第43回 グローバル時代にこそ必要な「ローカル性」という名の視点

なぜ山間部の温泉地でマグロの刺身が出るのか
 
関東近郊の有名な温泉地に泊まったおり、ふと違和感を抱いてしまうことが多いのが、夕食のメニューについてだ。前菜から始まり、主菜はマグロのお造りやエビの天ぷら。最後はそばや御飯ものでしめる。

もちろん、そうではない、地元産品にこだわった食事を提供する旅館やホテルもあるのだが、主流は先に書いたような「海のもの」をメーンに据えた宴会料理である。
 
海沿いの温泉街だったら大いに海のものを食べたいが、どうして海から遠い山間部の温泉地でも、マグロの刺身など海のものを主菜扱いで出すのか。宿泊施設側に「温泉の宴会料理とはこういうもの」という概念が染みついているのではないか。なぜ「地産地消」をもっと進めないのか。そういった疑問を持ってしまうのだ。
 
群馬県内の温泉に宿泊したとき、「マグロの刺身など海のものに頼らず、もっと地産地消にこだわった料理を提供するつもりはないのですか」という問いを、温泉関係者にぶつけたことがある。
 
するとその関係者は「うーん」と少し考え込んだ後、「今日も、マグロの刺身は出しますよ。やはり、マグロがないとさびしいという声が多いですから」と答えてくれた。
 
関東の山間部の温泉地がマグロなど海のものにこだわる理由の1つは、宿泊客の一定割合を占める地元客が「海のものを求めるから」だという。


地元民には支持されていても観光客には不満
 
総務省統計局が、一般勤労者の生活状態を客観的に把握するために実施している「家計調査」。この家計調査で、食品別の1世帯当たり購入ランキング(2006年から2008年の平均)を見ると興味深いことがわかる。
 
鮮魚全体の購入量の上位5位に入るのは、青森市、鳥取市、金沢市など海沿いの町ばかりだ。
 
一方、マグロのみの購入量を見ると、1位こそ、マグロの産地である静岡市が入っているものの、上位5位には甲府市、前橋市、宇都宮市という海なし県の県庁所在地が3つも入っているのだ。
 
静岡県民が産地だからこそマグロの購入量が多いのに対し、山梨、群馬、栃木県民は「海から遠いからこそのマグロ好き」といえるだろう。温泉地の宿泊客に、同じ県民がいることを考えれば、先の温泉関係者の「マグロがないとさびしいという声があるからマグロを出す」という話はある程度、納得がいく。
 
ただ観光庁の宿泊旅行統計(2008年)を見ると、「観光目的宿泊者数に占める地元居住者比率」は群馬県も栃木県も2割弱だ。海のもの中心のメニューは、全体の2割弱の地元民には支持されていても、東京など他地域からやってきた人たちには、あまり支持されていない可能性が高い。
 
実際、東京など全国各地から宇都宮、前橋、高崎など関東の近郊都市に赴任した大企業の支店長クラスに話を聞くと「栃木や群馬の温泉地は、どこも同じような海のものを使った宴会料理を出している」と不満を漏らす人が多い。


地産地消は当然の結果
 
観光客の「地産地消」志向が急速に進んでいるのには、いくつかの背景がある。
 
1つには、食のグローバル化、均一化が進み続けていることだ。例えばマクドナルドの店舗は2009年6月現在、世界118の国と地域に約3万店舗ある。国内でもマクドナルドの店舗がない市を探すことは難しいだろう。
 
東京やニューヨークなどの大都市では、世界の主だった料理のほとんどを食べることができる。こうしたグローバル化、均一化が進んだ時代だからこそ、「ここの土地でしか食べられない」という地場食材やそれを使ったメニューの価値が上がっている。
 
もう1つは、国内の観光がバブル崩壊以降、団体客中心から個人客中心にに大きくシフトしたことだ。団体客ならば画一的な宴会料理でがまんできても、個人客はそれぞれが独自の料理を求める傾向が強い。
 
国内の観光・旅行事情に詳しい清水慎一JTB常務取締役は「国内の観光は大きく変わった。施設中心のやり方が通じなくなり、今はその土地の暮らしそのものが観光資源の時代になった。食については地産地消は当然のことで、観光客は土産物も地場産品以外のものは買わない時代になった」と指摘する。


グローバル化が進むからこそローカルが求められる
 
一般に、グローバルな競争は世界の市場や価値体系を均一化して、一握りの勝者と多くの敗者を生むといわれる。スマートフォン市場で、iPhoneのアップルが快走する一方で、日本の携帯電話メーカーが苦戦する現状は、グローバル競争の典型例だろう。
 
一方でグローバル化が進めば進むほど、ローカル性への要求が強くなる分野もある。グローバル競争の勝者が限られるのに対し、ローカル競争では「小さな勝者」がたくさん生まれる。「食」こそ、そうした分野の1つだ。
 
ただ「小さな勝者」になるには、自らの地域(ローカル)の強みをいかに活かすか、徹底して考える必要がある。画一的な宴会料理を出し続ける関東近郊の温泉旅館の多くは、まだその作業が欠けているように思える。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2010・4・14)


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