第27回 上場意欲がしぼむ中で迎えた、新興市場6年ぶりの好機

初値200万円の株価が現在135倍の2億7080万円に
 
今から12年前(1997年)の11月4日。当時の店頭市場(現在のジャスダック)に、設立から間もないあるベンチャー企業が上場した。
 
上場の直前期に当たる1997年3月期の売上高は4億1300万円、経常利益は5000万円。利益率こそ高いものの、売上高、利益の規模は、新興企業が多い店頭市場の中でも、きわめて小さい会社だった。それに比例するように、上場時の公募増資で調達した額はわずか6億4000万円にとどまった。

ところがこの会社は、インターネット分野の新しい分野を切り開いた会社として、上場時からほぼ右肩上がりで成長を続け、株式市場でも高い評価を受け続けてきた。そう、この会社とは日本でネット検索の先駆けとなり、その後、ニュースやネットオークション(競売)などを加えて総合的なポータル(玄関)サイトに成長したヤフーのことである。
 
ヤフーが上場した日の初値は200万円。このときに1株だけ購入して、今も持ち続けていたとすると、この株の価値は今、いくらになっているだろうか。
 
1996年1月の設立から、わずか1年9カ月で上場したヤフーは、上場時の株式数がわずか6775株しかなかった。おまけに上場後はすぐに人気株となったため、株価を引き下げ、市場に流通する株数を増やすため株式分割」を定期的に続けてきた。理論上は1対2の分割をすれば、発行済み株式数は2倍になる一方で、株価は半分になる。
 
ヤフーが最初に1対2の株式分割を実施したのが99年5月。それ以来、2006年4月まで、同様に1対2の分割を13回も続けてきた。
 
店頭公開時に1株を購入した株主はそのまま持ち続けていれば2の13乗、つまり1株が9192株に増えた計算だ。
 
7月17日のヤフーの終値は2万9460円。これに9192株をかけた2億7080万円が、現在の価値となる。つまり上場時に投資した200万円が、12年間でおよそ135倍に膨らんだ計算になる。


上場した時期のタイミングの良さがあるかどうか
 
日本の投資家はバイ・アンド・ホールドという長期保有する人の比率が低いため、上場時に初値で買い、そのまま今も保有し続けている株主が実際にどれだけいるかはわからない。ただヤフーは企業規模が小さい段階で上場してその後も成長を続けることで、長期的に見れば、おおむね株主の期待に応え続けてきた会社であることは確かだ。
 
2006年1月のライブドアショック以降、日本の新興企業というと、ビジネスモデルの崩壊や、放漫経営により株価が急落し、株主に損害を与える会社ばかりというイメージが強くなってしまった。だがヤフーのように、株主の長期的な利益を実現している会社もあるのだ。
 
ヤフーの上場以来の株価動向を眺めてみると、改めて気づくのは「上場した時期のタイミングのよさ」だ。中長期に見ると、日経ジャスダック平均株価(JQ平均)はほぼ5~6年ごとにピークをつける周期を描いている。
 
この10年あまりをみてみると、98年末に底入れした後、インターネットの勃興期を迎えて2000年まで上がり続けた。ネットバブルの崩壊で2003年までほぼ一貫して下がり続けた後、日本経済の復活で上昇基調をたどり2006年1月にピークを迎えた。
 
その後はライブドアショックで日経平均より先行する形で下げが続いたが、今年3月に大底を打ち、今は上昇過程にある。
 
ヤフーが上場したのは、ほぼJQ平均が大底のときで、業績の割には、上場前公募増資の価格(70万円)や上場時の初値(200万円)は抑え気味のものだった。
 
ヤフーが上場した当時は、インターネットが勃興期を迎え、ヤフーの成長力も際だっていた面はある。だが株式相場が大底の時に上場し、最初は抑え気味の株価がついたからこそ、その後の右肩上がりの株価上昇が可能になった側面もある。


5~6年の周期で上昇と下降を繰り返すジャスダック
 
上場を目指す新興企業の経営者にとって、そのタイミングは難しい判断を迫られるものだ。株式相場が過熱し高株価が狙える時期に上場すれば、公募増資による資金調達額も増えるし、自ら保有する株式を市場に売り出すなどで、多くの創業者利益も獲得できる。
 
設備投資を多く必要とする分野で、多額の成長資金を必要とする企業であれば、こうした時期に上場することも選択肢の1つだろう。
 
だが必要資金がそれほど多くなければ、むしろヤフーのように株式相場が低迷しているときや、大底を打ち上昇局面に入りかけた頃に上場する方が得策だ。その方が、調達資金は少なくなったとしても、上場後の株価は上昇しやすく、株主を味方に付けやすいからだ。
 
ライブドアショック以降の新興企業の株価低迷と、手間がかかる割に小規模の企業には利点が少ない「内部統制制度」の影響などで、未上場企業の経営者は、上場への意欲をしぼませているように見える。未上場企業の経営者の中には「上場はメリットがない」と公言する人も少なくない。
 
だがJQ平均がこれまでと同じようにほぼ5~6年の周期で上昇と下降を繰り返すと仮定すれば、今年は2003年からほぼ6年ぶりに巡ってきた、ジャスダックを中心とする中小型株市場が上昇過程を描く年だ。
 
実は新興企業が上場するタイミングとしては、今年はかなりよい時期であるのだ。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2009・7・21)


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