第49回 政府支援のあり方を考えさせる日本の技術「金型産業」の未来

2、3位が合併、1位は買収された金型業界
 
自動車用金型で国内2位の富士テクニカ(ジャスダック上場、静岡県清水町)と同3位の宮津製作所(未上場、群馬県大泉町)が9月中旬、事業統合することを発表した。富士テクニカは政府系の企業再生支援機構から53億円の出資を受け、宮津製作所の事業を買収する。

企業再生支援機構が出資することから明らかなように、業界の2、3位とはいっても両社は苦境に陥っていた。富士テクニカの連結売上高は2005年3月期の287億円を境に減り始め、11年3月期には137億円とピーク時の半分以下になる見通し。宮津製作所にしても08年2月期に157億円だった売上高が10年2月期には71億円まで落ち込み、債務超過に陥っていた。
 
そのため2社統合による再生計画は、両社にとって厳しくて苦い内容だ。2社合わせて6つあった国内工場は3拠点に集約。従業員は1050人から680人に減らされる。現在の経営陣も総退陣し、社長にはスズキの和久田俊一氏が就く。
 
2位、3位の会社がこれだけの苦境にさらされているとき、業界トップの会社はどうなっているのか?
 
群馬県の太田市周辺を車で走らせると、側壁に「OGIHARA」とブルーの目立つ文字で描かれた工場に、いくつもでくわす。金型の最大手、オギハラ(未上場、群馬県太田市)の工場だ。工場の規模の大きさや新しさは、例えば3位の宮津とは大違い。そこだけを見ていると「さすが1位企業」と思ってしまうが、実はこの会社も安泰ではない。
 
2009年2月、タイの自動車部品大手タイ・サミットがオギハラに資本参加し、その後出資比率を高めて傘下に収めてしまった。また今年の3月には、中国の大手自動車メーカー比亜迪(BYD、広東省)がオギハラの4つの工場の1つ、館林工場(館林市)を買収した。つまり工場は健在だが、経営は創業家の手から離れ、タイや中国の会社のものになっているのだ。


グローバル化を進めてリーマンショックに沈む
 
金型とは、自動車のボディなど工業製品を大量生産するのに欠かせない「型」のこと。自動車や家電などほとんどの工業製品の生産に使われ、かつて金型産業は日本の「お家芸」とも言われていた。それが今や1位企業は外資の傘下に入り、2位と3位企業は業績不振の末に事業統合する。ここ10数年のうちに、金型業界には何が起こったのか?
 
金型の大手はかつて、日本の自動車メーカーの仕事が中心だった。オギハラと宮津の本社は、富士重工業の群馬製作所(太田市)のお膝元にある。
 
だが日本の自動車メーカーが金型を自社でつくる動きを進めたことから、米ゼネラル・モーターズ(GM)や英ロールスロイスなど海外メーカーに、受注先を広げていった。同じ自動車関連でも、親会社の系列色が濃い部品メーカーなどと比べると、より早くからグローバルな仕事をしていたわけだ。
 
ところがその分、07年から08年にかけての世界金融危機やリーマン・ショックの影響も強く受けることとなった。
 
世界中の自動車会社は在庫を抱え売り上げを急減させたため、「金型会社の受注も直近の半分程度にまで急減」(金型業界の関係者)。各国政府による自動車買い換え刺激策などで、自動車の売り上げが回復しだしたあとも、自動車会社はモデルチェンジの間隔を延ばすなどしたため、金型会社の受注の回復はなかなか進んでいない。
 
その中で仕事をとろうとすると、日本の技術をうまく後追いしながら力をつけてきた中国などアジアメーカーとの価格競争に巻き込まれ、富士テクニカや宮津などは原価割れの仕事を受ける状況になっていた。


政府が支援しても蘇るとは限らない
 
事業統合発表の記者会見では、2社から「内部要因としては原価管理がうまくできず、中国勢への対応が遅れてしまった」(宮津製作所の宮村哲人社長)、「金型業界は50年間変わらず、周囲の変化に追いついていなかった」(富士テクニカの糸川良平社長)と反省の弁が聞かれた。
 
金型業界の中では今回の再編劇を「ようやく政府が手をさしのべてくれた」と企業再生支援機構の出資を歓迎する声もあるが、一方で「大手が苦境に陥ったのは、技術を海外勢に教えてしまい、しかも最近は技術力を必要としない低価格の仕事の量を増やしていたため」(中堅金型会社の社長)として、"自業自得"と見る関係者もいる。
 
この中堅金型会社の社長は「ハイテン(高張力鋼板)用など難しい技術で日本の金型会社は中国などアジア勢に負けない。今は価格を追求する会社が多いためアジア勢に仕事が流れがちだが、技術を大事にしていればいずれ品質面で優れる日本に仕事が戻ってくる」とも話す。
 
今回の統合シナリオを描いたのは、09年のタイ・サミットによるオギハラの買収に始まった金型産業の地盤沈下に危機感を抱いた経済産業省だ。だが両社の低迷は原価管理の失敗など自ら招いた面もあり、統合して政府が支援すれば金型業界が甦るとは限らない。
 
先の中堅金型会社のように、規模は小さいが、オギハラ、富士テクニカや宮津に負けない技術を持った金型会社もある。こうした元気のある会社を支援することで新陳代謝を進め、結果的に金型産業を守ることも可能だろう。。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2010・10・13)


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