【番外編・2】「そんなに儲かるなら投資をする」というほどベンチャーは甘くない

指標は改善を見せても実情はまだまだの景気
 
2月の商業販売統計速報が先頃発表された。前年同月比で4.2%の増加で、2ヵ月連続の増加となっている。「ほぉ、物が売れ始めているのか」と思いたくもなるだろうが、昨年の最悪期よりは幾分ましになった程度で(昨年の2月は前年同月比21.5%の減少だった)相変わらず物が売れていない状況は続いている。

景気の実感とは裏腹に、指標を見ていると状況の改善を示す指標がちょこちょこと目立ってきている。だが、こと投資マインドで考えた場合、実態はまだまだである。
 
例えば、IT投資でいうと、各種シンクタンクの調査では相変わらず企業のIT投資意欲は減衰したままだ。このような状況を打開する一つの突破口は大きなブレークスルーを伴った新技術の開発である。
 
4月3日に発売される米アップル社の「iPad」などはそのいい例だろう。この製品は多くのメディアで既に取りざたされているので今さら書く必要もないが、昨年までブームになっていたネットブックというPCと大きさや機能は似ているようにも見えるが、大きく異なる。この「iPad」はPCの延長線上の技術ではなく、全世界の小型音楽プレーヤーの元になった「iPod」や携帯電話の「iPhone」の延長線上にある技術である。その違いに技術や発想のブレークスルーが見えるのだ。
 
それにしても、こうした状況から「技術大国日本」が大きく取り残されている。ソニーが「Walkman」で一世を風靡したのは1980年代初頭で、それから既に30年が過ぎている。


アメリカでは技術のブレークスルーは大学から生まれる
 
私はその原因の一つとして大学の弱体化があると考える。
「教授が自分の会社を持ってないと肩身が狭い」と言い切ったのは、元松下電器産業(現パナソニック)副社長でスタンフォード大学教授を務めた水野博之氏である。今から14年前の話だ。
いささか旧聞に属するこの話をなぜ引っ張ってきたかといえば、日本の現状はそのときと変わってないばかりか、現在の不況もあってさらに悪くなる恐れがあると思うからだ
私はその責任の一端は大学などの教育機関と産業とがきっちり手を取り合って融合していないところにあるからだと考えている。
14年前当時、アメリカはベンチャーが真っ盛りで、日本にも漸くその波が押し寄せようとしている時期だった。スタンフォード大学はその中心的存在で、まさに多くの人材を輩出していた。
例えば、ヤフー創業者のジェリー・ヤングとデイビッド・ファイロがヤフーを創業したのは工学部電機工学科の博士課程に在籍しているときで、その研究の合間に「Yahoo!」を作り上げてしまったというのは有名な話である。
最近ではグーグル創業者のセルゲイ・プリンとラリー・ペイジの二人がいて、やはり大学院生のときにグーグルを創設した。
面白いことにこれほど有名な大学となった同校だが、1940年代頃までは無名の存在だったらしい。当時は圧倒的に東部のハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)などが強く、厳然たる知の基盤を持っていた。
これに対して大学は何をしたか。産学連携ともいうべきスタンフォード・リサーチ・パークを独自に作り、ここに研究開発型企業を集めたのだ。そこから同校の発展が始まった。


ガレージ起業をやる度量とチャレンジ精神があるか
また60年代には、当時のターマン学長が学生だったビル・ヒューレットとデーブ・パッカードの二人を呼び、事業を起こすことを勧めただけでなく、自らのガレージを仕事場にとあてがったそうだ。
これがヒューレット・パッカードのスタートであり、「ガレージ起業」の言葉の起こりともなっている。
考えてみるとこの10年、似たような動きが日本でもあった。
98年には、大学で生まれた技術が民間に移転されるべく、TLO(技術移転機関:Technology Licensing Organization)法が施行され、東京大学の先端科学技術イノベーションセンターや京都大学など関西の大学で作った関西TLOなど、17件ものTLOが設立された。実際に大学発ベンチャーとして会社がつくられもした。
しかし、それが機能したか。答えはNOである。
では何が違うのだろう、とは考えない方がいいのかもしれない。それ位あまりにすべてが違いすぎているからだ。
恐らくチャレンジ精神というものが日本とかの国では違うのだ。
冒頭で紹介した水野さんも、最近の『週刊東洋経済』でこんな意見を披瀝している。曰く。
「大切なことは既成の概念にチャレンジできるか、そして社会がそれを許容するかどうか」
 
その通りなのだろう。
しかし、それにしてもと思うこんな例もある。
グーグルが上場した際にスタンフォード大学が得た株式売買益は3億3600万ドルにも及んだ。
そんなに儲かるなら、俺だってやる――というわけにもいくまい。

(2010・4・1)


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