【第9回】「移動」情報で多くの客を引き寄せる小さな会社「ジョルダン」の大きな戦略

ジョルダン株式会社

パソコンで浸透させ、携帯で刈り取る
 
1つのことを極めるということは、大切な経営の要素である。近年になって、アメリカのコンサルティング会社が「集中と選択」という言葉で事業の再構築になくてはならない要素として用いるようになったが、本来これは日本企業にこそふさわしい言葉だったし、現に強みを発揮している企業の多くは、この「集中」が出来ている会社である。

集中とは事業分野の絞り込みであり、人材やカネなど資源の集中でもあるが、もう一つ必要なのは、時間に対する考え方だ。どれだけ時間をかけられるか、そしてどれだけそれを続けられるか。
 
こうした意味で「集中」を体現している会社が、ジョルダン(株)だろう。
 
同社の集中分野は「移動に関する情報」である。同社がこのキーワードで始めた事業はパソコンや携帯での「乗換案内」情報の提供だ。目的地の駅名を入れ、到着予定時間を入れるとたちどころに何時に出ればいいか、どの路線で行けばいいかが分かる。便利である。パソコンで、携帯で、今や欠かせぬアイテムだ。同社は、この分野のエキスパートであり、2003年には大証ヘラクレス市場に上場し、この数年は10~30%成長を続けている。
 
しかし、乗換案内の情報サービスというが一体どんな収益構造になっているのか。
 
パソコンを買うと、富士通でもシャープでもNECでも、いろいろな無料ソフトが入っている。ゲームあり、画像編集ソフトあり、お役立ちツールあり。その一つに「乗換案内」がある。目的地まで何時に出てどうやっていくかを検索できる大変便利なソフトである。富士通、シャープ、NECの3社計でパソコンは年間250万台の出荷があるから、言い換えるとこの「乗換案内」は250万人の目に触れ、使ってもらえる可能性があるということだ。これは凄い。
「メーカーからもらう額は僅かですが、これによって親しんでもらえることが大きい」とジョルダン(株)社長の佐藤俊和は言う。
 
実際、無料ソフトといっても電車のダイヤは年に何回か改正があるし、古いままだと機能しない。したがって新バージョンに乗り換える人が出てくる。そこで今度は有料化するわけだ。
 
また、このビジネスは拡がりがあるのも特徴だ。
「PC版の契約数は大体3万人程度で、3分の1が入れ替わる(佐藤)」そうだから、PC版のビジネスでは顧客数はそれほど多い数ではない。しかし、このソフトに経費精算などのシステムを組み込んだ形で法人に納入したり、近年では携帯版の「乗換案内NEXT」が急速な伸びを示しており、こちらで売上げも利益も稼ぐという構造になっているのだ。


15年前から「乗換案内」の情報を提供
 
ジョルダンの前期(2007年9月期)の業績は売上高28億7500万円、経常利益6億5000万円。前年比では売上高で111.8%、経常利益で112.6%と10%以上の成長しているのが分かる。ここ数年でも前年対比125~130%とすこぶる好調で、この成長を支えているのが携帯版「乗換案内NEXT」といってもいい。
 
実際、携帯版の有料会員数は約50万人で売上高は約11億円(いずれも2007年9月末現在)にも上っている。全売上高の3分の1強を占めている。ひとくちに50万人といっても、そんな簡単にそれだけの会員が集まるわけはない。実は、同社がJフォン(現ソフトバンク)でこの「乗換案内」のサービスを開始したのは99年。翌年にはI-modeでサービスを始めており、携帯でのインターネットサービスの初期段階からこうしたサービスの強化に取り組んでいたのだ。
「携帯でも無料版がありますが、有料だと事故情報、電車の乗換位置、発着番線や駅周辺の地図なども付いています(佐藤)」と至れり尽くせりで、まさに今の日本人のライフスタイルに合っている。これが会員数急伸の要因だろう。
 
