【来た!見た!書いた!】 iPhone全盛の陰で失われたもの

中古のウィンドウズフォンは最低金額でも売れない

 米アップルが9月20日に発売した新型スマートフォン「iPhone(アイフォーン)5s」と「同5c」はわずか3日間で計900万台売れたという。日本でもソフトバンク、KDDIに続きNTTドコモがアイフォーンを扱うようになり、世間の携帯電話に関する話題はほとんどアイフォーンばかりだ。
 そんななか私は9月末、ある中古スマートフォンをブックオフに売りに行った。同社が「ケータイなんでも買取キャンペーン」と題して「スマホなら最低3,000円以上」をうたい文句にしていたからだ。
 家の近所のブックオフに出向き、待つこと十数分。「お客様の携帯電話の買取金額は100円です......」。
 「どういうことですか?」と聞くと、3000円以上で買い取るスマホのリストの中に、私が持ち込んだ機種が含まれていないという。「うたい文句に偽りありじゃないですか」という言葉がのどから出そうになったが、単にマニュアル通りに対応している女の子に文句を言うのも大人げないと思い、そのまま買い取ってもらわずに持ち帰った。

4年前の「悪くない」機種の使いにくさ

 私が売ろうとしたのはNTTドコモ向けに東芝が開発した「T-01A」という機種だ。東芝にとってはドコモ向けの初のスマホで発売日は2009年6月。4.1インチの800×480ドットの液晶ディスプレイを備えながらも重さは129グラムという、当時としては軽量で最大級のディスプレイを備えた機種だった。
 4年前のスマホとしては悪くないスペック。だが問題はこの機種の基本ソフト(OS)が、米マイクロソフトが開発したウィンドウズモバイルだったことだ。
 いまスマホといえば、アップルのアイフォーンと、米グーグルが開発したOS、アンドロイドを搭載したソニーの「エクスペリア」などのアンドロイドスマホの2種類しか思い浮かばない人が大半だろう。どちらも「静電容量方式」という指の腹で操作するマルチタッチ方式のタッチパネルを備え、文字を入力するのも、画面を拡大・縮小するのもすべて指でできる。
 T-01Aはどことなく現在のアンドロイドスマホにも似ているが、操作性はかなり違う。搭載するのは「抵抗膜方式」というタッチスクリーンで、先のとがった樹脂製のペンや爪などで操作する。ペンを使って手書きで文字入力したり、絵を描いたりするのには向いているが、マルチタッチが可能な現在のスマホと比べると、正直、使いにくい。


スマホ登場の頃のシェアトップはノキアの51%

 ソフトバンクが日本で初めてのアイフォーン「3G」を発売したのが2008年7月。そしてNTTドコモが日本初のアンドロイド搭載スマホの「HT-03A」を売り始めたのが2009年5月。
 T-01Aが登場した2009年6月は、まだスマホのOS競争が混沌とした状態だったが、あっという間にアイフォーン(iOS)とアンドロイドが席巻。マイクロソフトのウィンドウズモバイルはシェアを落としていき、開発も終わってしまった。そうした経緯を振り返ると、T-01Aがブックオフから「3000円の価値もなし」と見られても仕方がないと思えてくる。
 アイフォーンとそれに続くアンドロイドの席捲の影で姿を消したのはウィンドウズモバイルだけではない。
 米ガートナーの調査によると、2009年第2四半期のスマホのOSのシェアで、ウィンドウズモバイルは9.3%だった。ただこの時点ではiOSも13%、アンドロイドは1.8%に過ぎない。1位は当時、世界最大の携帯電話メーカーだったフィンランドのノキアのスマホに搭載されていた「シンビアン」で、51%を占めていた。

ビジネスマン必須のデバイスも今は昔

 日本ではノキアの携帯電話は大ヒットしたことがないので、あまり知られていないが、アイフォーンの普及以前、「多機能な携帯電話」といえばノキアの独壇場だったのだ。その分、アイフォーンとアンドロイドの登場・普及はノキアにとって深刻な打撃となった。マイクロソフト以上の急激な速度でスマホのシェアを落としたノキアが2011年に手を組んだのが、そのマイクロソフト。マイクロソフトがウィンドウズモバイルの後継OSとして開発した「ウィンドウズフォン」を搭載する、ほとんど唯一の携帯電話メーカーになっている。
 2009年第2四半期のスマホのOSで2位(19%)だったのが、カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM、現ブラックベリー)の「ブラックベリー」だ。これもアイフォーン全盛の中で失われようとしているメーカー、機器だ。
 QWERTY配列の小型フルキーボードを搭載した機種が中心で、会社の電子メールやスケジュール、ウェブ閲覧などに簡単にアクセスできる。2000年代後半には「北米で働くビジネスパーソンにとって必須のデバイス」の地位にあったが、今では「まだ使っているの?」と揶揄されるようなところまで落ちぶれてしまった。業績不振で大規模な人員削減に乗り出したほか、業界大手などへの身売りが必至の情勢だ。


ウェアラブル移行の前に、もう一度復権する「技術」

 IT分野ではメーカー、ソフト、サービス会社間の激しい攻防が常だが、5年程度の間でかつての超有力企業だったノキアやブラックベリーが凋落してしまう動きの速さに、改めて驚かざるを得ない。
 だがこうした業界の激しい揺れは、新たな事業や技術革新の好機も生んでいる。現在のスマホの世界は、アイフォーンに代表される静電容量方式のタッチパネルを使った機種が大半を占める。ブラックベリーのようにキーボードで素早く文字を入力できる機種や、ペンで紙のノートのような入力ができるスマホが市場の隅に追いやられている。
 ただキーボードやペンを使いたいユーザーの割合は、現在のこうした少数派機種の割合よりもはるかに高いはずだ。
 「スマホの次は眼鏡や時計の形をしたウェアラブル端末」というのが、スマホ業界の合言葉のようになってはいる。だがウェアラブル端末で、入力はどうするのだろうか。音声入力はこれからも進歩するだろうが、それだけで長い文章をつくれるようになるとは思えない。
 スマホからウェアラブル端末に、利用者のニーズが移行する前に、もう一度、キーボードやペン入力の技術が復権するタイミングがあるような気がする。

(2013年10月9日)


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