第6回 「何のためにこの会社はあるのか」素人の発想で常識を打ち破る。(後編)

ワタミ株式会社 代表取締役社長渡邉美樹ワタミ株式会社 代表取締役社長
渡邉美樹 氏

聞き手 松室哲生(おもろい会社研究所主幹)

――社員一人ひとりに会社のポリシーを浸透させることは簡単なようで現実にはむずかしい。それを乗り越えて、望まれる人材に育て上げるポイントはどこにあるのでしょう。

【渡邉】大事なことはミッションを共有するということです。
 
何のためにこの会社はあるのか、何のために外食事業をやっているのか、何のために農業をやっているのか。「何のために」という問いに対する明確な答えを持つことです。
 
そのためにはトップ自ら365日24時間どういう生き方をしているかを示すことが大切です。社員が1000人いれば、2000の目で見られています。トップは日頃社員に説いている理念を実生活でも実行することが必要です。たとえば私が切った伝票は経理部門に回り、社長が会社のお金を何のためにどのように使ったかわかります。伝票1枚で、社長の常日頃言っていることとやっていることは本当かということがわかってしまう。ですから世の中では、会社の理念は社員に浸透しないものとよくいわれますが、私にすればそのことは、トップが会社の理念の通りに生きていないせいだと思います。

――トップからのメッセージをいい続けることも重要ですね。

【渡邉】ですから私は、毎月、機会あるごとに、社員一人ひとりに長い手紙を書いています。また、店舗や施設宛にもビデオレターを作っています。社員宛ての手紙には社員の家族のことについても書いています。

――現在15以上の会社を経営されていて、そんな時間がよくとれますね。

【渡邉】昨夜は12時頃に寝て、今朝は4時半に起きました。1分1秒を大切に送れているんだと思います。ですから疲れなど全然感じません。
 
もともと、自分が楽しいと思うことしかやらないんです。気が乗らないことは一切しない。また、儲かる儲からないという話にも関心がありません。ワタミらしいか、お客さまの「ありがとう」という気持ちが集まるかどうか、というのが基準です。

――心やからだをリフレッシュする必要はありませんか。

【渡邊】毎月、鹿児島の屋久島に行き、海に潜り、山に登り、温泉に入ってきます。屋久島には日本百名山で、九州地方最高峰の宮之浦岳があり、一人で登ることもありますが次回はワタミが経営している病院の医師たちと一緒に登ってきます。
 
普段から好き勝手をしているのでストレスなど感じませんが、屋久島に行くと気分がフラットになり、枯れていたものが満たされるような気持ちになります。

――国内が800店舗でいっぱいとすると、海外への展開もこれからのワタミにとって重要ですね。まずはアジアですね。

【渡邉】すでに台湾、香港、深セン、上海に進出しています。2008年11月に香港でワタミ・インターナショナルを立ち上げ、ここをベースに2009年はシンガポール、以後毎年1カ国をペースに展開していく予定です。


海外進出は日本流を貫き、パートナーシップを築き上げる

――食はその国の自然、文化、慣習などと深く関わっています。同じ日本人相手とは勝手が違い、また食材などの価格も安いので苦労が多いのではありませんか。

【渡邉】いやむしろ海外における経営のほうが楽なんです。というのは日本の外食のほうがきびしいのです。 なぜかといえば、1970年代にマクドナルドが日本に上陸してきたとき、間違えて値段を安くしすぎてしまったからです。さらに、品質、味などついて日本人のレベルは高いですから、きちんとした対応ができることが条件ですが、日本より2、3割高くてもお客様は増えていきます。
 
この先、国内では小店が多くなりますが、海外では大型店を増やします。香港35店舗、台湾40店舗、上海など中国で40店舗、シンガポールで12~13店舗を考えています。

――従業員はその国の人たちになるのでしょうが、社員教育ついてはどうでしょう。

【渡邉】海外事業を推進するには2つのポイントがあります。ひとつは理念を貫くこと。
 
初めて海外進出したとき、そこの国柄、風習に合わせればいいと考えて、香港で"香港流"にまかせたら、給料のためにしか働かない自分勝手でとんでもない会社になってしまいました。以来、ワタミの理念研修には私自身が出張し、幹部を集めて「ワタミは何のためにあるのか」と、日本と同じ研修をやっています。
 
もうひとつは、中堅幹部にはその国の人間を起用することです。幹部には、ワタミという会社を良くし大きくするために日本人とパートナーシップを結んでいるのだと理解してもらうわけです。

――欧米は日本食ブームといわれていますがどうでしょう。

【渡邉】欧米への進出は10年先でしょう。私が欧米を回って感じるのは、いまの日本食ブームは底が浅い。一部の高級日本食レストランが迎え入れられただけで、大衆まで浸透していません。ちょうど現在のアジアの10年くらい前の状況といっしょです。
 ワタミが進出するのは、まず"日本食もどき"が大衆に広まってからで、それから本格的な展開を考えようと思っています。

――10年後のワタミはどんな会社になっているでしょう。

【渡邉】いい会社になっていると思います。というのも、外食事業を始め、介護、農業、環境、ご老人向け宅配弁当などのモデルがここにきてようやく形になり、その手応えを感じています。モデルさえしっかりできあがれば増やすのは比較的簡単で、寝てても大きくなっていくような凄い会社になるはずです(笑)。

――ワタミといえども事業が上手くいかないことはある。あまり目立たないけれど、そうした場合の手の打ち方や撤退などの決断の早さが、渡邉さんは抜きん出ていると思います。

【渡邉】最近は、焼肉、全面禁煙の居酒屋、デパ地下の惣菜などに挑戦しましたがみんな失敗でした。
 
新しい商売を始めて、この先どうするかは、いつも現場の空気感で判断しています。お客さまが喜んでいるかどうかは、現場に行ってお客さまの顔を見ればすぐにわかります。
 
以前、大手百貨店の地下にオープンしたわたみキッチンでは、食品売り場に1時間立って、お客さまの様子を観察していました。すると、お客さまが嬉しそうに買い物していない。ワタミが目的にしている「ありがとう」が集まっていない。そんな、あってもなくてもいいような商売ならやめよう、と決断しました。
 
私は損得で判断はしません。数字は後からついてくるものです。社員にはいつも「100先からもありがとうを集めたい」といっています。
 
この前、宅食会社の仕事を知るために、会社のユニフォームを着て、車を運転し、一つ500円のお弁当を配達して回りました。自分で食事が作れない独居のご老人、坂の上に家があり辛くて買い物に行けないご家庭などでとても感謝されました。とてつもないくらい「ありがとう」が集まるのを実感しました。
 
現在は九州を中心に展開している会社ですがこれから首都圏でも展開していきます。こうした事業こそワタミらしい仕事です。

――ありがとうございました。


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