第38回 「口利き」は姿消せども「ばらまき」はやまない日本という国家

予算の決まり方が見えなくなった!
 
一時は「年内に決まるのだろうか?」と危ぶまれていた2010年度予算案は、政府が昨年12月25日に閣議決定した。結果をみれば、スケジュールはほぼ例年通り。だが自民党・公明党連立の自公政権から民主党連立政権へと交代したことで、その予算の決まり方は様変わりした。

常に、国の予算案の動向を注視している地方自治体。従来は、国が政府予算案が決まったその日に、都道府県は道路やダム、補助事業など、それぞれの地域に関係する政府予算案の状況をまとめ、地元マスコミなどに向けて詳細な資料を発表するのが常だった。自治体の財政部局が、それぞれの省庁の担当者と頻繁に連絡をとりあい、関係する予算がどうなるかを継続して把握しているためだ。
 
ところが今年は、資料を出してはみたものの決定額が抜け落ちていたり、大項目はわかっても「詳細については不明」だったりする自治体が多かった。予算編成が「政治主導」になった結果、省庁の担当者が把握できる部分が減り、「予算の決まり方が見えなくなってしまった」(ある県の幹部)からだ。
 
もう1つ、予算に関係するところで大きく姿を変えたのが「陳情」や「口利き」の風景である。
 
全国に500以上もある商工会議所。加盟する中小企業や大企業の事業所から意見や提案を吸い上げ、調整をした上で、自治体や国に「陳情」するのが主な仕事だ。陳情は、都道府県単位の商議所の集まりである商工会議所連合会が集約し、連合会単位で知事や、その都道府県選出の国会議員などに説明するのが一般的なやり方だ。


族議員の口利きによる陳情はなくなった
 
だが北関東のある商議所の場合、こうした「正式ルート」とは別に、その地域選出の国会議員に陳情を行うのが常だった。
 
商議所の会頭や専務理事が国会議員の事務所を訪れ、議員に直接、要望を伝える。すると議員は自らが大臣となった経験もある関係省庁の担当者に直接、電話を入れる。
 
その後、商議所の会頭や専務理事は議員の秘書とともに省庁の担当者を訪れ、要望を伝えたり、予算や補助金の情報などをもらったりする――という流れだ。いわゆる「族議員による口利き」といっていいだろう。
 
「口利き」というと贈収賄に結びつくようなイメージがあるが、大半は法に触れない範囲のものだ。それでも「予算や補助金の情報がほかよりも早くもらえたり、ときには補助金の採択などに有利に働くこともあり、ありがたかった」と商議所の担当者はもらす。
 
これは商議所の場合だが、自治体が地元に関係する公共事業などの獲得を狙い、地元選出の代議士の口利きで国土交通省などに働きかけることもあった。
 
族議員にとっては、口利きが、選挙のときの票集めにつながる。自民党政権時代は、こうしたそれぞれの議員が手掛ける「口利き」が党全体の集票の役割も果たしていたわけだ。
 
しかし政権交代で、自民党の族議員の多くが落選。たとえ落選を逃れたとしても、野党となったことで、自民党代議士が口利きすることはできなくなった。
 
口利きは従来、政治、行政(官僚)、企業の「政官業」癒着を生み、地方での公共事業など、予算のばらまきが起こる原因ともされてきた。


新しいシステムでも構造に変化なし
 
それでは、個々の口利きが減った結果として、2010年度予算案ではばらまきも減ったのか。
 
その答は「ノー」だ。確かに、これまでばらまきの象徴だった公共事業は前年度比1兆3000億円、18.3%も減り、減少の幅と率は小泉政権下の2002年度をしのぎ過去最大になった。5兆8000億円弱というその額は32年前の1978年の規模とほぼ同じである。
 
だが子ども手当には、公共事業の削減額を大きく上回る1兆7000億円を計上。ほかにも農家の個別所得補償(6000億円)、高校の無償化(4000億円)など、家計や農家に気前よく予算がばらまかれた。一方で、企業がグローバルに戦うための環境整備はないがしろにされた。
 
予算全体の規模を示す一般会計総額は4.2%増の92兆3000億円。財源をまかなうため、09年度当初予算より約11兆円多い44兆3030億円の新規国債を発行せざるを得ない状況に追い込まれている。
 
民主党政権は家計に安心感をもたらすことで成長を促すのだと主張するが、国債発行で後の世代にツケを回す形で予算をばらまくことが、本当に成長につながるのだろうか。
 
むしろ2010年度予算案から感じるのは、今夏の参院選対策だ。混迷した2010年度予算編成を方向付けたのは、民主党の小沢一郎幹事長だった。家計や農家を手厚く支援することで、参院選勝利を確実なものにする――。今回の予算からは、そうした小沢流の選挙戦略が透けて見える。
 
民主党は昨年末、新しい陳情システムの運用を始めた。都道府県の民主党県連が経済団体や自治体などからの陳情の窓口となり、民主党本部の幹事長室が吸い上げる。幹事長室が陳情を認めた場合は政府三役、大臣、副大臣などが対応するというシステムだ。
 
このシステムでは、自民党政権下のように個々の代議士が陳情を受け付けたり、口利きをしたりはできない。その代わり陳情や要望が党幹事長室に集中することで、ただでさえ強い小沢幹事長の権力がさらに強まる可能性が高い。
 
個々の代議士による口利きは姿を消した。しかし与党の政治家が予算を選挙に勝つための道具として利用する構造は、今も変わっていない。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2010・1・7)


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