第25回 政府が唱える「賢い支出」は一体誰がやるのか

借金なれしてしまったか日本
「816兆円」という数字をみて、すぐに何の数字かわかる人はどれくらいいるだろう。これは2009年度末の「国及び地方の長期債務残高」。いわば日本国と地方自治体の借金の総額だ。
 
国内総生産(GDP)に対する比率は168.5%。債務残高のGDP比は財政健全化の目安となるが、日本の比率は先進国の中で最悪。先進国では2番目に悪いとされるイタリアでも117%(08年)だ。

仏、米、独、英、カナダといった先進国のGDP比(08年)はいずれも100%を大きく下回っている。各国とも世界経済危機に対応した財政の出動により、09年以降はこの比率が悪化する可能性は高いが、それでも日本の財政状況が突出して悪いかがよくわかる。
 
長期債務残高のGDP比が米国と同じ7割程度だった日本が、急激に債務を増やしたのは1990年代に入ってから。バブル経済崩壊後の不景気を克服するために打ち出した経済対策や、高齢化に伴う社会保障費の増加が災いして、GDP比は151%となった2005年まで一貫して高まっていった。
 
その後、政府は小泉政権時に債務残高の上限目標などを定め、財政健全化路線に舵を切った。経済財政運営の基本方針「骨太方針2006」では、公共事業や社会保障費などの削減を進め、11年度には国・地方合わせた基礎的財政収支の黒字化を掲げ、債務残高の削減を目指していた。
 
05年度から07年度にかけては景気の拡大期だったこともあり、債務残高の増加ペースは弱まり、GDP比はわずかながら改善に向かった。
 
しかし07年秋以降の世界経済危機で、再び長期債務残高は増加基調に転じる。政府が4月に取りまとめた追加経済対策では、財源として10兆8000億円の新規国債を増発。その結果、09度末の国と地方の長期債務残高は前年度末より29兆円増え、816兆円に達する見込みだ。
 
内閣府がGDPの成長率見通しを下方修正したこともあり、09年度のGDP比は前年度末と比べ、一挙に10.8ポイントも上昇することになった。
 
財務省がこの長期債務残高やそのGDP比の最新見通しを公表したのは4月30日。財政健全化路線を掲げた小泉政権時代だったら、トップ級のニュースになっただろう。しかし実際には、あまり大きな話題にはならなかった。


借金1人当たり640万円なり
 
国の借金に対して、国民の反応が鈍くなっている背景には「100年に1度の経済危機だから、財政赤字の拡大も仕方ない」という認識がある。
 
自由な市場経済の先頭を切っていた米国ですら、自動車最大手のゼネラル・モーターズ(GM)を実質国有化するなど、財政の大幅悪化を伴う「公的資本主義」に足を踏み入れた。世界経済危機を回避するため新興国を含め20カ国・地域(G20)がいっせいに財政刺激に動いたことも「財政悪化は日本だけではない」という意識に拍車をかけているかもしれない。
 
だが、他国も借金を増やしているという理由だけで、先進国で最悪の財政状況を正当化するわけにはいかない。816兆円といえば、国民1人当たり640万円という巨大な額だ。人口が先細りする中で、国民1人当たりの負担はさらに重くなる。そのような状況の中での経済対策は、文字通り、政府が唱えるような「賢い支出」(ワイズ・スペンディング)にしないといけない。
 
バブル経済崩壊後、地方では政府の経済対策に応じて大型のハコモノを建設する自治体が相次いだ。四国の真ん中にあり、65歳以上の割合が5割を超える高知県大豊町。町は90年代、政府の景気浮揚策に乗り、ハーブを集めた「ゆとりすとパーク」(総事業費23億円)などを相次いで建設した。
 
国主導とはいえ自治体にも応分の負担がある。大豊町の施設は利用が低迷。町には借金が重くのしかかり、一時は実質公債費比率が四国で最悪となった。
 
ハコモノの建設は、確かに土木建設事業を通して、その地域に雇用を生む。だがそれが地域の成長につながらなければ、ハコモノと借金だけが残る。2000年代の半ば、地方交付税の削減が続いたときには、日本中の至る所でこんな話があった。
 
こうした施策は「政府のバラマキ」として激しく批判を浴びた。そのため今回の経済対策では、以前のようなバラマキは影を潜めるはずと考えていたが、必ずしもそうではなさそうだ。
 
例えば、09年度補正予算の中には、日本の漫画やアニメ、ゲームソフトを収集、展示する「国立メディア芸術総合センター」(仮称)の建設計画がある。
 
その総工費は117億円。建設費の高さもさることながら、完成後も年間の入場料収入が運営費を大きく下回る見込みで、赤字を垂れ流すことにもなりかねない。国会では「バラマキの象徴」と集中砲火を浴び、野党ばかりか与党からも中止要求が出る事態になった。
 
このように、今回の経済対策は急ごしらえのものだっただけに、さまざまな穴がある。本当に「賢い支出」にするには、国会や国民の注視が欠かせない。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2009・6・23)


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