【第7回】無名だが世界のアーティスト御用達の世界的音響企業の「次は映像」

ヒビノ株式会社

年間に2600回ものコンサートをサポート
 
日本が誇る世界的企業の代表格とも言える、ホンダとソニー。この2社はどちらも第二次世界大戦後に出来た、比較的新しい企業である。この二社が設立された頃の日本は、どちらかといえば、安かろう悪かろう的な商品を多くの企業が作っていた。いい素材も手に入らないし、また、安価でないとものが売れなかったのである。だが、ソニーやホンダはそういう中で、自らのもの作りを大切にして、「日本製」の名を世界に拡げていった。

ヒビノもそんな企業の一つである。
 
多くの人はヒビノ(株)の名前を聞いてもピンとこない。しかし名だたるミュージシャンの間では、同社はつとに有名である。
 
例えば日本中で連日繰り広げられるミュージシャンたちのコンサート。その多くの音響プロデュースをしているのは同社だし、最近のイベントには欠かせない映像のプロデュースも同社が業界でトップの実績を持っている。
 
業界トップの規模とは、どれくらいなのか。社長の日比野晃久はこう表現した。
「現在、コンサートの音響で26チーム、イベントの映像関係で20チームが稼働している」
単純に言えば、同時に40箇所以上のイベントやコンサートに機材とチームを派遣できる計算になるし、実際、同社は年間2600回の公演をサポートしているのだという。
アーチストからの信頼も獲得しており、120人を超えるアーチストが専属としてヒビノを指名しているという。
 
同社は2006年2月、JASDAQ市場に上場しているが、業績も安定的に成長を続けており、2007年3月期の売上高は154億円、経常利益7億7900万円となっている。


テレビメーカーを目指した会社だから発揮できた技術
 
何が、同社の信頼をここまで高めたのか。一言で言うと、同社が提供するサービスの質に尽きる。コンサートでは音が最大の決め手であり、機材と音響をオペレートする両方のエンジニアが揃って初めていい音が出る。
「その双方を提供できるのはウチだけ」と日比野は言うが、実はこの言葉に、「信頼」の秘密がある。
 
同社の設立は1964年に遡る。現社長の先代(父親:現会長)が当時始めたのはジュークボックスのレンタル事業だった。ジャズ喫茶が主な営業対象。同時に、外国製のプロ用音響機器の販売を行なっていった。
 
こうした一流の機器を扱っていたことから、「当時のアーチストが音響機器を貸してほしい。オペレーターもやってほしいと要望が出て、71年にコンサートの音響事業に参入することになった(日比野)」
 
名だたるミュージシャンが次々に自分のコンサートにヒビノの音響機器とオペレーションを利用し始めた。海外の有名アーチストが来日した時にも、利用されるようになった。
「一流のアーチストたちは音にことさら敏感で、だから現場で鍛えられた(日比野)」
 
もちろん現場で鍛えられるといっても、それに対応するだけの技術がなければ駄目だ。そんな技術をどこに持っていたのか。その謎を解く一つの写真が、同社の本社一階ショールームに飾られている。それは一台のテレビの写真である。これは先代社長(現社長の父)が1959年に製作したもので、当時、ヒビノはテレビメーカーを目指していた。だが、並み居る大手企業の進出により断念し、現在の事業を確立していったわけで、そういう技術が根底にあったからこそ、アーチストたちの厳しい要望にも応えられていったのである。
 
一方、80年代に入り日本国内で大型のイベントが増加してきたことから、同社は84年に映像事業に参入した。きっかけは筑波博だった。現在では、映像事業が売上構成比では音響事業を上回り、この二つの主力事業で同社は成長をしてきたわけだ。


第3の柱の映像機器事業では既に大きな実績
 
ただし、音響技術や映像技術に長けているといっても、コンサートやイベント事業だけでは、将来を見据えると成長性という点で、いささか疑問を感じるのも事実。日本でのイベントやコンサート事業は確かに近年急激に成長してきた市場だが、この成長には限界があるからだ。実際、市場は成熟しつつある。
そこで同社が目をつけたのが、高精彩LEDによる映像事業である。
 
実はこんな話がある。一昨年の秋、米ニューヨークのエンタテインメントの殿堂「ラジオシティミュージックホール」に縦12m×横25mの巨大なLEDのスクリーンが設置された。スクリーンの精密さはフルハイビジョンテレビの倍。総工費は10億円だった。これを設置したのがヒビノだったのだ。
 
この数年でLEDは最も普及した技術の一つ。街のイルミネーションも信号機もこのLEDが取って代わりつつある。発色性がよく消費電力は僅かだから当然なのだが、同社はLEDのトップ企業である日亜化学工業から供給を受け、NHK技術研究所をスピンアウトした人材の会社を100%傘下に収めることによって技術開発も自社で行なっている。つまりメーカーとしてこのLEDスクリーン開発を行なっているということなのだ。
「この分野は大手メーカーが余り力を入れておらず、技術力での勝負が可能な分野(日比野)」であることも重要なポイントだ。現在の技術水準は家庭用のフルスペックハイビジョンテレビの4倍の高精彩さを誇るほどだ。
「開発コストはかかりますが、ウチの場合開発したLEDスクリーンをレンタル部門で回収していけるので、リスクは低い」と日比野は言う。しかも、「ようやく開発も第三世代のものになり、本当に儲けるのはこれから(日比野)」で、この事業で早期に売上高50億円増を見込んでいる。
 
これにより、同社はコンサートの音響、イベントでの映像等のプロデュース事業に加えて、第三の柱を持ったことになる。これこそが同社の新分野での成長戦略事業である。


技術者が半数以上、残りの人間は技術大好き人間
 
もう一つヒビノの今後に期待を抱かせるのが、海外での展開である。国内事業を中心として営業活動を行なってきた同社が、今後は海外に目を向けたグローバル展開を行なっていくことで、国内市場の飽和感に関係なく勝負が出来る。しかも前述のLED映像技術との組合せでこの展開が広がるのが強みだろう。ニューヨークのラジオシティに納入したLEDスクリーンはまさにその先駆けであり「今後はヨーロッパを中心にまずは展開していき、拠点も設ける(日比野)」ことになるという。
 
既に有力な自動車メーカーにも納入実績があり、これが順調に進めば、「世界中のモーターショーやコンサートを取り込んでいける(日比野)」ことになる。それはとりもなおさず、より付加価値が高く面白いビジネスが可能になるということだ。
 
先代社長が1959年に作ったテレビは、その技術を同社のDNAとして受け継いでいった。この技術力があったからこそ、音響や映像のプロデュース事業でも厚い信頼を得て、トップ企業になったのだし、その同社が、LED事業でメーカーになるのも頷ける。
 日比野社長に技術者の数を聞いたら「半数以上」と即座に答えが返ってきた。しかも、「残りの社員はこういうことが好きで好きで堪らない連中」とのことだ。こういう会社は強いに決まっている

(2008・1・22)


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