第37回 緩やかな回復でも雇用や設備投資が増えないミスマッチの意味

地方都市で単身者向けアパートの需要が復活!
 
日本銀行が14日に発表した12月の企業短期経済観測調査(短観)。最も重要視される指標で、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、大企業製造業が前回調査から9ポイント改善してマイナス24となるなど、3期連続で改善した。

だが一方で非製造業を含む大企業の2010年度新卒採用計画も30.5%減と、過去2番目の落ち込みとなる見通し。また大企業製造業の2009年度の設備投資計画も前年度比28.2%減と、過去最大の減少率を記録した。緩やかとはいえ景気は回復傾向をたどっているのに、雇用や設備投資には急ブレーキがかかる。このちぐはぐさの原因は、何なのだろうか。
 
群馬県南部に伊勢崎市伊勢崎市。利根川をはさんで埼玉県側の向かいにある同市八斗島(やったじま)地区は、カーエアコン用のコンプレッサーで世界の約25%のシェアを握るサンデンの八斗島事業所など、いくつもの製造業の工場が集積している場所だ。
 
この周辺でアパートを数多く経営する土地所有者によると、今年の春ごろにはほとんど入居者がなくなってしまった単身者向けのアパートの需要がここのところ、急速に回復しているという。
 
単身者向けアパートを利用するのは、主にこの地域の工場で働く期間従業員や、製造業向け派遣会社の従業員だ。自動車をはじめとした輸出産業が好調だった昨秋までは、こうした単身者向けアパートはほぼ満室の状況だった。ところがリーマン・ショック以後の輸出産業の不振で、各社は期間従業員や派遣社員などを一気に削減した。


トヨタや日産も期間従業員の雇用を再開している
 
サンデンの八斗島事業所だけでも、ピーク時には1100人の正社員に加え500人の派遣社員がいたが、今年初めには500人の派遣社員はすべて雇い止めになってしまった。単身者向けアパートがほぼ空になってしまったのはこのころだ。
 
ところが日本のエコカー減税をはじめとした、世界各国の自動車の買い換え刺激策の効果もあり、世界の自動車需要は相当程度、回復した。サンデンも夏以降に以前ほどではないにしろ、工場向け派遣社員の採用を再開している。土地所有者によると、アパートの需要回復は、こうした企業からの需要によるものだという。
 
また工場関係者からは「期間従業員や製造業派遣で人を採用しようとしても、なかなか人が集まらない」という声も漏れてくる。
 
リーマン・ショック後ににこうした求人がなくなってしまったことで、そもそも期間従業員などとしての採用を望む人が伊勢崎地区からはいなくなってしまったり、製造業向け派遣会社も出先の拠点をたたんでしまったところが多いからだ。ごくごく局所的ではあるが、製造現場では「人手不足」が顕在化しているのだ。
 
期間従業員は工場向けの派遣社員の採用を再開する動きはここだけにとどまらない。中国向けに多目的スポーツ車、フォレスターなどの販売が好調な富士重工業の群馬製作所矢島工場(太田市)では9月末に400人だった期間従業員を1月初めまでに900人に増やす計画。トヨタ自動車や日産自動車など自動車大手もいっせいに期間従業員の採用を再開している。


製造業派遣を禁止しても求人増にはならない
 
だがこうした製造現場での非正社員の求人増は、産業界全体の正社員雇用の増加にはつながっていない。むしろ12月短観に表れたように、企業は新卒採用をより抑え始め、「雇用のミスマッチ」の度合いがより強まっている。
 
1つの理由は、全体として見ればまだ雇用の過剰感が強いためだ。12月短観の大企業製造業の雇用判断DIはプラス21で、雇用が「過剰」と考える企業が「不足」とみる企業よりもかなり多いことを示している。
 
雇用調整助成金の制度を拡充したことで、仕事がなくても従業員はそのまま雇い続ける「社内失業」が増えたことも、雇用の過剰感が消えない原因だ。
 
もう1つは鳩山政権下で円高とデフレが急速に進み、企業経営者の先行きに対する見通しがより悪化していること。「円高が進行し、富士重工業などがいつ中国に進出するかとの不安を抱える中では、いま程度に生産が回復しても設備を入れたり、正社員を増やすという気にならない」と、群馬県内のある自動車部品メーカーの社長は話す。
 
先行きの不透明感が晴れないため、結局目先の人手不足は期間従業員や製造業派遣でしのごうとする企業がほとんどだ。
 
民主党連立政権が進める「製造業派遣の禁止」を実施したところで、短期の求人需要は製造業請負会社などに回るだけで、正社員の求人増につながるわけではない。
 
重要なのは、企業が安定的に成長しやすくなるような環境をつくること。円相場安定に努め、製造業が国際競争しやすい環境をつくることや法人税の減税などが何よりも求められる。企業が太らない限り、雇用の本格回復はあり得ない。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2009・12・15)


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