第4回  大学卒業イコール就職という発想は捨てるべきである(後編)

式会社パソナグループ 代表取締役社長南部靖之 氏株式会社パソナグループ 代表取締役社長
南部靖之 氏

聞き手 松室哲生(おもろい会社研究所主幹)

――米国もずっと以前は今の日本と同じく正社員採用、終身雇用を守っていた時代がありましたが、現在でははるかに自由な雇用の場を提供できています。

【南部】いまの日本の雇用の状況は20年前の米国ではないでしょうか。現在の米国ではフリーターは当たり前、市民権を得ていますが、日本でフリーターは国賊ですからね(笑)。日本の状況は未だ国力を強くするレベルなのだと思います。

――働くという観点からいうと今後、会社はどのような形態に変化していくと思いますか。

【南部】社長が取り仕切っていた体制から米国式のCEOへ。さらにアウトソーシングがすすんできて、社員の数もある時は100人、あるときは500人、またある時は1000人というように、組織全体がアメーバのように大きくなったり小さくなったりするのではないでしょうか。現在のアウトソーシングや派遣社員制度のように、会社ですべてを抱えて事業していくのではなく、仕事の内容に応じて必要な組織にするといった体制です。
 
理想的には日本国には日本カンパニーが一つあって、全社員(国民)が同じ福利厚生、健康管理、教育を享受できる。そして競合は、日本より国力があったり資源が豊富だったりする海外が相手ということになります。国を強くするにはまず国民を強くしなければなりません。

――おっしゃるとおりですが、実際にはそうなっていない。

【南部】とくに東京に住んでいる若い人たちの状況は深刻です。東京は地方にくらべてはるかに物価が高く、生活費もかかります。なので実際に多くの若者達が東京から離れ出していっています。地方に行くほど職業格差が激しいのですが、生活費が上がるばかりなので住み続けることができなくなってしまっている。近いうちに首都のドーナツ現象が起きると思います。

――それが高じると東京ばかりか日本大脱走にもなりかねない。

【南部】20年ほど前に、女性の職場は香港にあり、とばかり女性労働者が香港や上海に行った時代がありました。現在は中高年が定住の地を海外に求めています。
 
インドネシアやシンガポールでは海外の定年退職者を対象に、それらの人たちの税率を下げて国で積極的に受け容れる施策をとっています。移住してもらい、家を建ててもらい、人を雇ってもらって、余生を送ってくださいというわけですね。狙いはその人たちのたくさんの退職金です(笑)。
 
また今の中国などは高所得者が多いですから、昔では考えられないほどの高賃金でたくさんのすぐれた日本人を雇っている。雇われる日本人は、日本で働くより高収入ですから満足度も高い。

――そうした状況を防ぐにはどのような方策があるでしょうか。

【南部】日本の社会において個人の力を引き出させるようにすることだと思います。個人の能力が自由に十二分に発揮できるから国が強くなっていく。
 
また定年退職者のセカンドステージを提供するのは、地方がやることだと思います。けど専門技術をもっていたり、マネージメント能力があるかたなら、もっと海外で活躍できる道をつくるのもいい。パソナでもそうした目的で、ベトナム、タイ、インド、サウジアラビアなどの国で取組みをはじめています。


独立したばかりの会社でも、大企業と同じ福利厚生が受けられる仕組みを作る

――今後10年間でパソナは何をしていきますか。

【南部】僕はいまの格差を無くそうという活動を30年以上やっていますが、未だ半分くらいしか実現できていない。だから格差を無くすことに全力を尽くします。
 
例えば30年前は、女子学生は入社できても昇格も昇給すらもなかった。まして一度家庭に入った女性は絶体絶命。就労しようにもパートタイマーがせいぜいでした。それが30年間でどうやらやっと少し改善されてきました。
 
男性についても30年前と違い、男子学生の約15%くらいは大企業に入社できますが、残りの85%は中小企業に就職します。日本全体の中小企業の割合は九割以上で、地方の割合が高い。そこでは就職後の教育がなかなか受けられない、また健康管理が満足に行なえないなど、厳しい面があります。これも改善しなければならない。
 
また、独立して一人で会社を起こして、100人の従業員を抱えても一万人の従業員がいる会社と同じような教育が受けられて、同じような福利厚生、そして健康管理まで受けられるといった制度、仕組みをつくっていかなければならないと思います。
 
今やっと障害者のかたが外へ出て、働ける仕組みをつくりました。障害者のかたを雇わなければ罰金が科せられますが、罰金など不要になるほど雇用の場を提供することが必要なのです。

――そういう風にしてでも戦力を充実させていかなければ国が強くならないということですね。

【南部】僕は35から43歳まで米国にいまして、さらに家族は3年半前まで住んでいました。日本に戻ってきて感じたことは「日本はまだ男女格差がひどい。よくやっているなぁ」ということです。
 
米国では、たとえば2軒目の家を買う、別荘を建てる、モーターボートを買うなど、日本では金持ちの贅沢と思われる行ないに対して、税金が免除されます。「米国のためによくお金を使ってくれた」というスタンスで、日本とはまるで正反対なわけです。

――以前のインタビューで米国の若者がしっかりした職業観を持っていることについての印象的なお話をお伺いしました。

【南部】ニューヨークのペニンシュラで働いていたドアマンの話ですね。よく憶えてますね(笑)
 
彼はアイビーリーグのハーバード大学を卒業したにも拘らず、フリーターで、当時ペニンシュラホテルのドアマンをしていました。そこで彼の働きぶりを見て、さらに高学歴であることなどを知ったので、私の会社に来ないかと声をかけました。すると彼が言うには、自分には独立して会社を興す計画があって、働きながらその資金を貯めてきた。それもようやく目標額になりそうだ。そんなわけだからあなたの会社に入るわけにはいかない、というわけですね。

――自分の将来のためにフリーターという立場をあえて選択したわけですね。

【南部】いまの日本では大学卒業イコール就職というのが常識となっていますが、米国では、大学卒業=就職という考えはありません。実は私の息子も米国のコーネル大学を卒業しましたが、今はフリーターをしています。そして自分の時間を作っては中国などに行って社会勉強しているようです。息子の友達の中にも、1年間でヨットで世界一周をして、それから就職すると計画している子とか、自由に伸び伸びと仕事を選んでいますよ。
 
こんな話を大学卒業=就職の日本でしたら大変。国賊呼ばわりされるでしょうね(笑)

――個人の力を養うということは、そのように自由闊達な活動によってはじめて身に付くものだということですね。

【南部】個人の自由を尊重し、個人の能力を引き出し、評価していけるような社会は、国家が支えて作るようにしなければなりません。大学卒業=就職という考えは、やめることですね。


2008年6月 月刊『エマージング・カンパニー』誌の取材にて


トップページ -> あの社長が語る経営の極意 -> 第4回  大学卒業イコール就職という発想は捨てるべきである(後編)