第2回  いまベンチャーの発想と環境を グローバルな視点でとらえて挑戦するとき(後編)

澤田ホールディングス株式会社 代表取締役社長澤田秀雄 氏澤田ホールディングス株式会社 代表取締役社長
澤田秀雄 氏

聞き手 松室哲生(おもろい会社研究所主幹)

前回は、海外旅行を皮切りにホテル、航空機、証券会社などへと手を広げられた澤田氏の辣腕ぶりについて話をうかがった。後半は、そのような事業を支える人材の起用と育成について、また注目されるアジア、欧米市場への進出に関する戦略を語っていただいた

――06年1月のライブドア・ショックで新興市場の流れが一挙に変わりました。正に一難去ってまた一難でしたね。

【澤田】金融市場は一気に冷え込み、IPOもできなくなりました。そのために上場できたエイチ・エス証券も、昨年、一昨年と赤字が続いています。
 
ですが、私はIPOで儲かっていたとき、この好調はいつまでも続かないなと感じ、手を打っておこうと考えました。投資銀行の案件としてモンゴルAG銀行(現ハーン銀行)の株を買い、再生案件の九州産業交通、オリエント貿易(外為どっとコム)を買い、また損害保険業の免許をとったりして事業を広げてきました。
 
そうした対策を講じた結果、現在ハーン銀行はモンゴルに450店舗ある、一番の銀行になりました。外為どっとコムはFX業者として、口座数、預かり保証金とも国内1位です。九州産業交通も好調に売上げを伸ばし、またエイチ・エス損害保険は損害保険業の免許を取るのに2年半かかりましたが、ベンチャーでは日本初の元請保険会社として設立し、利益を上げています。こうした間に、金融業の体制も整ってきて、エイチ・エス証券も今年は状況が改善されていると思います。

――経営者なら誰でも会社の先行きを予想し、次の手を打ちたいと考えていますが、そう容易くはいきません。ご自身で「勘がいい」と思われますか。

【澤田】勘と運だと思いますね。運というのは「いいスタッフに恵まれた」ということでもあります。
 
たとえばハーン銀行では、米国人の優秀な頭取に恵まれました。私は金融の素人ですが、頭取はプロ。ゴルフでもアマチュアはプロに勝てるわけがない。そこで一流のプロを連れて来る。そして勝っていくわけです。

――金融界での一流のプロを見分ける具体的な方法は。

【澤田】まず戦歴と優勝経験にあたる経歴と実績を見ます。次に人間性を見ます。悪いことをするような人かどうか。また運がある人かどうかなども。そのために会って話をする。そこで分からないときは、2、3日いっしょに仕事をしてみます。それでも分からなければ、ひと月でもいっしょにやってみます。実際に、今のハーン銀行の頭取はすでに実績を上げていました。

――そうした人材を獲得できるのもご自身の魅力でしょう。

【澤田】それはないと思います(笑)。
やはり必要なのは夢と待遇でしょう。「モンゴル一の銀行にしようじゃないか」と語りました。待遇については最初は厳しめにした。そして、業績がアップしたら、それに見合う十分な待遇を与えるようにしたのです。「企業は人なり」です。
 あとは努力と粘りでしょう。企業にとって晴れの日ばかりは続きません。雨の日もあれば、嵐もあります。それを乗り越えるための継続力、精神力、資金力。

――ご自身では粘りがあるほうだと思われますか。

【澤田】粘りはあるでしょうね。
 
もう大変ですよ。損して、赤字で、叩かれて。でもそうこうして粘っているうちに形ができてくるのです。金融もやっと黒字になります。けれど、油断は禁物です。

――金融業は今後、どのように展開されていくつもりですか。

【澤田】金融はグローバル化していますから、世界的に通用するような金融グループにしていきたいと思っています。とくに今後はアジア中心に動いていく新しい時代が来ると思います。その一端がハーン銀行なわけです。

――アジアではどの国に注目されていますか。

【澤田】ベトナム、インドが面白いですね。観光市場を比較すると、日本の人口が1億2000万人で、年間1600~1700万人が海外旅行をしていますが、アジアのマーケットはその10倍はあります。現在のエイチ・アイ・エス単体の売上げが約3200億円ですから、最低でも3兆円あります。
 
今、アジアから日本に比較的裕福な層が観光に訪れていますが、数年後には、エイチ・アイ・エスが日本人の海外旅行を一般化させたように、アジア全域に展開したいと思います。そうすればアジア全域がハッピーになって喜ばれる。世界有数のグローバルな旅行会社にしていきたいですね。

――すでに手を打たれている。

【澤田】海外の拠点は70数カ所あります。タイには社員が130名ほどいまして、3~5年以内にタイでナンバー・ワンになると思います。
 ホテル事業についても、オーストラリア・ゴールドコーストでゼロから作り上げた経験、いかにすれば売上げが伸びるかというシステムの研究などのノウハウを蓄積しています。ホテルチームも組織しましたので、5~10年かけて全世界に100くらい作っていく時が来たと思っています。

――短期間のわりに大変な数ですね。他社のホテル開発とは、どこが違うのでしょうか。

【澤田】やはりゼロから作り上げた実績が大きいです。普通ですと、専門外のことはよそに頼むのですが、うちは何でも自社でやった。ですから大変で、問題も失敗も多かったけれども同時に学んだことも多くて、賢くなっていったわけです。
 
実際、当時のゴールドコーストには、日本企業のホテルがたくさんできていました。けれども、成功して残っているのは当社だけです。ただ、これからはゼロから建てるより、M&Aも駆使していくと思います。

――ヨーロッパや米国についてはどうでしょう。

【澤田】どちらにも数十店舗ほど拠点がありますが、アジアの市場のほうが伸びがあり、楽です。また、これからという新しさも魅力です。ヨーロッパ、米国はある程度できあがっていますから、これから入っていくにはよほど良いシステムでなければなりません。まず、アジアで実績を積んでからのことだと思います。
 
また、欧米を相手にしていくには、もっと人材を育てなければなりません。競争相手は、米国のコーネル大学、スイスのローザンヌの大学などでホテル業や観光に関する知識、教養を身につけ、さらに勉強して経験を積んだプロたちです。それがホテルや旅行会社のトップから従業員まで大勢いて、コミュニケーションから人材の層まで厚いわけです。そのような相手と競争するには10年がかりで人材を育てなければなりません。

――人材といえばこれからのベンチャー企業にも優秀な人材が必要です。しかし2年前ごろから環境が激変し、現在も厳しい状況に置かれています。

【澤田】確かに、世界的に見ても金融市場は収縮傾向にあるし、日本でも少子化が始まるなどベンチャーの世界に閉塞感を感じます。しかし、このような時期は、日本ではなく、海外に目を向けてみてはどうでしょうか。
 
ベンチャーにはチャレンジする夢と環境が必要です。そのベンチャーの発想や挑戦を日本だけで考えずに、グローバルな視点でとらえてみるのです。日本の金融に閉塞感があれば、アジアの金融に目を向けてみる。実際、うちのハーン銀行はモンゴルで大活躍しています。元来、日本には世界に誇れる素晴らしい文化、そして技術力があります。そうした財産を活かし、アジアでリーダーシップをとるようなベンチャーが誕生し、育っていくことを期待しています。


2008年5月 月刊『エマージング・カンパニー』誌の取材にて


トップページ -> あの社長が語る経営の極意 -> 第2回  いまベンチャーの発想と環境を グローバルな視点でとらえて挑戦するとき(後編)