第46回 その数1000万人以上!? 地方で始まっている「買い物難民」の深刻

首都圏の県庁所在地でも例外ではない

「買い物難民」「買い物弱者」という言葉を頻繁に聞くようになったのは2000年代前半のことだ。当初は地方都市の商店街が、郊外型の大規模店との競争や不況により衰退し、高齢者が食料品や生活用品の買い物に困る現象を指していた。だが今や個人商店の撤退だけでなく、商店街の衰退の原因となったスーパーや大型ショッピングセンター(SC)の撤退によっても、同じ現象が起こったり、問題が深刻化したりするようになった。

群馬県前橋市で今夏以降、大型スーパーとショッピングセンターが相次いで閉店する。JR前橋駅前にあるイトーヨーカドーが8月に。そしてイオン傘下のマイカルが運営し、国道17号沿いにあるSC「前橋サティ」が10月に、店を閉じる。
 
首都圏の、それも人口34万人を超える県庁所在地ですら、多くの住民が「買い物難民」になる日が近づいているのだ。
 
両社とも閉店の理由に挙げるのが「近隣の大型SCや郊外型専門店との競合が激化して、収益が悪化した」点だ。


より大きな跡地に立った店舗が強くなるという構図
 
前橋市近隣では、2006年にイオンが「イオンモール高崎」(開業当時は群馬町=現高崎市)を開業。2007年には前橋駅の南側にユニーが運営する大型SC「けやきウォーク前橋」がオープンした。さらに今年12月には、群馬を地盤とするスーパーのベイシアなどが市南部の前橋南インターチェンジ(IC)周辺に県内最大規模のSCを開設する計画だ。
 
イトーヨーカドーの前橋店は1987年の開業で、元々は地元の老舗製粉会社の本社兼工場だった土地だ。前橋サティは93年の開業。グンゼが製糸工場を営んでいた土地をSCとして再開発した。直営店のほか、ファッションを中心に59の専門店がテナントとして入居しており、この地域ではSCの先駆けだった。
 
一方のけやきウォーク前橋は、2004年に大分県中津市に本社・工場を移転させたダイハツ車体(現・ダイハツ九州)の工場跡地に、開店した。売り場面積は約5万1000平方メートルで、約150店がテナントとして入居する。
 
製粉や製糸は明治から昭和にかけて、群馬を牽引した産業。一方、自動車は今も県経済を引っ張る中心的な存在。群馬における大型店の主役交代は、製粉、製糸という古い産業の工場跡地を再開発した中規模のスーパー、SCが、自動車工場跡地にできたより大型の施設との競争に敗れたという構図でもある。


規模の小さい店舗を閉めれば「難民」はさらに増える
 
個人商店が衰退したり、古いスーパーやSCが撤退しても、より安い、より品ぞろえが豊富で、より便利なモールや大型SCができればそれでいい、という見方もある。だがこうした見方に欠けるのは、車を持たない人や一人暮らし高齢者にとっては、郊外型のモール、大型店は使えないという点だ。
 
経産省は買い物難民の増加など地域の新たな課題へ対応するため、「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会」を設置。その研究会が5月、日本の流通のあり方や発展の方向性についての報告書をまとめた。この報告書では、高齢者に対するアンケート調査などから、現在の買い物難民の数を約600万人と推計している。
 
日本は人口減の時代に入り、地方を中心に、高齢化はますます進む。仮に流通がいまの状態を維持したとしても、車を使えない高齢者が増え、日頃の買い物が難しい人は増えるだろう。流通各社が採算の観点から、イトーヨーカドーのように規模の小さい店舗を閉店して大型化を進めれば、買い物難民の数はさらに上乗せされるだろう。


一人暮らしの高齢者向け「ご用聞き」サービスも始まった
 
この問題を解決するには官、企業、住民の3者がそれぞれの立場から努力をすることが必要だ。
 
まず地元自治体。既に人口減や高齢化に悩む地方自治体の場合は、街の中心部に機能を集めるコンパクトシティ(街の規模の縮小)政策が盛んだ。だが前橋市のような首都圏や大都市近郊の場合は、いまだに郊外開発のウエイトが重い都市が少なくない。こうした自治体は街づくりの方向性を郊外への拡散から、中心への集中に、かじを切るべきだ。
 
国がすべきは規制緩和だ。先の研究会の報告書は、郵便集配車が買い物客も運ぶ英国の「ポストバス」の実例などを紹介している。郵便や宅配、バスやタクシーなど、日常の買い物や生活サービスにまつわる参入規制などで緩和できるものは相当あるはずだ。
 
企業がすべきは、買い物難民に着目した新事業への取り組みだ。群馬県大泉町では、商店街の5店舗が2月、買い物に困る一人暮らしの高齢者らを対象に「ご用聞き」サービスを始めた。書店、食品店、酒屋、洋服店が連携して注文を受け、無料で配達する。こうした取り組みは商店街生き残りの方策にもなるだろう。
 
各地でネットスーパー事業も始まっているが、現状ではパソコンなど情報機器に慣れない高齢者にとっては、使いやすいシステムとはいえない。だが米アップルコンピュータのiPad(アイパッド)の登場で、高齢者にも使いやすいシステムを開発するハードルはかなり低くなった。ぜひこうしたシステム開発を望みたい。住民にとって必要なのは何よりも「商店や公共交通機関は自分たちが支える」という意識だ。
 
人口が減る中では、買い物難民の簡単な解決策はない。官・企業・住民がそれぞれの立場から力を合わせることが不可欠だ。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2010・7・7)


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