【第53回・後編】一泊109円をもらえる旅行代理店を急成長させた「お試し」のモデル

クーコム株式会社

信用してくれない人に綴った3ページにもわたるメッセージ
 
クーコム株式会社の会員が増え始めたのは、ネットでサービスを開始して1年ほど経ってからである。1泊1200円という信じられないような値段設定で逆に不審がられたものの、やはり価格の魅力の力は大きくそれが支えになっていたのだ。とはいえ会員数はまだ微々たるもの。それでも問題は絶えない。今度はサーバーに問題が起きた。

もともとこのサービスを行なうときに、プロバイダーから商売に使うなといわれていたのを、その会社の社長に説明に行き、社会的意義のあるものだからどんどんやれと励まされてスタートしていたのだが、1年ほど経つと「うちのサーバーから出て行ってくれ」といわれたのだ。
「そのサーバーは何100人で共用していたのですが、実は回線の98%をわれわれで使っていたことが分かったんです」と西村は述懐する。
 
会員数こそまだ増えていなかったが、問い合わせが急増したことでサーバーを独り占めする結果となってしまったのだ。
 
そのとき西村は考えた。見に来てくれる人がこんなにいるのに、なぜ会員数は少ないんだろう。素朴な疑問だった。だから、「信用できない」と文句を付けてきた人がいれば、用紙3ページにびっしりとこのビジネスの意義を書いて戻した。それで「感動した」といって会員になる人もいたほどだ。


詐欺の会社か、凄く強いネットワークを持っている会社
 
転機はやがて訪れた。興味はあるのに今ひとつ信用できないと考える人がいるなら、一度試してもらえばいいんじゃないか、と西村は考えたのだ。
 
このお試し会員制度がこのビジネスを爆発させることになる。
「使ったら一人840円をいただくということにしたんです。すると、それまで100~200人くらいしか会員がいなかったのが、一気に1万人になったのです(西村)」
 
一度お試しで会員になった人はそのとき1回しか使えない。しかし、その格安の体験を味わうと、このサービスを信頼するようになる。そういう人たちが、正会員になっていったというわけだ。
 
こうして事業開始から1年半ほど経つと、そこそこの利益が出始めた。それまでは一人でガムシャラにやっていたビジネスだが、営業のできる先輩や弟などを引き込み4人の体制を作り、自宅を出て事務所も借りた。
 
この頃、まだ自宅でやっているぎりぎりのときに一人の男が訪ねてきた。それが日本ベンチャーキャピタルの社長・奥原主一だった。日本ベンチャーキャピタルの役員構成を見ると、奥原の交友関係の一端が分かろうというものだが、取締役には名だたる財界人が20人近くも名を連ねている。
 
その奥原がこのクーコムに注目したのだ。
「うちの会社のことを、詐欺の会社か、もしくは凄く強いネットワークを持っているやつがやっている会社かそのどちらかだ、という感触を持って来られたようです」と西村は当時を振り返る。結果として西村は認められ、そして「そろそろ予約システムを作らないと回らなくなる」と指摘された。
 
そして増資をした。会員登録の自動化、予約の自動化などが行なわれた。


空いているところに客を送るといっても断る業界慣習
 
さて、会員数は増えていったが、肝心の旅館の方はどうだったか。現在3000軒の旅館やリゾートホテルが同社の会員を受け入れているが、最初はやはり大変だった。
「最初の頃、旅館にはパソコンがない、インターネットもつないでない、という環境でしたからね」と西村はいう。それに加えて、旧態依然とした業界の観衆や雰囲気があった。「空いているところにお客を送ってあげるといっても、『いやいらない』という状況のところが多かった(西村)」から当然プランも同社サイドで作って持っていった。
 
宿から1円も貰わない同社の仕組みにおいても、旅館を説得するのが難しいとしたら、業界はいったい何をやっているのかと思ってしまうが、それがまた現実なのだろう。こういう商慣習のなかで会員数や参加旅館を伸ばしていけたのは、ひとえに西村の思いによるところ大なのだ。
 
それは、会員にとって不透明なところをなくし、会員にも意見をいってもらいながら旅行業を変えていきたいという思いである。
 
前回紹介した同社ホームページに掲載されている社長のメッセージは、そんな熱い思いの集積だし、その良さを広めたいという熱心さの現れである。
 
考えてみると、泊るとただどころか109円貰えるという宿も、仮に同社が25000円で仕入れたとして、それによる集客効果が高いならば宣伝広告費として十分にペイする話である。


インバウンドをやるときはアウトバウンドも一緒にやる
 
旅行業界では、昨2009年がネット旅行事業元年といわれている。最大手のJTBが200店舗を閉鎖し、ネットに展開していくことを発表した。
 
そんななか、同社は旅館だけでなく新たな展開を次々と見せている。
 
その一つがレンタカーだ。あまり知られてないが、同社はレンタカーのアウトレットも行なっている。
 
そのサイトを見てみよう。会員になると各社のレンタカーが最大で50%オフ、54%オフ、最大77%オフなどの魅力的なコピーが並んでいる。面白いのはこれを利用する人の半分くらいがインバウンド(外国からの)客なのだそうだ。
「インバウンドはこれから大きくなる市場です」と西村は指摘するが、まだまだ課題も多いという。現地に根付かないと、向こうからの集客は難しいのだそうだ。それでも西村の目はその将来を見据えているように見える。
「インバウンドをやるときはアウトバウンド(外国への旅行)も一緒にやります」と抱負を語るのだ。
 
現在、同社の会員数は90万人である。その数の評価を西村に問うと、「まだまだ少ない」と答えた。楽天トラベルの売上は2800億円。せめてあと10倍にしたいというのが本音なのだろう。
 
最後に聞かずもがなのことを聞いた。
「そもそも日本には宿が多すぎるのではないか」と。
 それに対する西村の答えは明確なものだった。
「満足度が低いから客が減っているだけです」

(2010・3・10)


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