さらに言えば、この移動情報一筋に15年もの積み重ねをしているという実績が大きい。
 
社長の佐藤が仲間と同社を設立したのは1979年。
「大学を出て、1年ブラッとした後、大学院に行き予備校の先生をやり、それでもやっぱりコンピューターが面白い(佐藤)」と、ある別のソフト会社設立に参加した。「優秀な人材が集まっていたが、ソフトは売れなかった(佐藤)」
 
それで、その会社の仲間5人と新たに作ったのがジョルダンだった。
「とにかく開発一筋の会社」と佐藤が言うように、ゲーム、教育ソフト、オフィス用のソフトとあらゆるものを開発してきたが、10年ほど経って、「自社ブランドがないのが寂しい(佐藤)」ということになり、そこで「乗換案内」を開発するに至った。93年5月のことである。
 
先行している会社もあったが、自分たちよりレベルが低いので入り込む余地があると、この分野への進出を決めた。当時、最短経路を求めるソフトの開発をしていたことも、この分野に進出する決め手となった。
 
94年にはウィンドウズ版で商品化を始めた。まだウィンドウズ3.1の時のことだ。
「動物的勘で、ウィンドウズは化けると思った(佐藤)」からだ。最初は東京版を作り、1年以内に一気に全国版にもっていった。こうした果敢な戦略が功を奏した。冒頭に書いたように、時間のかけ方が他社と違う。佐藤の勘もさることながら、まさに集中と選択経営の賜物である。


移動情報を中心としたワンストップショップを展開する
 
しかし、当たり前の話だが、乗換案内という一つの商品だけでは、同社の成長もいずれ限界が出てくるのは明らかだ。ニッチの市場は深堀りは出来ても、拡がりを求めることが難しいからだ。
 
この点について、社長の佐藤は「われわれは『移動を極める』がテーマ」と答えている。
 
つまり、乗換案内があれば駅そのものの情報も必要になる。駅というキーワードで言えば、旅行の販売もある。駅から出ると、駅周辺の情報、あるいは道路の地図も必要になる。これらは全部移動というテーマでくくれるわけだし、これらをまとめて便利に使いやすくパッケージ化していくというわけだ。
 
移動というのは、人の生活そのものであり、生活者の視点で見れば、事業の拡がりは当然のごとく出てくるということだろうか。言うなれば、この佐藤の考え方は、移動に関するワンストップショップを作るということであり、実際に開発も進んでいる。
「例えば、地図でいえば(競合は)他にもありますが、そのどれよりもサクサク動く(佐藤)」のだそうだ。こうして、同社は着々と「移動」のプロとして商品開発を進めているのである。
 
また、これ以外にも現在開発中のプロジェクトは多いそうだが、同社では個々のプロジェクトをを一つの企業に見立てて進めているのだそうだ。
 
佐藤はそのことについてこんな風に表現した。
「これを頑張らなきゃ、食べていけないという零細企業を会社の中にいっぱい作る」
 
どうでもいい開発ではないよ、という社長自身の明確なメッセージだ。
 
こうした会社の方向性はどこから生まれたのか。そのヒントになるのが失敗の数である。
開発志向の会社には、多くの失敗がある。現にそのことを社長の佐藤に問うと、こんな答えが返ってきた。
「10や20じゃないですね」佐藤は笑顔で答え、「上場する前でも、モンタージュソフト、囲碁ソフト、3Dエディター。英語教材ソフトなどを作って上手くいかなかった。でも、これらは形になったものであって、形にならないものはもっといっぱいある」と続けた。
 
それにしても、ジョルダンという会社は堅実な会社である。開発投資を続け、業績も毎年成長を続けているが「会社を大きくするためにM&Aなどの荒っぽいことはあまりしない」という佐藤の言葉にその堅実さがあらわれている。
 
決して大きな企業を目指しているのではない。しかし大きな成長を目指している企業には違いない。

(2008・2・6)


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