第50回 日本がロボット産業を育てなければならない2つの「理由」

自動車会社の海外移転加速で取り残される2次下請け
 
1ドル=80円台前半の円高が定着し、環太平洋経済連携協定(TPP)に参加するか否かの議論が巻き起こったここ数カ月。自動車をはじめとした日本メーカーが、海外に生産の軸足を移す動きが相次いだ。

自動車だけをとってみても、海外生産加速のニュースがいくつもある。日産自動車は今夏、タイの工場から新型マーチの対日輸出を始めた。海外で生産した車を日本に逆輸入し販売した例は過去にもいくつかあるが、マーチのような主力車では初めてのケースだ。日産はマーチを1982年の発売以来、追浜工場(神奈川県横須賀市)で作っていた。
 
スズキや三菱自動車もインドやタイに新しい工場を建設する。これまでは全販売台数の約4分の3を国内の群馬県太田市の群馬製作所で生産してきた富士重工業も、中国での現地生産を年内に決める計画だ。
 
1995年4月19日の史上最高値79円75銭に迫る円高。諸外国と比べて高い実効税率。各国との自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)が進まないために、日本製品を輸出するときの関税が韓国などに比べて不利――。こうした状況を考えれば、FTAに積極的な国などに、日本企業が工場を新設しよう、移そうと考えるのは当然のことだ。
 
完成車メーカーが海外での現地生産を進めるとき、中核部品を生産する1次下請け企業は一緒に進出することも可能だろう。だが2次下請けより下のクラスの会社になると、企業の規模や資金面から見て、完成車メーカーとともに海外へ進出するのはかなり難しい。


構造が似ている自動車産業とロボット産業
 
日本の地域経済に占める自動車産業の存在感は大きい。2009年の工業統計調査(速報)によると、製造品出荷額(263兆円、前年比21.7%減)に占める輸送機器の比率は17.8%だ。08年秋のリーマン・ショックの影響で構成比は前年に比べ1.3ポイント下落したとはいえ、それでも2位の食料(9.2%)に大きな差を付けている。
 
都道府県別で見ると、輸送機器が1位なのは愛知県(48.4%)、群馬県(30.3%)、広島県(26.8%)など16県にもなる。自動車産業はすそ野が広く、完成車メーカーを筆頭に1次、2次、3次と下請け企業群のピラミッド構造ができている。地域の大黒柱である完成車メーカーが海外に生産を移したとき、仕事がなくなってしまった下請け企業群をどう維持するか、支えるのかは避けて通れない課題だ。
 
そこで提案したいのが、自動車産業に代わるものとしてロボット産業を育てること。第一の理由は、自動車の部品メーカーなどが移行しやすいためだ。
 
藤本隆宏・東京大学ものづくり経営研究センター長が指摘するように、製造業にはさまざまな会社が協力し合いながら部品を組み立てていく「すり合わせ(インテグラル)型」と、基幹部品を中心に簡単に組み立てられる「組み合わせ(モジュール)型」とに大別できる。
 
日本が得意とするのは前者のすり合わせ型で、自動車産業がまさにこの形。電気製品の生産が自動車に先だって中国などアジアに移転してしまったのは、電気製品の電子化が進み、ICひとつあれば、その製品の主要機能がカバーできるものが主流となり、産業の構造がすり合わせ型から組み合わせ型に変わったことが一因だ。
 
一方ロボット産業は自動車に似ている。部品点数が多く高度な組立技術が必要とする。素材を加工する会社、部品をつくる会社、組み立てる会社と、関係する会社がピラミッド構造なのも自動車と同じだ。


2020年からの労働力不足を補うための方策
 
ロボット産業を育てたいもう1つの理由は、介護支援、家事支援、清掃、点検、高齢者との交流など「サービスロボット」の開発が待たれている状況があることだ。
 
厚生労働省や国立社会保障・人口問題研究所などの推計によると、2005年から2025年の間に、日本の労働力人口(15~64歳)は470万人減り、高齢者人口(65歳以上)は933万人増える。そのギャップは1403万人。これだけの「労働力」が必要とされることになる。
 
現在(2008年)の日本のロボット産業の出荷額は約6500億円で、製造現場で組み立てのために使われる産業ロボットが主流。今年4月、経済産業省が「2035年に向けたロボット産業の将来市場予測」を発表したが、これによると2015年の市場規模は1兆6000億円、2035年には9兆7000億円という規模で、前述のようなサービス分野がけん引役となる。
 
ただこうした潜在市場があるとはいえ、順調にロボット市場が育つ保障はない。産業技術総合研究所の比留川博久・知能システム研究部門長は「2020年には日本は少子高齢化でどうしようもなくなる。その5年前の2015年までに使える生活支援ロボット、サービスロボットが開発できなければ、足りない労働力を外国人の若年労働者に頼るか、日本人の生活レベルを落とすかの選択を迫られることになる」と警告する。
 
続々と海外に生産機能が移転する自動車市場。一方で使えるサービスロボットが開発できなければ、もしかしたら市場そのものが幻に終わってしまうかもしれないロボット産業。2つの意味からロボット産業を早急に伸ばす必要があるのだ。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2010・11・11)


トップページ -> 地方経済の視点 -> 第50回 日本がロボット産業を育てなければならない2つの「理由」