第1回 野球の独立リーグを創設した石毛宏典という名の「起業家」

野球の独立リーグが、全国に広がっている。先行した四国や北信越のリーグは、2008年から地域を広げると共にチーム数を増やし、関西でもリーグを新設する構想が進む。日本野球機構(NPB)が運営する「プロ野球」への育成機関として機能し始め、地域に活気を取り戻す担い手としても注目を集める独立リーグ。その独立リーグが日本に広まるきっかけをつくったのが、西武ライオンズの名遊撃手で、オリックスの監督だった石毛宏典だ。

「なんで、デイリースポーツの後追いをしないといかんのかなあ......」。高松支局の同僚記者がぼやきながら記事を書いていた。かたわらにあったのは、その日のデイリースポーツ。1面にはこんな見出しが躍っていた。「プロ野球に新リーグ!! 
四国4県4球団 
来季からスタート! 
元オリックス監督 
石毛氏中心に設立」。今から4年近く前、2004年9月末のことだ。
 
新聞の世界で「抜いた抜かれた」は日常茶飯のこと。ただ媒体や地域によって、ニュースやスクープの「判断軸」は異なる。普通ならば、関西が地盤で阪神タイガース中心の紙面をつくるデイリーのスクープを、一般紙の、それも地域ネタを書くことが仕事の支局が「追う」ことはない。
 
ただネタは四国での"プロ野球"独立リーグ構想である。野球の世界だけにとどまらず、人口減に悩む四国4県にとって一つの面白い地域活性化策に育つ可能性はある。
「恐らくうまくはいかないが、一応は書いておかないとな」。これがデイリーの後追い記事を書く羽目になった記者たちの、平均的な思いだっただろう。そのくらい、四国の人たちも当初は、石毛の掲げた四国アイランドリーグ(IL)構想を本気にはしていなかったのである。

 
当時、高知支局に勤務し、たまたまその日は高松に仕事で来ていた私もさめていた一人だ。構想には高知も含まれていたが「人口が80万人を割る高知で、そもそも"プロ野球"が成り立つものなのか」。そんな疑問が、頭からは離れなかった。
 
そんな私が「ILは地域を面白くしそうだ」と思い始めたきっかけは、翌2005年の3月、初めて石毛本人に会った時からだ。
 
その日は高知県南国市の奈路という、山あいの小さな集落の公民館で、四国ILを応援する組織の設立総会があった。応援組織といっても、JR四国のような大企業が母体の組織ではない。高知県内の農家らが「カネはないがコメなら出せる」と考え、各チームにコメを提供することで四国ILを応援しようという草の根組織の設立総会だった。
 
当然、集まったのは農家のおじちゃんやおばちゃんが中心。彼らは公民館の畳に座わり「本当にこんな所に石毛が来るのだろうか」と若干不安を抱きつつ、石毛を待ちわびていた。
 
少し遅れて1人でやってきた石毛は「四国ILに夢をのせて」と題して講演。「コメをしっかりかみ締めて、若者が夢をつかむために必死になっている姿を見せていきたい」と話した。また講演後の交流会では、高知特有の献杯や返杯にも嫌がる様子一つ見せず、おじちゃんやおばちゃんらと楽しそうに酒を酌み交わしていた。
 
この人が掲げる「地域密着」は単なるお題目ではなく本気だ――。出席者に、石毛の熱い思いがしっかりと伝わる会だった。高知で四国ILを応援しようという空気が強まっていったのは、この頃からだったと思う。

 
翌4月。私は松山市の坊ちゃんスタジアムで行われた開幕戦、高知対愛媛の開幕戦を見に行った。プロ予備軍とは思えぬ珍プレーもあり、観客から失笑を買ったりもしたが、選手のハングリーさと、荒削りの魅力は伝わってきた。
 
この1戦に高知の一員として出場していたのが、今はロッテの1軍で活躍する角中勝也だ。「スイングスピードは速かったが、足も肩も最初は今ひとつだった」。入団した当初のことを石毛がこう評した角中は四国ILでその後めきめきと力をつけ、2006年の大学・社会人ドラフト7巡目でロッテから指名を受けた。今年の4月にはプロ入り2年目で初めてのホームランを放ち、四国ILリーグ出身者としても記念すべき第1号になった。
「四国リーグがなかったら、プロに入ってない。活躍して恩返しをしたいと思っていた」。角中の試合後のコメントを聞いた石毛は「あの言葉で救われたね」と振り返る。この角中をはじめ、四国ILからプロ野球入りした選手は既に11人に達した。
 
4年ほど前には、ご当地の四国の人でさえ、ほとんど本気にしなかった独立リーグ構想。だが今は北陸・上信越にも広がり、来年には石毛自身が仕掛け人となって関西にもリーグが誕生する見込みだ。石毛は「社会人野球が廃れ、地域が活力を失う中で、独立リーグはプロ野球を支え、雇用を生み出し、地域を支える力がある。ゆくゆくは独立リーグ機構も必要になる」と力強く語る。
 
振り返れば、2004年には、近鉄とオリックスが合併を前提に話し合うと発表したことを機に、プロ野球の再編問題が浮上した。ライブドアの堀江貴文や楽天の三木谷浩史などの「起業家」が、野球への参入をめざした年でもある。
 
だがプロ野球への参入争いは、裏返せば、新興企業がいかに既得権益を持つグループに入るかの争いでもあった。結果的にプロ野球への参入を果たした三木谷や、敗れた堀江よりも、日本では難しいと見られていた「独立リーグ」の礎を築いた石毛の方が、よほど起業家らしく見える。

(08・6・4)


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