第17回 ゲームやネット、ケータイに続く「塊」を欠く日本のベンチャー

iモードを牽引したネットベンチャー
 
この2月22日、始まったときにはほとんど注目されなかったが、この10年間で日本の社会を大きく変えることになったサービスが開始10周年を迎える。それはNTTドコモが1999年2月に始めた、携帯電話によるネット接続サービス「iモード」だ。

ドコモがiモードについて記者会見を開いたのは、その前年の98年11月。だが集まった記者はわずか7人だったという。
 
これはリクルートからスカウトされ、当時はiモードのコンテンツ開発を担当していた松永真理氏が著書『iモード事件』(角川書店、2000年)で明らかにしたエピソードだ。
 
発表会翌日の新聞記事もベタ扱いばかりで、中には「NTTドコモ、文字情報事業でカード会社などと提携」と、今から見ればピントが外れた見出しをつけた記事もある。そのくらい、当初はマスコミも新サービスの意味を測りかねていたのだ。
 
翌2月にiモードが始まったとき、ドコモの「公式サイト」には(1)モバイルバンキングなどの取引系(2)乗り換え案内などのデータベース系(3)ニュースや天気予報などの生活情報系(4)オンラインゲームや占いなどのエンターテインメント系――という4つのカテゴリーが並んだ。
 
ドコモは当初、モバイルバンキングなどお堅いビジネス系をメニューの目玉と考えていたようだ。取引系には都市銀行や地方銀行、証券会社などがずらっと並んでいたのに対し、エンタメ系を手掛けるのは、主に名の知れないベンチャー企業だった。
 
iモードが始まって間もない99年の春ごろ、ドコモなど通信事業者のサービスメニューに載っている社名を頼りにアポイントメントを取り、コンテンツを手掛けるベンチャーをいくつか集中的に取材したことがある。多くは20~30代の若者がつくったばかりの、小さな雑居ビルに入居する会社だったが、熱気だけはあふれていた。
 
実際にiモードなど「ケータイネット」のコンテンツづくりの担い手となるのはこれらのサイバード、インデックス、エムティーアイ、ジグノシステムジャパンといった新しい会社だった。そしてこれらの企業群は2000年以降、ジャスダック、東京証券取引所マザーズ、ナスダック・ジャパン(現・大阪証券取引所ヘラクレス)といった新興企業向け株式市場に続々と上場し、同市場の核とのなっていくのである。


上場時期が集中したITベンチャー
 
日本の新興市場の歴史をたどると、外食などの流通系企業はいつの時代も一定数の上場があるのに対し、情報技術(IT)関連は時代の趨勢や技術のトレンドによって、上場する時期が特定の時代に集中していることがわかる。
 
例えば1970年代のパソコンの登場とともに台頭したアスキーは89年に、ソフトバンクは94年にそれぞれ店頭市場(現ジャスダック)に株式を公開した。このころは店頭市場といえども上場基準が厳しく、上場までには長い時間がかかった。
 
任天堂のゲーム機の普及に乗って急成長したゲームソフト会社は、カプコンが90年、旧エニックス(現スクウェアエニックス)が91年、スクウェア(同)が94年に上場するなど、主に90年代前半に集中している。
 
インターネットの普及で登場したネット企業は、ヤフーが1997年に、楽天やサイバーエージェント、ライブドア(現LDH)は2000年、カカクコムは2003年と2000年前後に固まっている。
 
そしてiモードの開始とともに成長軌道に乗り始めたケータイネットベンチャーは、新興企業向け市場の整備という追い風も受けて、2000年から2005年ごろにかけて大量に上場することになる。
 
しかし今、ベンチャーの世界を見渡して気がかりなのは、こうした小さな会社が群がるような新しい事業分野が、日本では見当たらないことだ。ロボット、環境、エネルギー、ネットなどにそれぞれ個性際だつ未上場企業はある。だがiモードが始まった頃のケータイネットのような、新しい「塊」がないのだ。


ベンチャー育成に遅れる日本
 
経済産業省傘下のベンチャーエンタープレイズセンター(VEC)が1月末にまとめた08年度の「ベンチャーキャピタル等投資動向調査」によると、国内主要90ベンチャーキャピタル(VC)の08年度の新規投資額(見通し)は1000億円で、07年度から48%、ピークだった06年度からは65%も減った。
 
新規上場(IPO)の数も、上場時に市場から調達する額が激減しているのが主因だが、わかりやすい事業分野の塊がないことも、影響しているはずだ。
 
IPOが減り、VCの投資額が減っているのは日本だけでなく、世界的な傾向だ。全米ベンチャーキャピタル協会などの統計では、米国の08年のベンチャー投資額は07年より8%減の283億ドル(約2兆6000億円)だった。
 
ただ代替エネルギー技術など環境分野の投資額は52%増の41億ドル(約3800億円)。総額では減っているとはいえ、オバマ新政権が掲げる環境市場育成政策に沿いつつ、しっかりと次世代の「塊」に照準を定めている。
 
米国の後を追いながら、ベンチャーの育成を進めてきた日本。世界金融危機後は米国の経済をひとくくりに否定する論調があるが、こと新しい産業を生みだし、育てる仕組みについては、むしろ日本と米国の差は開くばかりだ。

(2009・2・17)


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