第39回 2010年は新興市場への投資が始まる!?

1年でわずか19社しか上場がない新興市場
 
2009年末、十数年来の知り合いであるジャスダック上場企業の経営者に会って、話を聞いたときのことだ。
 
彼は最近の新興企業を取り巻く状況の厳しさに触れた後で、「日本でベンチャーを再び元気にするには、現在いくつもある新興企業向けの証券市場を統合するなどして、新興企業にリスクマネーを供給する仕組みを再び機能させないといけない」と訴えていた。

確かにこの社長が指摘するように、2009年は日本で新興企業に成長資金を供給するための仕組みが、半ば「機能不全」に陥ってしまった年だったかもしれない。
 
1年間で新規株式公開(IPO)した社数は、2008年より30社も少ない19社。これは新興企業向けの3市場(ジャスダック、東証マザーズ、ナスダック・ジャパン=現・大証ヘラクレス)が出そろい、過去最高の社数だった2000年の206社と比べると、実に10分の1以下の水準だ。
 
2009年に上場した19社が上場時の公募増資で調達した金額は合計で300億円あまり。「ネットバブル」と騒がれた2000年当時、仮想商店街を手掛ける楽天1社がジャスダックに上場したときの調達額(495億円)にすら届かない数字だ。
 
「2008年秋のリーマン・ショックをきっかけに、世界中の金融がまひしさまざまな需要が急減する『100年に1度の不況』があったのだから仕方がない」という見方もあるだろう。だが世界が同時不況に陥ったにもかかわらず、世界各国の市場でのIPOは年後半から回復し、日本よりずっと盛んだった。


リーマンショック後の回復から大きく出遅れた日本市場
 
トムソン・ロイターの調べによると香港、上海、深センの中国3市場のIPOによる資金調達額は700億ドル(約6兆3000億円)、ニューヨーク証券取引所が335億ドル(3兆150億円)、ナスダックが121億ドル(1兆890億円)といずれも日本より2ケタも多い。
 
日本のIPO市場だけが特に機能不全に陥ってしまったのはなぜか。
 
日本特有の理由の1つは、2006年1月のライブドア・ショック後、ライブドアをはじめとした新興企業を巡る不祥事や、上場直後の業績下方修正などが相次いだことだ。これに伴い、新興市場を運営する取引所などが上場審査を厳格にした。
 
ライブドア・ショックの2006年には188社だった新規株式公開の数は、121社(07年)、49社(08年)、19社(09年)と右方下がりで減り続けた。
 
上場前には無理をしてでも収益の右肩上がりを続け、上場直後に下方修正を繰り返すような質の悪い新規公開企業が、振るいにかけられたことは確かだ。だが成長資金を必要としていて、資金調達できれば成長が加速できそうな会社まで新規株式公開が難しくなっている面もある。
 
もう1つの理由は、2009年に限ってみれば、世界の多くの株式市場がリーマン・ショック後の底値から大きく回復したのに対し、日本市場は大きく出遅れたことだ。
 
さらに日本市場の2009年のエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)は総額5兆円超と、歴史的な高水準になった。既に上場している銀行や大手メーカーが立て続けに大型増資したことも、新規公開企業にとっては逆風だった。


そこそこ稼げればよしとするのか!
 
日本での新規株式公開がとても難しいものになってしまったことは、起業家にも強い影響を与えている。起業から上場への距離が遠くなってしまったことで、若手起業家の中では「目立たず、人を増やさず、そこそこ稼ぐことをよしとする人が増えている」(20代の企業経営者)ともいう。
 
冒頭のジャスダック上場企業の社長と会ったとき、社長は「十数年前(1990年代後半)にも『ベンチャーに成長資金を』という、同じような話をしていたよね」といって、ため息をついた。
 
1990年代後半といえば、新興企業向けの株式市場はジャスダックしかなく、しかも今よりも実質的な上場基準が厳しかったために、上場する会社は設立してから20年以上たった中堅企業がほとんどだった。
 
当時の日本は若い会社にリスクマネーを供給する担い手や仕組みを欠いていた。98年の通商白書は「新規産業を担うベンチャー企業に円滑にリスクマネーが供給されるべきだ」と主張。こうした認識が、その後の新興企業向け株式市場の整備につながっていった。
 
だがそれから10数年がたち、再び「ベンチャーに成長資金を」という主張をしなければならないのには、ある種の徒労感を伴う。
 
ただ10数年前と異なるのはリスクマネー供給のための「仕組み」は既に一通りあり、あとはその運用の仕方をどう工夫するかにかかっている点だ。
 
幸い2010年の日本の株式市場では、外国人投資家の見直し買いが続き、世界の株式市場における日本株の出遅れはかなり解消しつつある。目立つ起業家は減ったとはいえ、起業家そのものの層は厚みを増している。
 
2010年は新規株式公開をはじめとして、新興企業に成長資金が供給される仕組みが再び動き出す年となることを期待したい。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2010・1・19)


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