第5回  損得勘定で事業はしない。社員と「ありがとう」を集めれば、数字は自然についてくる。(前編)

ワタミ株式会社 代表取締役社長渡邉美樹ワタミ株式会社 代表取締役社長
渡邉美樹 氏

聞き手 松室哲生(おもろい会社研究所主幹)

その昔、居酒屋つぼ八のFCオーナーになった渡邉さんは、瞬く間に店の売上げを数倍に増やして、さらにお客さま本位の居食屋『和民』を立ち上げた。その奮闘ぶりは高杉良氏の小説『青年社長』に詳しい。

いまの渡邉さん率いるワタミの事業は、外食、介護、中食、農業、環境までおよび、外食は海外にも進出する企業に成長した。渡邉さんとは久しぶりの対面だったが、若々しい青年社長は健在だった。

――原油高や輸入食材の安全性の問題など、外食産業に逆風が吹いているなか、ワタミの戦略として、小商圏に基盤をおいた個人店のチェーン展開を図るとお聞きしました。

【渡邉】これまでにワタミが出店した大型店舗は600店ほどですが今後の外食産業を見通し、受給のバランスなどから考えると800店舗くらいがちょうどいいところかなと考えています。その先、800店舗の店長たちの将来をどうしようかと考え、始めることにしました。
 
もちろんワタミでは外食事業のほかにも就労の道がありますが、社員のなかには外食が好きで、ずっと店長をやり続けたいと思っている人たちがいる。そうした社員の希望をかなえるために、地域に必要とされる小規模な店を作り、経営していく道を拓いてもらおうと思いました。
 
店長たちは、店舗設計のノウハウから、自社農場「ワタミファーム」で作った有機野菜や畜産物などの提供を受けられます。その食材をそれぞれのお店で調理し、お客さまに提供するわけです。店名は居食屋「和民」ではなく居食屋「○○」など、個人で好きな名称を付けます。これからは大型店よりこのようなニーズのほうが求められてくると思います。

――安全な食材を安定供給することがいまの社会ではむずかしい状況になっています。ワタミが自社で農作物を生産し、お店に納入しているメリットは大きいですね。

【渡邉】自社で販売する食品を自社で生産するメリットは計り知れないほど大きなものがあります。問屋、仲卸、漁業組合などとの信頼関係や交渉力が強くなり、当初から産地と直接取引をしてきたこともここにきて大きなメリットを生んでいます。
 
ご承知のように原材料の仕入れは、中間をはさむほど値段が高くなっていきます。直接取引なら他社と比べて、値上げ圧力に強いといえます。
 
また、自社農場で収穫できるのは作物ばかりでなく、さまざまなノウハウも得られます。そうしたノウハウによって初めて販売計画にそった仕様書、契約書などを生産者たちとの間で取り交わすことができます。
 
ワタミでは有機肥料の指定、畜産物なら飼育する環境から育て方まで細かく定めて、その上で価格を決めています。

――原油高によってさまざまな物価が上昇していますがその影響は。

【渡邉】2008年春に数%ほどの値上げをしました。原油高騰はさらに続き、恐らく他社はこの秋に再度値上げするでしょうが、ワタミは価格を抑えることで商品力を上げることを目指しています。


食の原点に立ち戻り、競争力を強化する

――一般的に外食事業では、食材は市場から調達するしかありません。それを思い切って自社生産し、安定供給できるようにしようと考えたきっかけは何だったのですか。

【渡邉】お店に来てくれるお客さまに、安全で安心できるものを提供したいという思いからです。
 
その昔、私が店長をやっていたとき、厨房で毎日、野菜についた農薬を洗い落としていました。それがいやで仕方ありませんでした。そこで、農家に行き、納品の前に洗ってくれないかと頼みましたがやってくれません。仕方なく自分らでやると今度は経費がかかり、野菜の値段が2、3倍にもなってしまいました。
 
いくら安全なものを出しているからといっても、一皿500円の野菜サラダが1000円にもなってしまう。困り果て、他にいくつかの方策を試みた末に、自分たちの手で作ろうと決心しました。

――農業は簡単にはいきません。コストも相当かかったでしょう。

【渡邉】去年までずっと厳しかったです。今年やっと利益が出る見通しです。
 
作物作りは良い土を作ることでもあって、前の年が不作で収穫できず作物を土に戻したことで土が再生する、そうした繰り返しをしてきて6、7年経過したいま、ようやく力のある良い土になってきました。

――農業でもプロなわけですね。農場には行かれますか。

【渡邉】農場は北海道から京都までありますが、年に一度は必ずすべての農場を見て回っています。そして、土の状態から作付け状況、出来高などを自分の目で確かめています。
 
現場ではいろいろとうるさく注文をつけます。何といっても会社が赤字を出していますから。経営者は赤字を出した分だけ強くなります(笑)。

――有機野菜などの食材を使い、手づくりで調理をし、リーズナブルな価格で提供する。ワタミのモットーは簡単なようでむずかしい。これを推進できた理由は何でしょうか。

【渡邉】「人」がすべてだと思います。私たちがスタートしたとき全員が素人の集団であったことがよかったと思います。居酒屋の常識に染まっていなかった。ですから「居酒屋なのに何でこんなサービスをしてくれるの?」という言葉をお客さまからもらうことがワタミの原点になりました。
 
居酒屋チェーンなら冷凍食品が常識でしたが手づくりにこだわりました。居酒屋に来る人は健康なんか気にしていない、という常識に対抗して有機野菜にこだわり続けました。
 
素人だからお客さまが何を望んでいるかを真剣に考え、望んでいることなら何でもやろう。そうした考えをトップから新入社員にまで徹底したことが、居酒屋業界の常識を覆す成果につながりました。


2008年10月 月刊『エマージング・カンパニー』誌の取材にて

渡邉美樹氏 個人サイト http://www.watanabemiki.net/
渡邉美樹氏 オフィシャルブログ http://ameblo.jp/watanabemiki/


トップページ -> あの社長が語る経営の極意 -> 第5回  損得勘定で事業はしない。社員と「ありがとう」を集めれば、数字は自然についてくる。(前編)