第14回 時価総額ランキングを見るとよく分かる産業構造転換の遅れ

日本経済の隠れた問題点が見えてくる

「時価総額経営」という言葉を耳にしなくなって久しい。2006年のライブドア事件などをきっかけに「M&A(合併・買収)などで意図的に株価をつり上げる経営」というイメージが染みついてしまったためだろう。

だが企業の株価に発行済株式数をかけた「時価総額」は業績や資産、知名度、市場の期待値などを反映した総合的な尺度として役にたつ。時代の流れやその時ごとのブームなどにより、株価=時価総額は大きくぶれる傾向はあるものの、長い期間を通して見れば、企業の力をそれなりに表しているからだ。
 
上場企業の時価総額ランキングは、ヤフーファイナンスなどの金融情報サイトにアクセスすれば、直近のものが即座にわかる。また年末か年始には、日本経済新聞が東証1部などの時価総額ランキングを掲載する。このランキングの推移を眺めていると、日本経済の隠れた問題点が見えてくる。
 
下表は08年末の東証1部上場企業の時価総額1位から20位までを並べたものだ。そして順位の横にあるカッコ内には、10年前の98年末時点での時価総額順位を入れた。合併などで社名が変わっている場合には現社名(証券略称)の横に、旧社名を記してある。
 
一通りみてわかるのは、20社の顔ぶれがあまり変わらず、新陳代謝が進んでいないことだ。トップから4位までの会社は順位こそ入れ替わっているものの、トヨタ、NTTドコモ、NTT、三菱UFJ(東京三菱銀)で全く変わらない。
 
08年の上位20社で、98年も上位20社以内に入っていた会社は13社もある。また入っていない7社も、任天堂やキヤノンなど4社は、98年には50位以内には入っていた。


この10年でランキング上位の顔ぶれは激変
 
98年の51位以下から08年に20位以内にランク入りしたのは、KDDIとヤフー、三菱商事。この中でKDDIと三菱商事はいわゆる大企業だ。08年の上位20社の中で、この10年のうちに「時価総額が急増した=急成長した」といえるのは、96年設立の18位のヤフーだけといってもいい。
 
上位20位までにマイクロソフト、グーグル、シスコシステムズ、オラクル、インテル、アップルといった若いハイテク企業が数多く名を連ねる、米国の直近の時価総額ランキングとは対照的だ。
 
もちろんこの10年間、時価総額のランキングが、08年のような顔ぶれで、動きがなかったわけではない。
 
例えばインターネットブームがピークを迎えつつあった99年末のランキングでは、NTTドコモが1位となり、ソフトバンクが6位に入った。そして光通信、村田製作所、ロームといったネットやIT(情報技術)に強く、かつベンチャー色の濃い会社が20位以内に入っていた。また2005年末のように、不良債権処理をほぼ終え、収益回復への道筋をつけた大手都市銀行が上位4社中3社を占めたこともある。
 
10年前の98年といえば、日本経済がいまだバブル崩壊の痛手から立ち直ることができず、産業の構造転換が叫ばれていたころだ。
 
当時の日本は、ベンチャー企業に資金を供給する仕組みや担い手を欠いていた。98年の通商白書は「新規産業を担うベンチャー企業に円滑にリスクマネーが供給されるべきだ」と指摘した。
「ベンチャーにもっとリスクマネーを供給すべきだ」という官民そろっての認識に、ネットを利用した新産業への期待も加わり、翌99年にはソフトバンクの孫正義社長らが「ナスダック・ジャパン構想」を発表。そうして2000年には東証マザーズとナスダック・ジャパン(現・大証ヘラクレス)がそろい、ベンチャー企業が毎年100~200社上場する「大公開時代」へとつながっていった。


円安バブル崩壊で試される日本経済
 
だがそれから約10年。一時はネット・ITブームの追い風で新興企業が躍進したものの、10年後の時価総額ランキングに表れる日本の産業構造は新鮮味を欠く。任天堂やヤフーには新しさを感じるが、代表的な国産ベンチャーである楽天の時価総額は7457億円で、2兆円以上の上位20社には及ばない。10年間でぐるっと回り、また元の場所に戻ってきたような錯覚を覚える。
 
このような状況の責任の一端は新興企業そのものにある。せっかく新興企業向け株式市場の整備という後押しがありながら、それを生かせる企業が少なかったばかりか、悪用する企業も多かったからだ。
 
だがもう1つの要因は、2000年代の金融緩和と円安政策によって、日本の輸出型製造業が息を吹き返したことにある。自動車や電機などの産業が輸出を増やし、収益を回復させた。その復活が、ベンチャーを育てよう、産業構造を変えようという勢いをそいだともいえる。
 
だが世界金融危機をきっかけに、低金利の円を借入れて売り、金利の高い外国通貨で運用する「円キャリー取引」を解消する動きで円はあらゆる通貨に対して高くなり、輸出型製造業の「円安バブル」は崩壊しつつある。野口悠紀雄氏は08年末に出版した『世界経済危機 
日本の罪と罰』(ダイヤモンド社)で「2005年以降の企業収益の増加と株価の上昇は、基本的には円安バブルに支えられたものだった」と指摘している。
 
第2次世界大戦後から続いた「輸出立国モデル」が崩れた後に残るのは、98年のとき以上に、新しい産業の担い手を育てることが必要という認識だ。工場を持たないファブレスメーカーという経営スタイルで「家族」という新しい購買層を開拓し、営業利益率3割超という高収益を維持する任天堂のように、円高日本においても、企業の生き残る道はある。
 
これから5年後、10年後の日本の時価総額ランキングはどう変わるだろうか。昨年末と代わり映えのしない顔ぶれであったら、その時こそ、日本経済が衰退している証左となる。


2008年末の東証1部時価総額ランキング
順位   社名
1(2) トヨタ
2(3) NTTドコモ
3(1) NTT
4(4) 三菱UFJ(東京三菱銀)
5(31) 任天堂
6(8) 東電
7(6) 武田
8(22) キヤノン
9(10) ホンダ(本田技)
10(9) 三井住友FG(住友銀)
11(18) JT
12(25) みずほFG(第一勧銀)
13(-) KDDI
14(7) セブン&アイ(セブンイレブ)
15(15) JR東日本
16(5) パナソニック(松下)
17(16) 関西電
18(-) ヤフー
19(27) 中部電
20(-) 三菱商


(注)順位の後のカッコ内は1998年末の順位。-は51位以下を示す。社名の後のカッコ内は合併・統合や社名変更前の旧社名。合併・統合の場合は、98年末時点で最も時価総額が高かった1社のみ記してある。

(2009・1・7)


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