【第54回・後編】事業仕分けにも使われる会議室運営会社の売りは多様なソフト

株式会社ティーケーピー

決まったスケジュールで1年間を埋めていく
 
幸いにして、ティーケーピー社長の河野が六本木で託されたような、いわゆる訳ありビルは東京のいたるところにあった。訳ありビルだけではない。どれもが普通の相場の半額以下で借りることができた。それを時間貸しの会議室にしていったのだ。

ここまでの話なら普通の話である。比較的誰でもが容易に取り組むことができるだろう。実は河野が違うのはここからであり、それこそが同社が急成長した理由なのである。
 
まず、訳あり以外の建物で無駄なスペースはないかと考えた。例えば結婚式場なら、平日は比較的空いている。つまりおカネを生み出さないスペースになっているのだ。そこで運営受託方式で、そういうスペースも借りていった。無駄なスペースを埋めてあげれば、先方にもおカネが落ちるから喜ばれた。
 
次に考えたのが、顧客の確保である。同社の貸し会議室は都市部に多い。都市部にある一定規模以上の企業なら研修が行なわれている。これに目を付けた。実際、その規模の企業では新卒の研修から始まり、中間管理職の研修、幹部の研修とそのスケジュールは年間の予定になっている。これを片っ端から営業して歩いた。一般の貸し会場よりも安く、年間で押さえられる便利さは、好意を持って迎えられた。続々と年間でスペースが埋まっていき、それだけで損益分岐点を超えたのだ。
 
これでリスクがなくなった。後は、それ以外の空いているスペースを売って(貸して)いくだけ利益が出る仕組みとなる。貸し会議室のサイトを構築し、ネットで売っていけばそれほど販促費をかけずともビジネスになる。こうして売上げはさらに伸長していったのだ。


会議室ビジネスはハード(部屋)ではなくソフトが決め手
 
しかし、同社のビジネスはそれだけにとどまらない。例えば同社の会議室を借りる場合、飲食を持ち込むことはできない。ホテルなどが飲食付きでないと貸してもらえないことから見れば、それだけでも客のメリットは十分にあるのだが、同社は必要に応じてケータリングサービスを入れたり、いろいろな機器をレンタルで供与している。
「お客さんが必要とするものはこちらが用意する。その方がお客さんが後で片づけをしなくてもすむし、それだけ会議に集中できるでしょう。それが付加価値だと思うんです」
と、河野はいう。お客にとって面倒なことを省いてあげ、結果としてそれが利益にも結びつく、そんなビジネスを河野は志向している。
 
その最たるものが、研修のコンサルティングだろう。企業が研修に会議室を使う場合、多くは研修会社を使う。当然、同社は研修の実態を目の当たりにすることになる。そこで河野は気がついた。
「必ずしも研修の目的に対して、人材コンサルティングなどの研修会社がそのニーズを満たしているとは限らない(河野)」ことに。
 
そこで同社は研修会社別に、どのような研修の場合はどこを使うのがいいかといったメニューを用意した。そして、特に研修会社を決めていないような企業の場合にはその選定や、講師の派遣までやるようになったのだ。
 
こうして、貸し会議室のビジネスはソフトという付加価値をたくさんつけたビジネスへと膨らんでいったのである。


リーマンショック後の危機に迅速に対応
 
こうして書くと、同社が創業以来順風満帆に成長してきたように見えるかもしれない。だが、危険が迫っても素早く柔軟な対応を行なっているからこそ、その成長を持続させ得ているのだということを知る人は少ない。
 
例えば、怪しい会社と間違えられないように信用力を強化しようと、大手企業に株主になってくれと口説いて回ったのはその一つ。
 
また、こんな手も打った。
 
創業当初は会議室の仕入れも順調にいっていたが、徐々に不動産市況の上昇もあり2年ほど前には訳ありといっても比較的高値購入を余儀なくされていた。そこを襲ったのが08年9月のリーマンショックである。たちまち不動産市況は下落した。
その時の河野の対応が素早かった。自分たちが抱えている会議室の価格が相対的に高くなったと踏んだ河野は、スクラップ・アンド・ビルドを決断。すぐさま高値で借りているところを返し、新たなスペースを借りていったのだ。
 
不動産は最悪でも6カ月で解約できる。多少損が出ても、高コストのままの構造で放置していたらとんでもないことになるから「こういうときのために常に現金を用意していた(河野)」という周到さだった。この決断が遅かったらどうだったか。割高の物件を持ったまま、現在のような不況に突入していたら、河野が思い描いたような成長が期待できたかどうか。やはり経営者にとっては決断が命である。
現在同社の売上高は27億円、営業利益は2億円である(いずれも08年度実績)。初年度売上高2億円で始まった同社がわずか5年で急成長したことを数字ははっきりと示している。


ソフト分野の充実が新たな成長を生む
最近、河野は頻繁に渡米するという。行く先はニューヨーク。高級ホテルの宴会場を同じような形で使えないか模索しているのである。
「向こうは宴会場の利用料はめちゃくちゃ高い。夜には20代のビジネスマンはせっせと自己投資する。それなら、同じようなビジネスが可能ではないか」と河野はいうのだ。日本ではホテルの宴会場をティーケーピーの会議室に転用しているケースが増えている。前回書いた幕張のアパホテルはそのいい例だが、その輪を全国の主要都市に広げていきたいと考えているそうだ。
「ホテルにはハードとホスピタリティーはあるが、ソフトがない」という河野の言葉がその意欲を示している。
 
確かにソフトまでできるのは同社だけかもしれない。実際、前述した研修のコンサルティングや講師の派遣、機器のレンタル、ケータリングに加えて最近はテレビ会議システムを導入した。
 
さらには会議室スペースを借りているビル全体の管理業務を請け負えるように、保守管理会社を立ち上げたり、不動産の仲介自体にも乗り出している。
「当面の目標は100億円の売上げ」と河野はいうが、もっとずっと先を見ているのは間違いない。

(2010・5・11)


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