【第57話】マーケティングのプロが説く「売れない商品」を有名にする方法

前ウブロジャパン社長 高倉 豊氏

無い無い尽くしのなかで1個200万円もする無名の腕時計を大ヒットさせた

昨年末までウブロジャパンの社長だった高倉豊さんにお会いした。高倉さんは化粧品や時計などいわゆるブランド物の日本法人の代表を数多く務めた人だが、日本で無名だったブランドを大変に有名にしたことで名を上げた人である。

例えば、前職のウブロである。

日本では無名だった高級腕時計のブランドだが世界的には有名で、南アフリカで行なわれたサッカーのワールドカップでも、タイム表示のボードには「HUBLOT」の名が出ていた。2010年と2014年のワールドカップの公式タイムキーパーでもある。日本でもこの数年有名になったが、それは高倉さんの功績と言っていいだろう。

当時、ウブロジャパンは日本での低迷に喘いでいた。スイスの本社では日本法人は閉めてどこかと代理店契約を結ぶことを模索していた。要するに撤退である。そこへやってきたのが高倉さんだ。

売れてない商品だから広告やキャンペーンなどの予算はほとんどないに等しい。人員だって限られている。外資系の社長というと格好良さそうだが、売れてなければ悲惨で、今をときめくコンサルタントの神田昌典さんも、昔某アメリカ家電メーカーの日本代表を務めていた頃の悲哀をどこかに書いていたことがある。

何をやろうにも先立つ物がない。いわば無い無い尽くしのなかで、1個200万円もする高級腕時計をヒットさせたのである。
 どうやって成功させたのか。


編集長を口説き落とした殺し文句

高倉さんは数多の出版社を回り、なかでも男性向けファッション誌の編集長を訪ねて回ったのである。そしてこう口説いた。
「この時計は今は売れていない。しかし、毎号2ページこの時計を売り出してほしい。成功したらその時はきっと報いるから」

こんな口説きに乗る編集長も少なかろうと思うのだが、でも存在したのである。ある男性ファッション誌が、快諾したのだという。これが起爆剤になって一躍ウブロは有名になっていった。

すると、その雑誌も「あのウブロを最初に紹介した雑誌」「あそこは無名のブランドを発掘する雑誌」という評判が起こり、「あの雑誌にはきちんと広告を出しておかなければならない」というムーブメントになり。雑誌そのものも大きく成長したのである。「十分に借りは返せたと思う」と高倉さんは語っている。

実はこの話には伏線がある。その前に高倉さんはシスレーという日本では無名のフランス製高級化粧品をヒットさせることに成功していた。この時は同じ手法を女性誌で行なっていたのである。当時その女性誌は有名な化粧品の広告が入らずに苦労をしていた。そこで利害が一致して無名だがフランスでは有名な高級化粧品シスレーを記事でバックアップし、そしてシスレーを日本で有名にしたのである。

その結果、その女性誌にもSK-II などの化粧品広告が入るようになったのである。


口紅のキャップに名前を彫ったのが最初の成功

人と人との関係はギブ・アンド・テイクである。会社同士の関係もそうだ。この関係が成り立つならばお互いに成功するための道は開ける。しかしどちらかが渡すものと得る物の価値が等価値ではないと判断した場合は成り立ちにくい。ウブロやシスレーでは、多くの場合、無名であるがゆえに等価値ではないと見なされた。だが、高倉さんはギブする物の将来価値をプレゼンテーションして成功に導いたのである。

そもそも高倉さんが博報堂を辞め、パルファム・ジバンシィの日本法人の社長に就いた時も同じような状況だったそうだ。

カネもない。人もいない。当時高倉さんが考えたのは、ギフトとして口紅を売るということだったそうだ。当時のギフト市場は2兆円。そこで口紅のキャップに名前を彫ってギフトにすることを思いついたのである。これがホワイトデーのギフトとして爆発的に売れた。

アイディアといえばそれまでだが、何もないところ、条件の悪いところで成功させてこそ、経営者ではないか。


日本の村や街の商品を世界ブランドにしていく

高倉さんはその成功の条件を6か条にまとめている。これがなかなか興味深い。

1. 過去に実行されていないことをやる
2. 競合他社がしていないことをやる
3. お金のかからないことをやる
4. ブランドイメージを損なわない
5. 成果を上げるまでに長い時間がかかることをしない
6. 派手に見えることをする
 

例えば、4.のブランドイメージを損なわない などは気をつけなければいけない点だろう。どんなに面白いアイディアでもブランドを傷つけては元も子もないと高倉さんは言っている。

倉さんは今後どういう活動をしていくのか。
「日本の村や街の商品を世界ブランドにすることが面白いと思っている」と答えた。単に、日本のなかで有名ブランドにするのではない。世界ブランドにするという、そこにこの人の気概と創造性があふれていることがよく分かる。

(2011・7・1)


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