第42回 日本有数のイベント「おきゃく」という名の接待祭りに見るパワー

ふだんは閑散としたアーケードが人また人
 
その光景は壮観だった。普段は人通りもそれほど多くはない商店街のアーケードが人で埋め尽くされ、前に進もうとしてもなかなか真っすぐに歩けない。

あちこちでビールを飲み、杯を傾ける歓談の輪ができている。そして知り合いが通るとすぐに「よってき、よってき」といって、輪の中に引きこんでしまう。そうやっていつの間にか、知らない人たちとも、昔からの知り合いのように飲んでいる――。
 
これは3月13、14日の両日、高知市の中心商店街で行われた「日本一の大おきゃく」での光景だ。6日から14日まで行われた、高知の春を彩る音楽や飲食のイベント「土佐の『おきゃく』2010」のトリを飾る催しである。
アーケード約1キロを7つのエリアに分け、午前11時から午後10時まで、食や音楽にからんだテーマイベントを同時多発的に開催。ジャズの生ライブを聴きながら、地産料理を味わうことがもきれば、土佐のお座敷遊びを体験できる場所もある。夜遅い時間まで、アーケードには人が途切れることはなかった。
「おきゃく」とは、土佐でお祝い事や祭りなどで人を招いて家で開く宴会のこと。現在放映中のNHKの大河ドラマ『龍馬伝』の初回で、大森南朋が演ずる武市半平太が結婚式の祝宴で酔いつぶれる場面が出てきたが、この宴こそ、おきゃくだ。


昔からある接待文化を復活せよ
 
土佐のおきゃくが他の地域の人が自宅で開く宴会と趣が異なるのは「まあ、入ってきいや」といった感じで、参加者全体の知り合いでなくても、ときには見知らぬ人でも気軽に加わってしまうことだ。
 
見知らぬ人を客人としておきゃくに受け入れ楽しんでもらうことが、自分たちにとっても楽しみである、という文化が土佐人には根付いている。
 
土佐だけではなく四国にはもともと、四国八十八箇所を遍路している人に、食べ物やお賽銭を差し出しす「お接待文化」がある。土佐のおきゃく文化は、そうした風土のうえに、さらに土佐人の酒好きなところやオープンな気性が重なって、発達したものだろう。
かつては結婚式など祝い事のたびに開かれていたおきゃくだが、最近は自宅でこれらの催しを開く機会が少なくなり、土佐でも「おきゃく」という言葉を聞く機会が少なくなっていた時期もあった。
 
それが復活するきっかけとなったのは4年前、土佐経済同友会や特定非営利活動法人(NPO法人)など民間が主体となって「土佐のおきゃく2006」を始めたことにある。当時、土佐経済同友会の岡内啓明代表幹事は「昔のおきゃく同様、自分たちも楽しみながら、観光客にも楽しんでもらおう」と、その狙いについて話していた。
高知には、夏には全国的な知名度を誇るよさこい祭りがあり、桂浜や四万十川など春夏に向いた名所が多い。だが冬には目立った催しがなく、観光客数もほぼ春夏の半分にとどまっていた。もともと「土佐のおきゃく」はこの観光閑散期の目玉事業として育てたい、という狙いから始まったものだ。


製造品品出荷額全国最下位の現実もパワーに変える

高知の経済人達が当初「土佐のおきゃく」のモデルとしたのは、石川県で1985年に始まった、石川の食文化とそれを育てた風土を満喫できるイベント「フードピア金沢」だ。初期の土佐のおきゃくの中心イベントで、高知ゆかりの著名人を招きホテルや旅館で開くトークディナーショー「土佐の食談」は、フードピアで成功している形式をそのまま「輸入」したものだ。
 
だが土佐のおきゃくも回を重ねるにつれ、高知の独自性が色濃くなっている。冒頭の「日本一の大おきゃく」は2009年から始まったもの。高知市内には、テーブルが並ぶオープンな飲食エリアで真っ昼間から男女を問わず酒を飲んでいる「ひろめ市場」があるが、大おきゃくは、それを商店街全域に広め、さらにイベントの集中的な開催で、パワーアップしたような催しだ。
 
昨年は最終日1日だけの開催だったが、昨年の成功を受けて、今年は2日連続の開催。両日とも商店街は人があふれていた。県外からやってきた男性観光客は「だれとでも友達になってしまうような、この雰囲気がいい」と話す。
 
高知もイベントの喧噪から一歩離れれば、市内中心部にある高知西武百貨店跡地に計画中だった商業ビル建設の計画が頓挫し、結局はパチンコ店と商業施設が入る複合ビルが建設されることになるなど、あまり明るくない話が多い。経済指標の1つである「製造品出荷額」では全都道府県の中で最下位が続く。それだけ地域経済はせっぱ詰まっており、観光にかける意気込みは強い。
今年の人出は、大河ドラマ『龍馬伝』が放映中で、県内各地で「土佐・龍馬であい博」を開催中ということもあるだろう。ただ大おきゃくをはじめ「土佐のおきゃく2010」には、「来てくれた人たちにとことん楽しんでもらおう」という迫力さえ伴った「もてなしの心」を感じた。その精神は、どんな地域でも、人を呼び込もうとするときに参考になるものだ。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2010・3・16)


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