店が多いが、中でも客を集めているのは農産物・農業資材販売のファームドゥ(前橋市)が出した農産物直売所「食の駅パサール三芳店」だ。観光地から東京へ帰る観光客らを狙い、群馬を中心に新潟や長野、埼玉など高速沿いの農家から直接仕入れた農産物や加工品を扱い、販売している。


入手困難の「ブランド品」が続々と登場
 
開店直後の12月に話題を呼んだのは、群馬と埼玉のブランドねぎである「下仁田ねぎ」と「深谷ねぎ」を並べたコーナー。ねぎの生産量が全国2位(2008年)である埼玉の主力ブランドである深谷ねぎは他でも手に入りやすいが、一方の群馬の下仁田ねぎはきわめて手に入りにくいブランドねぎだ。
 
白根の長さが15~20センチと短く、太く、煮ると独特の甘みが出る。下仁田ねぎという品種はあるものの、それを原産地である群馬県下仁田町以外で栽培しても、おいしいものはできない。下仁田町の農家は春と夏に2回の植え替えをするなど、栽培には膨大な手間をかけている。
 
本物の下仁田ねぎは贈答用や東京などの料亭に出荷されるため、店頭ではきわめて手に入りにくい。しかしファームドゥはこれまで農業生産者と直接の取引関係を築いてきたことを生かし、下仁田ねぎの本場である同町馬山地区の生産者から直接仕入れ、新店舗の店頭に並べられるようにした。
 
コメのコーナーも面白い。日本一高価と言われる新潟県南魚沼市産のコシヒカリと、国内最大規模のコメ審査会で2年連続金賞をとった群馬県川場村の「雪ほたか」を並べた。単に産地直送の農産物を並べるだけでなく、他の場所でも工夫を凝らし、東京方面へ向かう利用者が楽しみながらお土産などを選べるようになっている。


直売所は生産地で売っても駄目だ
 
同社がこうした売り方を行なえるのは、群馬や東京などで農産物直売所を手掛けてきたノウハウがあるためだ。
「すでに田舎で直売所が飽和状態で、これからは東京など大消費地に近づくことが必要」とファームドゥの岩井雅之社長は考える。直売所というと農産地周辺に集中しがちだが、同社は直売店のチェーン化を進めてきた。食の駅パサール三芳店は24番目の店舗になる。
 
同社の直売店は、生産者が農産物を店や産地近くの集荷場に持ち込み、自由に価格を設定する仕組み。同社が販売を担い、販売額から手数料を差し引く。
 
東京方面へは関越道を使い、群馬の主力店舗にからトラックで日に何度も配送するため、店頭に並ぶ農産物はほぼ24時間以内に採れたものばかりだ。
 
同社が取引のある生産者は群馬県内を中心に約5000人。JAなどを通して市場経由で販売すると商売にならないような小規模の生産者も、生産物の質がよければ食の駅の店舗で売れるため、それなりに現金収入を得ることができる。
 
さらに最近力を入れているのが、「安全・安心」の野菜の生産・販売。ミネラルを与えた土で育てる「ミネラル野菜」を生産者と連携して栽培している。農薬を減らせるほか、味が濃くておいしく、日持ちもするため、消費者から高い支持を得ている。
 
新鮮で味が良く、安全・安心な農産物を求める消費者と、そうした消費者とできるだけダイレクトにつながりたい生産者。ファームドゥの事業モデルは、両者をうまく結ぶことで成り立っている。


消費者が農業に求めるニーズは何か?
 
昨年10月の臨時国会の所信表明演説で、菅直人首相が「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉などへの参加を検討すると表明したことをきっかけに、日本の農業現場では、「TPP反対、農産物の自由化阻止」という声が渦巻く。ただ日本が何よりも工業立国であることを考えれば、遅かれ早かれ、農産物の自由化が進むのは確実だろう。
 
日本のTPP参加や、農産物自由化への対応策としてあがるのは、大規模化で生産効率を上げることだ。
 
大規模化による生産効率の向上はもちろん大切だが、消費者が農業に求めるニーズは効率性や価格の安さばかりではない。パサール三芳で食の駅が繁盛しているのを見ると、都市近郊のそれほど規模の大きくない農業でも、消費者との間をつなぐファームドゥのような存在があれば、そのニーズを満たす道があることがわかる。
 
TPP時代に都市近郊の小規模農家でもやっていける道。そのヒントがこの店には隠されている。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2011・2・2)


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