【第54回・前編】貸し会議室で急成長、伊藤忠元社員のベンチャー魂と目のつけどころ

株式会社ティーケーピー

貸し会議室って儲かるの?

貸し会議室というビジネスがある。そんなものビジネスになるのか? と思う人は多いだろう。何せ時間貸しだ。いつ埋まるとも分からないスペースを開けておくなら、賃貸で貸した方が効率がいいと思うし、別の使い方もあるのではないか、とも。そもそもそんなニーズは世の中にあるのか?

それがあるのだ。しかも頻繁に。

特に大手企業は人事部があらゆる階層の社員に対して研修プログラムを用意している。研修は社内で行なわれることもあるが、外部で行なわれることも多い。大きな会議室といっても、社内では無数の会議ニーズが存在するのでなかなか調整が難しい。したがってある程度まとまった人数の研修を行なうスペースが定期的に必要になる。その最たるものは新入社員研修だ。以前の大手企業なら、箱根や軽井沢の自社研修施設を使うなどということもあっただろうが、現在はもちろんその手の施設は売却してしまった。
 
ホテルなどの施設はそのニーズを満たすが、残念ながら値段が高い。また、食事をセットにしなければ貸してもらえないという場合も多い。どこかに割安で便利に使える研修施設はないのか? ということになるのである。
 
逆に供給サイドに立ってみると、貸し会議室を十分に用意しておけば、事前営業をきっちりやることで、あらかじめ年間スペースを埋める(売上を確定する)ことができる。
 
このニーズに応えたのが株式会社ティーケーピーである。


ホテルの会議室と比べ断然安い価格設定

ネットで「貸し会議室」を検索するとトップに出てくる同社のホームページを開くと、その会議室の多さにちょっとびっくりさせられる。大手町、日本橋、代々木、新宿、八重洲、丸の内、銀座、原宿、品川、三田と枚挙にいとまがない。東京都内だけではない、横浜も幕張も、大阪、名古屋、福岡と主要都市にはことごとく設置しているのだ。
 
しかも同社の運営する会議室は、ホテルなどの宴会場を借りるよりも相当に安い。例えば、幕張のTKP東京ベイ幕張のカンファレンスルームを30人の研修で利用するという場合、1時間1万5750円×3時間=4万7250円だが、同じ幕張でニューオータニ幕張の「ちょこっと会議プラン(3時間:軽食付き)」を利用すると、1人5000円×30人=15万円もかかる。軽食代を差し引いてもどちらが安いか一目瞭然だ。
 
いや、ホテルの雰囲気の方がいいという人もいるかもしれない。ところが、同社の会議室は元幕張プリンスホテルの宴会場を会議室に転用したもので、設備などはきちっとしているのだ。幕張プリンスをアパホテルが買い取り「アパホテル&リゾート<東京ベイ幕張>」となったのは知られているが、アパホテルでは客室だけで採算性を考えており、宴会場は特にニーズがなかった。そこにTKPが話を聞きつけ、宴会場部分を借り受けて、会議室として利用するようになったのである。
 
同社の価格の秘密は、実はこうしたスキームにあるといっていい。


非効率性が存在する分野にビジネスの旨味がある

ティーケーピー社長の河野貴輝が同社を創業したのは05年の8月。そのきっかけが面白いのだが、それはおいおい話そう。
 
河野はそもそも伊藤忠出身である。96年に入社し、証券部門でバリバリの営業マンとして活躍していた。ところが、世はインターネットが急速に普及を見せ、当時の丹羽社長の号令の下、情報と金融を融合させた新プロジェクトの立ち上げを行なうこと事になった。こうしてできたのがカブ・ドットコム証券である。
 
ここで河野は初めてベンチャーの洗礼を受ける。
「土日も家に帰らないで仕事をやっている人たちの姿を見て、『あぁ、これがベンチャーなんだ』と感慨を覚えました」と当時を河野は振り返る。その強烈な印象が、やがては独立へと河野を導いていく。当時の上司が証券の次は銀行だと、ネットバンクを立ち上げるべく動き、一緒に誘われた河野は、ここで伊藤忠を去り独立する事になる。2000年の事だ。
「この独立はホップ・ステップ・ジャンプのステップのつもりだった」と河野は考えていたが、インターネットビジネスはそれほど甘くなかった。
「インターネットオンリーだとゲームとか音楽しかない。しかし、そっちはいわば専門家の世界で自分には経験がない(河野)」
 
だから、いろいろなこと事を考えた。河野の念頭にあったのは非効率の存在するマーケットで「差(利益)」を取るビジネス。「価格が高く設定されていても実際は安い」とか、「価格が低くても実は価値がある」というような状況では非効率性が存在する。それがビジネスになるという考えで、つまりは証券ビジネスでの経験の延長。ところがどれも河野の考えにぴったりと収まる事業はなかなかなかった。


「会議室貸します」で近隣の客が殺到

こうして模索を続けているときに、ある建設会社から話が舞い込んだ。六本木のミッドタウンの近くでビルを借りてくれないかというものだった。そのビル、訳ありビルだった。そのビルを取り壊したかったのだが、2、3階2、3階は立ち退いてくれたものの、1階は店舗が入り営業していたのだ。そこで2、3階をいくらでもいいから借りてくれといわれたのである。結局2フロアを20万円で借り、3階部分をミッドタウンで工事をしている建設会社に事務所として25万円で貸した。これでとりあえず、利益を確保した。そこで考えたあげく、2階部分を貸し会議室にして近隣の企業に貸すことにしたのだ。とはいえ、チラシを作るほど手間もかけられず、ネット上で募集した。ところがそれに企業が殺到したのだ。
 
ここで、河野の賃料を決めるプロセスが面白い。喫茶店で会議をするとしたらどうなるか、と考えたのである。例えばスターバックスで打ち合わせをするとしたら1人当たり300円程度かかる。しかも、1時間くらいが限度だ。
 
それなら1人1時間100円で貸したら、使ってもらえるんじゃないかと考えた。結果としてこれが決め手となり、1日2?3回転して、月100時間の実績となった。1時間平均で5000円として、月額50万円の収入である。
「訳ありのスペースは都内に多い。これはいけるのではないか」
 
河野は本格的にこのビジネスの将来性を模索し始めたのである。

(この項続く)

(2010・4・28)


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