第10回 「10分1000円」にこめられた時間価値の訴求がお客様のニーズに合致した。(前編)

キュービーネット株式会社 代表取締役社長岩井 一隆 氏キュービーネット株式会社 代表取締役社長
岩井 一隆 氏

聞き手 松室哲生(おもろい会社研究所主幹)

――大変な消費の低迷期ですが、昨年の10月から12月の3ヵ月で18店も出店していますね。昨年度の売上高はどれくらいだったのですか。

【岩井】前期(08年6月期)の売上高は連結で74億円、経常利益で5億5700万円でした。

――高成長を維持しているポイントはなんですか。

【岩井】成長のポイントを一言でいえば、お客さまが求めているものに特化したサービスを私たちが提供できたことで、お客さまのニーズに見事に合致したのだと思っています。

――具体的にいうとどういうことですか。

【岩井】つまり、お客さまがヘアカットにかける時間を10分間という短時間で済ませられるようにした。これが時間的価値。そして、お客さま自身ではできないヘアカットの部分だけを私たち技術者が行なうということで割り切ったのです。お客さまができることはご自身でやってもらうようにしたわけです。

――確かに「10分1000円」というキャッチフレーズはパンチ力があると同時に、上手い表現だなと感心しました。時間単価で見れば、1時間5000~6000円の理美容室と変わらないわけですが、そこに時間的価値観をつけたところがすごいですね。

【岩井】私たちは、「10分1000円」という、そのセールスポイントを掲げた看板と店舗を出すこと自体が広告と考えています。ですから、人通りが多く大勢のかたの目につきやすいところ、利便性の高い場所に出店するようにしています。
 
低料金という理由で利用してくださるお客さんも大勢いらっしゃいますが、きちんとした身だしなみが10分間で済ませられるという時間的価値を求められて来店されるかたも徐々に増えています。


銀行員の目から見ても画期的で面白いビジネスモデルだと直感した。

――創業時には、岩井さんは、まだ日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)にいて、キュービーネットを担当していたわけですね。外から見たキュービーネットはどう見えましたか。

【岩井】当時の理美容業界には合法的なカルテルがあって、どこの理容室に行っても同じ料金という状況でした。そうしたなかで、従来にない画期的なシステムで低料金のヘアカット専門店をつくるという話でしたから、銀行としても期待は大きかったです。

――どのような経緯で御社は事業を始められたのですか。

【岩井】事業を始めた経緯については、創業者の小西から聞いた話をお話しましょう。以前小西の通っていた理容室は、時間もかかるし料金もかかっていたそうです。予約が必要でしたが、予約時刻に遅れても、終わる時刻は、遅れずに行ったときと同じだったそうです。不思議に思った小西は、理容室で行なわれていることをよく観察してみたそうです。
 
いつも、時間も料金もかかることに不満をもっていた小西は、そこで「理容師がしているシャンプーや髭剃りは自分でもできるじゃないか。内風呂がなかった時代ならともかく、今なら家に帰ってできるから必要ない。ヘアーカットだけしてもらえば時間はかからないし、料金だってそれに特化させれば安く済むはずだ」と思いついて、そこから始めていったそうです。


お客はゆったり、理美容師はキャビンで何もかも作業する感覚。

――なるほど。そこで必要になってくるのが、カットを短時間で上げるためのパッケージづくりと理美容師の技術ですね。

【岩井】店舗設計はヨットのキャビンから発想を得ています。お客さまがゆったりとくつろげ、理美容師にとっては使用する道具が手の届く範囲に使いやすく配置され、すべて効率よく作業できるようにと考え出されたものです。
 
理美容師については、もともときちんとした技術を身につけた国家資格者ですから土台をもっています。それをベースにして、10分間でヘアカットを仕上げるためのノウハウ、クシの入れ方、切る回数などの技術を専任のトレーナーが指導しています。

――このシステムは創業時から同じなのですか。

【岩井】そうです。事業の準備段階のときに、時間も予算も十分にかけて計画を練っています。その後、店舗と本部を結ぶシステムなどはバージョンアップされていますが、店舗に関する根本的な仕組みについては、創業当時に考えられたものとまったく同じです。

――入念な準備を済ませてからスタートダッシュしたからこそ、今日まで成長を続けてこれたわけですね。

【岩井】いや、最初は必ずしもそううまくはいかなかったようです(笑)。初日はよかったんですよ。事業の企画段階からマスコミにアナウンスしていたので反響も大きくてね。開店は96年11月1日でしたが、前の晩は、小西は興奮して眠れなかったそうです。そうして、店をオープンすると開店と同時に100人もの行列ができた。小西は「金鉱脈を掘り当てた!」と思ったそうですよ。

――なかなかいいスタートダッシュだったわけですよね。

【岩井】ところが、2、3日するとパタッと客足が途絶えてしまった。なぜかと調べてみると、行列したお客さんのほとんどが同じ業界のかたたちだったというわけです。開店から半年ぐらいはかなりきつかったようで、毎日「明日はもう止めよう」と思っていたそうです。

――すると、投資した側の岩井さんも心配だったでしょう。事業が成功するという何か確信のようなものはあったのですか。

【岩井】確信といわれると、ちょっときびしいかもしれません。ただ、多くの投資先のなかからみても、前例のないビジネスモデルでしたし、私自身は「これは面白い!」と感じていましたからね。実際の投資は、10店舗くらいになった頃に実行していますけれどもね。

――では何が成功の要因になったのですか。

【岩井】創業当初のむずかしい局面を乗り越えられたのは、結果的には口コミのすごさです。一度利用していただいたお客さまに「10分間できちんとしたヘアカットができるんだ。これで十分だ」と満足していただけたことが、より多くのユーザーに結びついていきました。今でも口コミの力が大きいですね。

2009年3月 月刊『エマージング・カンパニー』誌の取材にて


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