第22回 「高速道路1000円」が変えた観光地の"遠近感"

アウトレットパークに追い風
 
5月の大型連休中、埼玉県入間市にある三井アウトレットパーク入間へ買い物に行った。その日はあいにくの雨だったが、どの店もセール期間中と同じくらい、人でごった返している。悪天候の影響もあるのだろうが、過去に訪れたどのときよりも、周辺の道路は車で大渋滞していた。

2008年4月、HOYA武蔵工場の跡地にオープンしたアウトレットパーク入間は、最寄りの西武池袋線入間市駅から遠く、公共交通機関で行くにはひどく不便な場所にある。
 
だが反対に、車の利用を前提とした場合は絶好の立地だ。中央自動車道と関越自動車道を結んでいる圏央道の入間インターチェンジ(IC)からわずか500メートル。そのおかげで、埼玉県内だけでなく、東京都の西部、あるいは山梨県や群馬県の南部からも来店しやすい場所なのだ。
 
入間ICは大都市近郊区間に含まれるため、土日祝日に自動車料金収受システム(ETC)を搭載した車を使った場合でも、1000円にはならない。だが、それでも休日の昼間に中央道の甲府昭和ICから入間ICまで利用した場合、従来の3200円が1650円に割り引かれる。実際、三井アウトレットパーク入間には山梨ナンバーの車も多い。
 
ETC搭載車が土日祝日に1000円で乗り放題になる今回の高速道路値下げ。大型連休中の個人消費や観光地、輸送量の実績を眺めてみると、「1000円乗り放題」が広範な影響を与えたことがわかる。
 
1000円乗り放題がプラスに出た分野の1つが、アウトレットパークだ。日本経済新聞によると、大型連休中、三菱地所系のチェルシージャパン(東京・千代田)が運営するプレミアム・アウトレットの既存6施設の売上高は10%増だったという。
 
アウトレットパークはほ広大な敷地が確保しやすい都市郊外や地方にほとんどあり、車でのアクセスが前提になる。高速道路1000円乗り放題の恩恵を受けやすいうえに、景気の急速な悪化による消費者の低価格志向に合致しているのが好調の要因のようだ。
 
シネマコンプレックスの観客動員もおおむね10%前後増えた。連休後半の天候不順が奏功した面もあるが、これも1000円乗り放題効果の追い風を受けただろう。


大幅に伸びた本州四国連絡橋の利用者
 
肝心の高速道路の交通量を見ると、全国で最も交通量が増えたのが本州四国連絡橋の西瀬戸自動車道(瀬戸内しまなみ海道)で、移動台数は前年比73%増えた。本州四国連絡橋はしまなみ海道を含め3ルートあるが、残りの瀬戸中央自動車道が65%増、神戸淡路鳴門自動車道も32%増と軒並み、交通量が大幅に伸びている。
 
なぜ1000円乗り放題で、特に本州四国連絡橋の交通量の伸び方が大きかったのか。それはひとえに、従来はこのルートの料金が高すぎたからだ。
 
大型連休で最も交通量が増えた、しまなみ海道。広島県尾道市を起点に、瀬戸内海の向島、因島、生口島、大三島、伯方島、大島などを経て愛媛県今治市に到る全長60キロ弱のこの道は、本州四国連絡橋の中でも最も風景の変化に富み、走って楽しいルートだ。
 
ところが本州側の西瀬戸尾道ICと四国側今治ICとの間の割引前高速料金(普通車)は4700円。往復することを考えれば、とても気軽に楽しめるような料金ではなかった。
 
それが今回の割引によって、ETC搭載車が土日祝日に利用する場合には、前後の高速道路を使っても1000円で通行できるようになったのだから、人が集まらないわけがない。


割引き料金で生まれた"近さ"
 
高速道路の交通量増にともない、おおむねサービスエリアやパーキングエリアの売り上げも好調だった。だが観光地の場合は、必ずしも好調だったところばかりではない。
 
大型連休中、群馬県の主な観光地の観光客数は前年比で10.7%減った。首都圏に近い同じ北関東でも、茨城県の観光客数が22.4%増えたり、栃木県も総じて好調だったのは対照的だ。
 
2008年12月の北関東自動車道の開通で、東北自動車道と常磐自動車道がつながり、茨城県と栃木県は首都圏以外の観光客需要を取り込めたことが大きい。だが群馬県内の北関東道はまだ東北道につながっておらず、そうした恩恵を受けにくかった。群馬県の観光関係者からは「首都圏の観光客が群馬を通過して遠い地域に向かったのでは」という嘆きの声が聞こえてくる。
 
高速道路の1000円乗り放題は、しまなみ海道に見られるように、これまで距離的に、あるいはコスト的に「遠かった」地域を劇的に「近く」する。「近い」という理由で選ばれていた観光地が、より遠い観光地が近くなることで負けてしまうケースが、他の地域でも起こっているはずだ。
 
これまで観光地への「距離感」の劇的な変化は、鉄道や高速道路、トンネルなどが開通するなど交通網が大きく変化したときに起きた。だが今回は政策の結果として、全国的な変化が一気に訪れた。
 
高速道路の割引は時限的な政策とはいえ、今後は相対的に利用者を減らしたJRなど鉄道各社の逆襲も予想される。コスト面でより「近く」なることの変化をどう生かすか、観光地の知恵が問われている。

(2009・5・12)


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