第26回 「よそ者」の感覚を大切にして成功させた地域づくりの「発想」

新幹線の駅近くで繰り広げられる幻想的な光景
 
JR東京駅から上越新幹線に乗って1時間あまり。高崎駅を発車し、いくつかの長いトンネルを過ぎると、上毛高原駅(群馬県みなかみ町)に着く。目的地に向かってまっすぐなルートを描く新幹線の場合、在来線とは接続せず、自治体の庁舎や繁華街からも遠く離れた所に駅をつくることがある。上毛高原駅もそんな駅の1つだ。

駅の東側はロータリーやバスの発着所などがあり、それなりに開けている。しかし西側は里山に面し、新幹線の駅らしい開発はほとんど進んでいない。その西側の小道を上っていくと数分で「月夜野ホタルの里」(みなかみ町月夜野)に着く。
 
案内用の看板がある小高い場所からは、なだらかな斜面に広がる田んぼや雑木林、その間を縫うように流れる小川などが見下ろせる。大きく息を吸い込むと、田や草のかぐわしいにおいがする。振り返れば新幹線の近代的な駅舎が見える距離にあるのだが、全くそんなことを感じさせない里山の風景だ。
 
ここは関東地方でも有数のホタルの名所。里山の中、小川や田んぼに沿って2キロ弱の観賞コースが整備されている。
 
駅からコースの入口までは提灯などもあるが、コースに一歩踏み込むと、人工的な光はほとんどない。ホタルは懐中電灯の光も嫌うので、観賞者は月明かりをたよりに、小川沿いの道をのぼっていく。すると1匹のゲンジバタルが小川から道の方へ、スーッと横切った。
見所は南側と北側にそれぞれ1つずつある池の周辺だ。北側の池では、その奥の竹やぶをバッグに、数十匹のゲンジボタルが光を発しながら舞っていた。幻想的な光景を目の前にして、観賞者からは歓声があがる。


よそ者が作ったホタルの里の細やかな環境
 
ホタルの観賞期間は6月中旬から7月中旬。ホタルを見るだけのために、2008年の場合はその期間に約1万6000人もの人が訪れた。
 
周辺には猿ケ京温泉や水上温泉など温泉街が多くあり、ホテルや旅館は宿泊者を車でホタルの里へ案内している。温泉街にとっては閑散期に当たる梅雨の時期の観光客集めにも、ホタルは一役買っているわけだ。
 
一見したところでは、このホタルの里は昔からこの環境が保たれてきたかのように見える。だが月夜野ホタルを守る会の小林一義会長によると「月夜野でも昭和30~40年代、農薬の使用増や田畑の土地改良などでホタルが大きく減少した時期があった」という。
 
除草剤はカワニナやタニシなど、ホタルの幼虫のえさとなる水中生物も殺してしまう。土地改良で小川がコンクリート製になってしまえば、大雨が降るとカワニナやホタルの幼虫は流されてしまう。
 
この地区でホタルの復活に力を尽くしたのは、高崎市に住んでいた故・丸岡文夫さん。群馬県ホタル連絡協議会会長だった丸岡さんは月夜野に通い詰めて、この地区では清水がわき出し、水質がきれいなうえに、冬でも温度が低くなりすぎないことがホタルの生育に適していることを調査した。
 
さらに丸岡さんは地域の人たちと共に、地区の上流にホタルの保護地をつくり、保護地で育ったホタルが自然発生しやすいように、自然石を利用した水路や遊歩道を整備した。水路はカワニナが育ちやすいよう、段差や小さな蛇行がつくってある。
今は、春や秋の草刈り、カワニナを育て6月に放流する作業、観賞期間中の誘導・案内などは地域の住民が担っている。しかし小林会長は「丸岡さんがいなかったら、月夜野の環境は今のようにはならなかっただろう」と振り返る。ホタルの里づくりの中心にいたのは、「よそ者」の丸岡さんだったわけだ。


女子大生の一言が、妻物にモミジの葉を選ばせた
 
町づくりの中心にいる、あるいは中心となるべきなのは、その地域のことをよくわかった地元住民だと、我々は思いがちだ。だが成功した地域おこし、町づくりのケースを調べてみると、その中心にいるのは「よそ者」であることが少なくない。
 
例えば、山にある葉っぱを料理の妻物(つまもの)として売り出し大成功した徳島県上勝町。そのリーダーで第三セクター、いろどりの横石知二副社長は徳島市の出身で、上勝町農協に営農指導員として入社したときに、初めて上勝町にやってきた人だ。
 
横石さんの著書『そうだ、葉っぱを売ろう!』(2007年、ソフトバンククリエイティブ)によると、横石さんは農協に入った当初、農家の人たちに「今のやり方ではダメ」と改革を訴えると、「おまえはよそから来たんではないか。明日から、おまえはもう来んでいい」と言われ、町から追い出されそうになったこともあったという。
 
その横石さんが1986年に大阪の寿司屋で女子大生が妻物のモミジの赤い葉を「これ、かわいー、きれいねー」と喜んでいるのを見たのをきっかけに葉っぱを売ろうと考え、町の人々を変えていくのである。
 
もちろん、よそ者であっても地域の事情を知らずに、東京や他の地域の物差しを押しつけるばかりでは、住民からも嫌われるばかりだろう。だがむしろ丸岡さんや横石さんのように、よそ者でありつつもその地域のことを深く理解すれば、住民以上に地域の強みや個性を正確に判断できるようになる。
地域づくりに必要なもの。それは地元に慣れすぎていない「よそ者」の感覚だ。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2009・7・14)


トップページ -> 地方経済の視点 -> 第26回 「よそ者」の感覚を大切にして成功させた地域づくりの「発想」