第40回 地方を衰退させたのは「小泉・竹中の構造改革路線」か?

小泉政権下で減った公共事業費の実態
 
地方の現場を歩いていると、2001年4月から2006年9月まで5年半近く続いた「自民党の小泉(純一郎)政権が地方を衰退させた」という声をよく耳にする。1月に筆者が出席したある地域の経済団体の新年会でも、商工会連合会のトップがこんなあいさつをした。

「小泉・竹中(平蔵氏、小泉内閣で経済財政担当相などを務めた)ラインによる構造改革路線が、地方をめちゃくちゃにした。今は『地方の時代』といわれるが、その現状は惨憺たるものだ」
 
彼はこの話をまくらに、本題の商工会改革に話をつなげていった。だが地元選出の自民党議員が来賓として呼ばれている場所での発言だけに、本題より冒頭の小泉政権批判の方がインパクトが大きかった。
 
地方の経済団体首脳や地方企業のトップ、あるいは自治体首脳などからあがる小泉政権時代への怨嗟(えんさ)の声。確かに当時の状況を振り返ると、そうした声を上げたくなるのもわからなくはない。
 
最もヤリ玉に上がることが多いのは公共事業費の削減だ。
 
2001年度の当初予算案では、公共事業費は9兆4335億円。だが小泉政権下では初の予算編成となった02年度は10.7%減の8兆4239億円となり、過去最大の減少幅になった。以後、毎年数パーセントずつ減り続け、小泉政権では最後の予算編成となった06年度には、7兆2015億円にまで減った。5年間の減少率は24%。さらに補正予算後の公共事業費を見ると、01年度の11兆3000億円から06年度は7兆8000億円と31%も減っている。


地方にばらまいても地域経済への貢献は一時的
 
もう1つ不評なのが、小泉政権による構造改革の目玉となった「国と地方の税財政改革(三位一体改革)」。本来は、(1)国庫補助負担金の廃止・縮減(2)税財源の移譲(3)地方交付税見直し――の3つを一体的に行う予定だったが、(1)と(2)は遅々として進まず、交付税の削減が先行したため、04年度には予算が組めず、基金の取り崩しや管理職の給与カットなどでしのいだ地方自治体が相次いだ。
 
しかし詳しく検証すると、地方から上がる「小泉政権が地方を衰退させた」との主張のかなりの部分が的外れであることがわかる。
 
まず公共事業。問題はむしろ、小泉政権より前の公共事業の増加なのだ。
 
バブル経済の崩壊後、政府は景気刺激を目的に公共事業を主体とした財政支出を増やしてきた。特に小渕恵三内閣(98~2000年)は、98年11月に補正予算規模7.6兆円と、当時としては最大の「緊急経済対策」を実施した。この結果、98年の補正予算を含む公共事業費は14兆9000億円と空前の規模に膨らんだ。
 
もちろん必要度の高い道路やトンネルをつくる公共事業は必要だ。だがバブル崩壊後の公共事業は、むしろ「地方に一時的な雇用を生み出す」ことだけが目的の事業が多かった。
 
この当時、地方には公共の文化施設など立派な建物がいくつもできた。だがこれらは建設中のみ雇用が増えるだけで、建設が終わったあと、地域の経済活動をさらに促進するような効果はほとんどない。
 
小渕政権時の「緊急経済対策」のような大型景気対策と実質GDP(国内総生産)の変化を照らし合わせてみても、両者の間に明確な因果関係はない。2000年代に入り、日本経済が復活したのは、公共事業によってではなく、為替の円安基調をベースに、自動車や電機などの輸出産業が急速に回復したからだ。


地方交付税の仕組みにも問題
 
高度成長期のように、日本経済全体のパイが大きくなりつつあるときには、公共事業費を増やすこともできる。だが低成長経済の下では、公共事業費の増大は財政赤字を増やすだけだ。日本の債務残高が急速に増え出したのは、バブル経済崩壊以降のことだ。
 
小泉政権はこうした状況を解決するために、公共事業費の大幅な削減を実施した。そもそも公共事業を「注入」し続けないと維持できない地方経済が問題なのであり、公共事業削減を「衰退」の原因とするのは間違いだ。
 
地方交付税についても、制度そのものに大きな問題点がある。この制度は、地域の活性化を実現し生産・所得が増えても、その分だけ交付税は減らされる。逆に衰退が進めば進むほど、配分額が増える仕組みだ。
 
そのため土居丈朗・慶大経済学部教授は「交付税への依存が強い自治体では、地域経済を自発的に活性化する努力が報われず、結果的に地域経済を低迷させている」(日経ヴェリタス 
2009年6月14日号)と指摘する。


結局怨嗟の声を上げるのは既得権益者
 
地方分権を進めないまま交付税の削減を急いだ小泉政権に手法の問題はあったが、交付税に頼らない地域をつくるという方向性そのものが間違っているわけではない。
 
実は疲弊した地域経済を立て直したり、地方で新たな雇用を生み出したりした人たちを取材していると、冒頭のような小泉・竹中路線を非難する声は聞こえてこない。
 
徳島県上勝町で「葉っぱビジネス」を成功させた彩(いろどり)にしても、四万十川の中流域でさまざまな地域発商品を開発した四万十ドラマ(高知県四万十町)にしても、公共事業や補助金とは無縁のところから生まれた事業だ。国や自治体に「何かをしてもらう」という発想は、彼らにはない。
 
小泉政権が地方を衰退させた――。こうした声の中心にいるのは結局、構造改革でマイナスの影響を受けた既得権益者ではないだろうか。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2010・2・1)


トップページ -> 地方経済の視点 -> 第40回 地方を衰退させたのは「小泉・竹中の構造改革路線」か?