第3回  30年でようやく格差を半分に縮めた。格差を無くし、国民の力をつけることが国の力をつける道(前編)

式会社パソナグループ 代表取締役社長南部靖之 氏株式会社パソナグループ 代表取締役社長
南部靖之 氏

聞き手 松室哲生(おもろい会社研究所主幹)

南部さんは、日本の人材派遣業のパイオニアである。大学在学中より、家庭に入った女性の再就職の道を作ってきた。人材派遣のフランチャイズ、日本初の新卒者対象の人材派遣・紹介事業、高齢者の就労の場を提供する事業にさえ着手した。その目を見張る行動力で、将来を見据えると、どんな視野が開けるのか、興味は尽きない。

――私が以前南部社長にインタビューしたのは97年でした。当時はまだ上場もしていませんでしたが、今では押しも押されぬ大会社になりました。今後も派遣ビジネスは好調のままに推移していくでしょうか。

【南部】派遣はこれからますます伸びていくと思いますね。若者、とくに女性達の間では「自分は秘書をやりたい」といったように職業についてはっきりした目的意識を持っている人が多い。そうすると、従来のように大学を出たから会社に入るといった「就社」から、自分が好きで納得のいく仕事をする本来のあり方の「就職」にだんだん形が変わってきています。派遣制度についても自分から積極的に活用し、派遣から学んでいくという姿勢の若者たちも多くなっています。また、いろいろな情報が便利に手に入りやすい時代ですから、それらの情報も自分で集めて活用していますね。

――派遣に人気が集まるのはメリットも大きいからですね。

【南部】いまも社会問題になっているいろいろな企業でのサービス残業についても、派遣の場合は皆無です。高収入であるし、何と言っても自分自身で職業が選択できるのが一番でしょう。さらに会社の場合のように転勤もありません。まさに若者たちにはピッタリな方法だと思います。


「何で会社のために働かなければならないのか?」と疑問を持つ若者が多くなっている

――入社したのはいいが、すぐに辞めてしまうといった心配もありませんね。

【南部】入社して3年以内に辞める割合は俗に七五三と言って、中卒者で7割、高卒では5割、大卒では3割と言われています。だから政府はなんとか就職させようとする。なぜかと言うと「国民は労働力」と考えているからです。
 
つまり労働時間は月曜から金曜まで。その間に稼いだ収入についてはきちんと税金を押さえよういう姿勢が背後にあるのです。
 
しかし現実には、若者は大学卒業後に自由に海外に行ったり、また勉強をつづけたり、さらに会社を巡るように転職を重ねながら経験を積んでいくといった考え方をして行動している。いわゆるワーク・ライフ・バランス(仕事と私生活のバランス)をとった人生の歩み方をしてきているわけですね。そうした状況下、派遣という仕組みはますます若者達に受け容れられ、さまざま場所や状況によってさらに拡がっていくことになると予想しています。

――かたや、卒業したら就職しなければいけないという根強い考えもあります。実際には働き方の形態は確かに変化してきていて、その変化の流れとパソナの歴史とはぴったり一致していますね。

【南部】私が大学を卒業した頃は、ほぼ100%卒業イコール就社でした。今、私の息子は米国の大学を卒業しましたが、そうした考えなど一切ありません(笑)。
働き方の変化については、いつも五年先、10年先を見つめてきましたが、変化の先頭に立っているのは常に若者達で、彼らはかなりシビアな考え方をしています。
「何で社長のために働かなければならないのか?」「何でブランドのために、働かなければならないのか?」という疑問を持つ人が多く出てきています。

――経営者のとらえ方と今の話とでは相当にギャップがありますね。

【南部】会社からすれば雇った以上、たくさん働いてもらいたいと思うのですが、雇われたほうはそうは考えないのですね。たとえば永年勤続表彰の意味もある退職金についても、入社してそう経っていないうちから「早くください」と請求されたりしている(笑)。

――実際にその要求に応じて制度化した会社も出てきています。

【南部】私はそのうちに、働く者と企業とは対等の立場になると思っています。あと20年もすれば、今の「雇用」という言葉と概念すらなくなっているのではないかと予想しています。

――そうした働き方の変化はいつ頃から出てきた傾向ですか。

【南部】92年のバブル崩壊後からですね。金融会社の倒産などによって、それまでの、大会社に入りさえすれば高収入が得られ、安定が約束されるというイメージが一挙に崩れ去りました。
 
そして2000年に入ってからのITバブルによって、今度は大会社に依存するのではなく、自分自身の働き方によって収入を得ているのだという考えが広まり、同時にグローバリゼーションによって変化はより顕著になったと思います。ここで確実に言えることは、絶対元には戻らないということですね。

――一方で、社員と派遣社員の格差について取り沙汰されていますが。

【南部】そうですね政府は二言目には正社員化を推進せよと言いますが、私が格差と感じるのはむしろ企業間にある正社員格差です。同じ正社員といっても、1000人以上の大会社で働ける人は極くわずかです。
 
例えば私が新卒だった頃は、日本の大企業は全体のわずか3%に過ぎず、あとの97%は中小零細企業でした。1000人以下の従業員数では仕事は同じでも、福利厚生施設の山の家、海の家などはない。健康管理室もない。社員を教育する制度もありませんでした。それが97%だったのですね。
 
女子の新卒の条件はさらに厳しいもので、10人の新卒に対して求人は1.6人しかありませんでした。そんなことを実際に見聞きしてきたので、人材派遣という仕組みを考え出し、社会に出られなかった女性をパソナで教育して、派遣社員として社会に送り出してきたわけです。

――近頃では派遣社員の正社員化という動きが大手の企業で実現されていますがそれについてはどう考えられますか。

【南部】大変にいいことだと思いますよ。とは言ってもパソナに登録している90%以上が女性です。年齢も高く、経験も豊富というスタッフですと、働くなら給料が高いほうがいい、そして残業がなく、転職などもないほうがいいというワーク・ライフ・バランスを考えた人が多いわけですね。
 
その背景にはたとえ正社員で採用されたとしても、お茶汲みばかりとか、戦力として扱われないとか、サービス残業は当たり前、しかも低賃金、なかには名前すらろくに呼んでもらえないという信じがたい男女格差、男尊女卑が現実には残っていて、こうした傾向は地方にいくほど顕著です。しかし、それでも仕事があるだけでもいいほうだ、なんていうひどい状況です。
 
盛んに正社員採用を叫んでいる政治家は、大都市の大企業に勤めるほんの数パーセントの人たちを働く人たちの代表のように現実をとらえているとしか思えません。


2008年6月 月刊『エマージング・カンパニー』誌の取材にて


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