第23回 「バイ地元製品運動」、「地産地消」の光と影

太田市の製造品出荷額は沖縄県の4倍規模
 
5月20日に行われた富士重工業の新型「レガシィ」の発表会を見にいった。
 
この日、富士重はレガシィの記者発表を東京都内と、自動車部門では国内唯一の生産拠点である群馬製作所(群馬県太田市)の2カ所で行っている。私が出席したのは、後者の方だ。

群馬県のほぼ東の端に位置する太田市は、中島知久平が1917年に日本初の民間航空会社、中島飛行機を設立した場所。その中島飛行機は第2次世界大戦後、財閥解体指令を受けて12社に分割。53年に、そのうちの5社が再び集まってできたのが富士重工業だ。富士重にとって太田市は、主力工場があるというだけでなく、前身の中島飛行機が創業したときからの歴史が深く刻み込まれている場所でもある。
 
自治体がどれくらいものづくりで稼いでるかを示す「製造品出荷額」。太田市の2007年の製造品出荷額は前年比3.8%増の2兆600億円だった。
 
都道府県の順位と比べてみると37番目に相当する。鹿児島県や佐賀県をやや上回り、最下位の沖縄県の4倍弱にもなる規模だ。
市町村としては巨大な、この製造品出荷額を可能にする原動力が、富士重工業をはじめとした自動車関連の企業群。太田市の製造品出荷額に占める輸送機器の比率は63%(07年)にもなる。


市長自ら音頭を取って「車を買おう!」
 
そうした経緯があるからだろう。矢島工場での発表会は、マスコミ向けというより、太田市や群馬県内の関係者向けという色彩の濃いものだった。群馬県知事こそ欠席したものの、茂原璋男・副知事や清水聖義・太田市長、地元の販売会社や協力会社のトップが続々とあいさつに立った。
 
中でも印象に残ったのは清水太田市長の言葉だ。
 
「レガシィが売れないと、富士重工業の赤字が膨らむ一方だ。新型レガシィの発売で(太田市に)税金を払っていただく体質に変わってほしい。我々はみんながスバルに乗るように、努力しなければならない。1回でも乗っていただければ、よさはわかってもらえる。そのために我々は"スバリスト"になり、スバルのよさを伝えていく」
 
市長が市の税収を支える大企業に向かって「赤字が膨らむ一方」とバッサリと表現するのも、一方で「スバリストになって」というほどに企業の側に立った発言をするのは珍しい。それだけ太田市民にとって富士重は大きな、そして愛憎が入り交じるような存在ということだろう。
 
実際、太田市は3月から市内在住の勤労者と中小企業を対象として、スバル車購入時に200万円までは利率1%で融資する低利融資制度「スバルローン」や、市内の農業協同組合員がスバルの軽トラックを購入する際の助成制度を始め、成果を上げている。
太田市のように、自治体が地元に事業所や工場のある企業の製品購入を勧めたり、そのための助成制度を設ける「バイ(Buy)地元製品」の動きは全国に広がっている。


バイ地元製品運動は保護貿易主義に陥りかねない
 
マツダのおひざ元、広島では広島県や広島市、呉市がそれぞれの予算でマツダ車を購入した。 
日産自動車の九州工場、トヨタ自動車九州の苅田(かんだ)・小倉工場が立地する福岡県苅田町は、町長が職員にマイカー買い替え時に両社の車の購入を呼びかけ、実際に10人近くが買った。
 
こうした動きは、岩手県の東芝、栃木県矢板市のシャープなど、自動車だけでなく電気製品にも広がっている。
 
太田市だけでなく、税収に占める法人市民税の割合が大きい企業城下町はいずれも大幅な税収減に見舞われている。トヨタ自動車のお膝元である愛知県の豊田市や田原市の2009年度の法人市民税は前年度より9割超も減少する見通しだ。
 
こうした状況の中で、自治体が「バイ地元製品」に走るのは、自治体自身が動くことのできる、数少ない対策の1つだからだろう。自治体関係者の中には、バイ地元製品運動を、地域の農業を活性化するために日本各地で広まった「地産地消」になぞらえる人もいる。
 
ただバイ地元製品運動は一歩間違えば、保護貿易主義にも陥りかねないことを、目に留めておくべきだ。
 
地元企業の製品の買いを推奨しているだけならばいいが、もし地元製品だけを買うことを義務づけるなどすれば、それは米国製品の購入を義務付ける「バイ・アメリカン条項」を盛り込もうとして、各国や経済界から批判された米国の景気刺激策と変わらない。
 
1929年の世界大恐慌後、世界には保護貿易主義、ブロック経済化の動きが強まり、それは第2次世界大戦の遠因となったとも見られる。
雨後のたけのこのように各地で始まったバイ○○運動。それは、これ以外の明快な打開策を見いだしにくいニッポン製造業、あるいは製造業に依存した自治体の苦悩の深さも示している。


【著者プロフィール】
1965年、埼玉県出身。1988年に大学卒業後、大手新聞社に就職。主に企業関係の取材を担当。
現在は経済関係部署のデスク。

(2009・6・3)


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