第48回 円高よりももっと深刻なのは内需の成長という現実

群馬県の経営者が見る景気の実態
 
米証券大手のリーマン・ブラザースが破綻した2008年9月15日の「リーマン・ショック」から丸2年。ショックをきっかけに起こった、世界の経済成長率が戦後初めてマイナスとなる世界経済危機を、日本をはじめ各国は金融緩和や財政の緊急出動による需要喚起策で一応は乗り切った。

だがその後の世界の風景は、ショック前とは大きく変わりつつある。米欧や日本が低成長やデフレに悩まされる一方で、中国やインドなどの新興国は高成長が続く「二極化」が定着しつつある。そして国内。世界の状況ほどわかりやすくはないものの、こちらでもじわり「二極化」が進み始めている。
 
最近、群馬県内のある農業高校のOB会の例会に講師として招かれた。その会はただのOB会ではなく、卒業生の中でも経営者の人たちが集まる会だ。農業高校ということで、卒業生の経営する会社は農業法人や食品、建設、造園など、ほとんどが内需関連の中小企業だ。出席者は30人あまり。
 
その場でふと思い立ち、即席の景況調査をしてみることにした。出席する経営者に現在の景況感をたずね、「良い」「さほど良くない」「悪い」という3つの選択肢から、どれか1つを選んでもらうのだ。
 
こういう聞き方をしたのは、日本銀行の企業短期経済観測調査(短観)の業況判断指数(DI)と同じにするためだ。「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引くと、DIを求められる。日銀は3カ月ごとに短観を発表。全国の数字だけでなく、日銀の33の支店・事務所でもその管内の数値を個別に発表するため、地域の景況感を知るには最も信頼できる指標だ。


日銀調査と大幅に異なった業況判断
 
例えば群馬県の6月短観の業況判断DIは全産業でマイナス4。まだ「悪い」が「良い」を多少上回っているとはいえ、前回調査に比べ15ポイントも改善している。日銀前橋支店の業況判断DIはリーマン・ショック後に急落し、2009年3月にはマイナス61を記録。その後、今年の6月まで5期連続で改善している。
 
だが最近、短観のような経済指標と、実際の経営者の声との間に温度差を感じることが多い。短観、銀行の景況調査、鉱工業生産指数、有効求人倍率といった各種の指標は改善を示しているのに、経営者から聞く声は「このままだと日本経済はどうなるのか」「いい話はない」といった暗いものが多数を占める。それならば、中小企業の経営者が集まった場所で同じように質問をして景況判断DIを求めてみれば面白いと考えたのだ。
 
即席景況調査の結果はマイナス67。おそらく短観の数字よりは悪くなるとは考えていたが、まさか60ポイント以上の差が出るとは考えていなかった。
 
もちろん即席調査の数字は短観のような精緻なものではない。どう答えたかは他の出席者にわかるから「よい」とは答えにくかったかもしれない。


菅新政権に課せられた本当の課題
 
だが2つのDIに大きな差が出た最大の要因は、対象の業種と規模の違いだ。日銀の短観調査の対象は大企業・中堅企業・中小企業、そして31の業種を満遍なく含んでいる。一方で即席調査はほぼ内需関連ばかり、しかも中小企業である。
 
リーマン・ショック後の日本の景気回復の特徴は強く外需、特に新興国の需要に依存している点だ。人口減の時代に入り、デフレが続く日本では、新しい市場を創り出すことはかなり難しい。国内の市場はゼロサムゲームで、一方が伸びれば他方が市場を奪われる構造だ。
 
一方で輸出競争力の強い製品を持つ企業は、外需の恩恵を被っている。1ドル=83円に迫る15年ぶりの円高水準は輸出企業にとってはマイナスだが、既に大企業は生産の現地化を進め、そのときどきの為替水準によって、柔軟に世界の生産比率を変えられる態勢を築きつつある。つまり多くの大企業は既に「国境を越えている」のだ。
 
リーマン・ショック以前にも外需につながった企業と、内需だけに依存せざるを得ない企業との間には差があったが、ショック後の景気回復過程では日本経済の外需への依存度が強まり、両者のその差はさらに開き二極化しつつある。2つの調査のDIの差は、二極に開いた外需型と内需型の差ではないだろうか。
 
14日の民主党代表選では、菅直人首相(党代表)が小沢一郎前幹事長を破り、再選を決めた。新体制の第1の仕事は1ドル=80円割れも視野に入った円高に、どう対処するかだろう。法人税の実効税率引き下げなど、企業を日本にとどめる政策を打ち出さないと、外需企業の国境越え=国内空洞化はさらに進む。
 
ただし課題はそれだけではない。本当の問題は内需だけに頼る多くの企業に、どう成長の道筋つけるかだ。新体制に突きつけられた課題は重たい。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2010.9.14)


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